集落から急坂を自転車を押し上げること数十m、標高888m地点。ここからスタートです。
小さな館物は簡易水道施設、茂来山は水源の山でもあります。
民家はありませんが、この辺りまでは農地もあります。
東方向には上州の山々、茂来山は秩父山系の西端に位置すると言われています。
木々の間に覗くのは茂来山ではありません。山懐に入れば山頂は望めません。
コナラの黄葉です。今年はドングリや栗はまずまずの実り…少し安堵する。
ここから少し飛ばします。この先には採石場があり、30数年の間の山体が一つ消えている。
同じ様に歩くなら目にしたくない光景だと思う。長い区間ではないがそんな林道歩きのあるルートです。
右手には沢が走るから沢詰めすればよいようですが、2019年の台風で荒れた渓は今も倒木に難儀します。
実際この林道自体のも土砂に埋まり、何年かは車が入れませんでした。
その沢にある三段10mほどの滝です。沢の名は霧久保沢、詰めるにはそれなりの支度が必要となります。
滝を過ぎたあたりから沢は右手に浅くなり…あくまでも林道との関係ですが…
沢を横目に気持ちのいい林道歩きになります。
カエデの仲間の多い渓です。一番多く見られるオオモミジです。
流れとの間の平坦な場所には植林と思われる落葉松が目立ちます。
昔、薪炭林として活用された後に植えられたのかもしれません。
この山を代表する樹のひとつ、トチノキ。この先には巨樹百選に選ばれたトチノキがあります。
一時期それを目当ての登山者が大挙して… 残念なことに山はおおいに荒れてしまいました。
どの木の色づきも年々遅くなっています。
風が吹くたびに落葉松が金の雨を降らしました。
誰の手も借りずに、谷の深さだけでここの落葉松は真っ直ぐに天を衝く。
北向きのこの谷は日照が限られる。一条の光が運ぶものが だから大きい。
このオオモミジは早くにこの山で覚えた木のひとつです。
三十年を過ぎおおきくなったなあ…と感じるこの山での私のランドマークひとつです。
夏の暑さが長引いたためかためか、いつになく枯れあがる葉が多いです。
日照の少ないこの谷でも、赤く染まったのはオオモミジくらいでした。
だいたい標高1000m地点。最初のミズナラに出会います。
最後まで落とさない葉と大きなドングリ…ミズナラは大好きな木です。
三幹の大きなアカマツに、ミズナラ、オオモミジ、落葉松が寄り添います。
引きのない場所で納め切らないですが、必ず立ち止まる場所になっています。
沢伝いに移動する動物たちは多い。昼なを暗い谷は彼らとの出会いの場所でもあります。
写真では一跨ぎに見えますが、このあたりでも川幅は二間以上あります。
この谷の深さがお分かりいただけるでしょうか。
林道脇に幅五間ほどの露岩を見る場所があります。
この場所ではコウモリによく出くわします。見つけていただけるでしょうか?
コウモリには不案内で確かにはわかりませんが、同じ場所を繰り返し飛ぶ様子、
体の大きさ〈大型の蝶くらい)からコキクガシラコウモリではないかと思っています。
写真データからは少なくとも30数分、この場にいた間一度も飛行を止めないのに驚きました。
この露岩に一か所空いた洞があります。
落ち葉に隠れていますが、洞内だけでなく壁面の手前は通年同じ水量で満たされています。
この洞は幅1mくらいですが、コウモリは度々行き来し長いときは2分ほど戻りません。
茂来山には少し戻った場所にタタラ製鉄の遺構跡があります。
江戸末期の短い期間の様ですが、砂鉄ではなく鉄鉱石を用いた珍しものだそうです。
そうして見るとこの洞は、かつての坑道のようにも思えます。真相は謎ですが…
タタラ遺跡の看板です。
再び林道を外れて沢筋を歩きます。
今日の目的は登山ではありません。倒木は2019年の台風の爪痕です。
さてここらで珈琲タイムとしましょう。
私は夏場にこの渓で釣りをします。今年は5年ぶりに竿をだしました。
台風後、麓の集落の方々から岩魚…全てこの渓の居付きです…の絶滅の話を聞いていましたから。
なるほど下流域では魚影はなく、短く区切って何度か入渓を繰り返しました。
岩魚は残っていました。ずいぶん数も場所も減らしながらも。
あと数年も渓が荒れなければ戻るのかな… たぶんその頃には竿を下ろしているでしょうが。
この沢の水で珈琲を淹れる。今日はそれを楽しみのひとつにやって来ました。
どんなに荒れても、山も渓もあるべき姿に帰っていくように思います。
やがて穏やかな滑〈なめ)の続く場所が現れます。
今日の終点が近づく頃、茂来山からの沢が合流します。
この沢の源頭は茂来山の標高1300m付近。霧久保沢は茂来山と隣山のつくる谷を流れます。
ここが一般的な登山口、私の本日の終点となる標高1050m地点です。
ずいぶん広い駐車スペースとなっています。中型のバスが団体を運んだ時期もありました。
山はどこから始まるのだろうか。島や富士山のような山なら海抜0mからかもしれません。
さすがに長野県のように人住む標高の高い場所ではそうはいきませんが。
だんだん少なくなっていますが、私は麓の集落が起点になると思っています。
茂来山はそんな山のひとつです。
最初の入山時、近年まで炭焼きがされていた言わば里山が、こんなに豊かな山として残っていることに驚きました。
写真の起点が888mと書きましたが、実際自転車を押して歩き始めるのは780mくらいからです。
登山口まで僅か標高差270mほど。登山口から山頂まで670mほどです。
しかし茂来山の魅力の半分はこの麓の部分にこそあると思っています。
地の利があるとはいえ、私にとってこの山は生涯最も多く歩いたことになるだろう山です。
歩くたびにまた一つの木の所在を知り、花の咲く時期やその終の姿を知りました。
多くの動物や鳥たち、魚や虫たちに至るまでこの山で知りえたことはとても多いです。
そしてその何倍もの知らないことが山積みとなって今日に至っています。