都市伝説、キター! こんにちは、長澤パオみでーす。カラダにピース!
あらためましてこんにちは、パオロ・マッツァリーノです。最近、新たな都市伝説を発見しましたので、いち早くブログ読者のみなさんにご報告します。
「女性が電車の中で化粧をしているのは日本だけだ。西洋の女性はそんなことしない。なぜなら、人前で化粧するのは売春婦が客引きするサインだから。西洋に行って人前で化粧してたら、レイプされても文句はいえない」
これ、日本人なら耳にたこができるくらい何度も聞いたり、活字で目にしたりしてるんじゃないかと思うんですよ。
日本の若い女性が海外のホテルのロビーで化粧をしていたら、知らない男につきまとわれてハウマッチといわれたとか、まことしやかなエピソードもあるのですが、どうも私にはそれがみんな作り話っぽく聞こえてたんですよ。そういうわけで以前から、人前での化粧は日本だけ説&売春婦説に疑いの目を向けてました。
こういうときこそ、世界の声がすぐ聞けるインターネットは便利です。グーグルで"applying makeup in public"と検索してみてください。英米だけでもとてつもない件数がヒットします。他の言語でも検索したら、もっと増えるはず。
http://www.dailymail.co.uk/femail/article-2108147/Two-thirds-British-women-apply-make-morning-commute.html イギリスで調査したところ、およそ3分の2の女性が、通勤電車の中で化粧をすると回答した、とあります。イギリス女性の3分の2は、レイプの危険もかえりみず、通勤中に化粧をしているのでしょうか。
ただしこの調査は、調査方法などの詳細が明らかにされておらず、かなり怪しいです。忙しい貴女にこれがおすすめ、なんて化粧品の広告とタイアップしてますし。3分の2の女性が日常的に電車で化粧をしているとは、さすがに信じがたい。化粧したことがある、くらいの回答だろうと考えられます。
http://www.temptalia.com/do-you-apply-makeup-in-public こちらのアメリカの調査には実数が明記されてます。あなたは人前で化粧をしますか? の質問に3810の回答があって、その結果は、
化粧直しくらいなら、たまにする 59%
したことない 29%
してる 11%
うん、こちらのほうが実態に近いのではないかという気がします。
さまざまな検索結果からわかるのは、海外でも電車内や人前で化粧する女性はけっこう存在するという事実です。あれは日本だけの現象であって、海外では見たことない、という日本人の説は、あきらかにまちがいです。
海外でも、人前での化粧はマナー違反だと憤る人と、いいじゃないかとする容認派の議論は、かなり盛んに行われています。
http://www.the-beheld.com/2011/06/applying-makeup-in-public-preserving.html このコラムなんか、けっこうおもしろい。ニューヨーク在住の女性
(コラムの筆者)が、友人の女性と地下鉄内のマナー違反について話してるところからはじまります。ケータイ使用、足を投げ出して座る、なんてのは日本と同じ。本を読んでると、なに読んでるの? と聞いてくるウザいヤツがいるってのは、日本ではあまりないですかね。
そして筆者は、パウダーはたいて化粧直しするくらいならともかく、フルに化粧をする女は許せない! と怒るのですが、それを聞いた友人は真顔になります。アタシもしてるんだけど?
「化粧品の粉が散らばるから、吸い込んだら不衛生でしょ」
「あんた、パウダーはたくくらいなら許すっていったじゃん」
「マスカラ塗ってて目を突っついたりしたら危ないし」
「自分で自分の目を突くなら自業自得。あんたの目を突くわけじゃない」
そしてコメント欄では、読者を巻き込んで批判派・容認派の間でさまざまな議論が交わされます。
議論をまとめると、批判派が多数で、容認派は少ないです。容認派の主張の代表例は、忙しい朝には電車に乗ってる時間は貴重だから有意義に使うべき。電車に乗り合わせた人は自分とは無関係の他人だから、すっぴんや化粧途中のヘンな顔を見られても平気だ。職場の人にすっぴんを見せるわけにはいかない、というもの。
それに対し批判派の反論は、電車に乗り合わせた他人だって、自分と無関係ではない、見苦しい化粧姿を見せるのはマナー違反だと、いたって常識的な意見。まあ海外でも常識が主流だとわかって、ちょっと安心しました。
不思議なのは、こんなに大勢で議論してるのに、人前での化粧は売春婦の客引きだから、という意見はひとつもないことです。
(なお途中、娼婦という単語が一度出てきますけど、これはコラムに使われた古い絵画についてのコメントなので、念のため。) そしてついに、都市伝説の尻尾をつかみました。
http://www.lonelyplanet.com/thorntree/thread.jspa?threadID=1972125 ロンリープラネットという、旅行ガイドブックなどを発行している会社のサイト内の質問掲示板で、カナダ在住の人がこんな質問をしています。
「ヨーロッパでは地域によっては、人前で化粧をすると売春婦とまちがわれるのですか?」
機械翻訳に頼っているかたは、これを読む際には注意してください。皮肉がこもったコメントばかりが並ぶので、言葉の表面だけをすくい取ると、誤読するおそれがあります。
といいますのは、ネットではありがちですが、この質問を、ヨーロッパ人への侮辱・挑発ととらえた人たちがいて、彼らは皮肉を交えた攻撃的な調子で質問者を責め立ててるんです。
フランス人のコメント「私はヨーロッパ各地で、人前で化粧する女をたくさん見てきたが、彼女たちを売春婦と思うなんてありえない。いかにもという服装で、街角や赤線地帯に立っていることが、客引きのサインだろう。きみの質問はトップテン級のバカげた質問だ」
それに対して質問者はこう弁解します。「私はカナダに住んでますが、多くの日本人が、人前で化粧するのは売春婦だという説を信じていると聞いたので、本当なのかなあと思ったんです」
なんと! この都市伝説の発信源は、やはり日本人だったのです。外国人がだれも知らないウソ常識を、日本人が広めていたとは。するとべつの回答者が「多くの日本人は、オランダ人は風車が立ち並ぶ中を木靴を履いて歩き、チューリップ畑で大麻を吸ってると思ってる」とステレオタイプを皮肉ります。
ベルギー人のコメント「ブリュッセルに来れば、きみのいう売春婦とやらを毎朝たくさん見られるよ。ここでは通勤時間の渋滞のなか、車の運転をしながら化粧をしてコーヒーまで飲んでる女がいっぱいいるんだ」欧米では、電車内の化粧と並んで、クルマで通勤する女性が運転中に化粧をしてる例がかなり報告されてます。
べつのコメント「きみの質問は、ヨーロッパの人がカナダの人に、トロントの街ではしょっちゅうシロクマに襲われる人がいるってホントかい? と聞くのと同じくらいバカげてる」
あんまり叩かれて質問者がへこみ出し、やりすぎだとの声も出たので、みんなさすがに皮肉をやめて取りなします
(ホントは日本人のせいなのにね)。べつにきみを個人的に攻撃してるわけじゃない、バカな質問に呆れたんでちょっと悪ノリしただけだ。ただ、その質問への答は、ノーだ。
オーストラリア人のコメント「人前で化粧したら売春婦にまちがわれたなんて話は聞いたこともないけど、むかし、古い映画の中で売春婦が街角で化粧してるシーンを見た記憶がある」ウワサを広めた日本人も、その映画を見てたのでしょうか。
今回判明した事実をまとめておきましょう。
・人前や電車で化粧をする女は日本だけでなく、世界中にいる。
・海外でも大多数の人は、それをマナー違反だとみなしている。
・ただし、その理由は見苦しいから、という常識的なものであり、
・西洋では人前で化粧をするのは売春婦の客引きサインというのは、日本だけで通用する都市伝説にすぎない。
・西洋人のなかには、その都市伝説を聞くと侮辱されたと感じる人もいる。
ですから日本のみなさん、および、マナー講師のみなさんに警告します。みなさんのマナーの常識をいますぐ改めてください。
日本の若い女性が海外に行き、人前で化粧すると、まずまちがいなく軽蔑されます。しかし、売春婦と間違われたり、レイプされることはありません。尻軽女と思わせるのは、人前での化粧でなく、派手で露出の多い服装のほうでしょう。
むしろ危険なのは、日本の中高年やマナー講師のみなさんです。ヨーロッパに行って、「人前で化粧するのは売春婦」などというデタラメを得意げに口にすると、ヨーロッパの人たちは侮辱か挑発とみなすおそれがあります。袋だたきにされたり、レイプされたりしても知りませんよ。