カテゴリ:もの書き稼業
というわけで、まず前の記事をお読みください。あ、興味のないかたはスルーしてね。
まあ似非科学に限らずなんだけど、人は自分の意見を押し通したいとき、意識するしないに関わらず、いくつかの典型的なトラップを文章中に設けます。あ、オイラもそうです。ライターですもん、基本基本。 非常に説得力を感じる文章でこれらのトラップを見つけたら、自分の足もとをよーくご確認ください。気づかないうちになんか挟まってたりしますんで。 さて、前の文章でオイラが使ったトラップが、どんなものだったかといいますと。 1.一般的でない単語や専門用語(そのジャンルにウトい相手であれば、「それらしい」だけで充分)を並べる。 追試、対照実験、条件を揃える、などと言っております。これはひとつ、まっとうな反論なんで「トラップ」扱いは辛いのですが、まっとうであるがゆえに極めて高いトラップ効果を生みだしてもいます。これは相手に「私の知らないことを詳しく(科学的に?)知っている人」の印象を与えます。「○×力」「○×エネルギー」「○×作用」系列の物理学風造語は、その最もお手軽な例のひとつと言えるでしょう。 2.自分の体験を入れる。 紙ピラミッドのトコですね。「経験」は、反論の余地を与えません。「だってホントにそうだったんだもん!」で会話終了です。ただ、ただねえ・・・。「私は酒もタバコも妊娠中ばんばんやったけど、子どもは問題なく生まれたよ! 妊婦に酒も煙草もオッケー! 私が保証する!」と言われたら、かなり引きます。「酒タバコは胎児に悪い」という、すでによく検証された定番扱いの常識があるからです。 これが最も効果を上げるのは、「○×ペンダントは幸運を呼ぶか」「水は日本語を解するか」などの、ほとんど検証されたことのない事柄に関してでしょう。 3.話題的には近いが、ちょっと遠い、あたりのトリビアを入れる。 盲導犬への指示なんて、本筋とは関係ないですから、割愛してもいいはず。ならばなぜ入れるか? これは高等テクニックですよー。引用を間違えると逆に鼻につきますが、うまくやれば「モノ知りなんだ!」と、話し手のメディア力を高める効果があります。「余談ながら」というパターンもそうですね。平賀源内のCMってネタでも書きましたが、モノ知りさんの言葉には説得力を感じますから。 4.感情を刺激する。 新生児に試してみろよ、という切り口の部分です。こんな話を聞かされてビクつかないなんて、もしやあなたはレプリカント! というニュアンス。ただ、この手法が見え透くと、「泣き落とされたあと、相手が舌を出すのを見てしまった」状態で、ものすごおおおーーーーーく腹が立つので注意していただきたい。聞いてッか学習教材の勧誘電話。「可愛いお子さんのために○×してあげたいと思いませんかあ?」って、少なくともお宅んとこの教材は使わん! 5.対象物への、論理性のないケナし文句を使う。 「下劣」とか「バッタもん」とか書いてますが、これ、根拠なしにいきなり使っても、かなり効果高いです。その単語自体が衝撃を与えますし、論理性がないので反論の隙を与えない。これに反論することは、相手と同レベルに落ちるということですから、とりわけインテリの自覚がある人は反論の言葉に詰まりがちです。あっさり反論できるのは、子どもと田嶋陽子先生だけです。オイラも先生に倣って、「ブス!」と言われたら「うるさいハゲ! ワカメ食って寝ろ!」と倍返しできるようイメトレしてます。 話がそれました。えっと、この言葉を相手ではなく、批判の対象である思想なり人物なりに与えることは、「そんなものを信じたら、あなたは下劣」と暗喩しています。相手を直接攻撃するのではなく、逃げ場を作りながら相手の現状を否定し、一種選択を迫ることになるわけです。ある程度の年齢以上の代議士さんて、なぜかこの方法をよくお使いになるかたが多いようですから、TVでコメントされるとき注目してみてください。「あんな馬鹿な話があるか」「頭が悪いんじゃないの」「くだらない」「おそろしいことになるぞ」などなど、たいへん語彙豊かな罵詈雑言を耳にすることができまして、勉強になります。 6.身近な話題にオトす。 なぜに「納豆」(笑)。ま、これも使い方は微妙かなあ。北野たけしさんとか、難しい話をストンと卑近な例にオトすのが上手で、これって共感を誘うだけじゃなく、上手い落差にできれば笑いをとれるんですよ。下手なセールスが突然何の脈絡もなく「私にも娘がいましてね」と語り始めたりするのもコレでしょう。 以上、思いつくままに羅列してみましたが、これらは相手の心に揺さぶりをかけるための単なる技術であり、良い悪いではありません。会話を盛り上げるノウハウとして、ごく自然に使われていることもあります。べつに使ったっていいんです。てか、使うといろいろスムーズにいくことも多いし。 ただ、こういう技術に日々磨きをかけている人間にとっては、低い技術レベルでこれらの手法が「これ見よがしに」使われているのを目にすると、か・な・り! ムカツキます。営利目的だったりすると、そーっと刺してみたくなります。 オイラが似非科学を苦手な理由のひとつは、そこにもあります。「根拠」を提示して相手に考えさせるのではなく、「説得力」で揺さぶりをかけ、思考停止を誘い、誘導しようとする。しかもオイラ、もともとがヘンなもの好きなんで、どんな根拠が聞けるのかな~と期待しちゃってる。そこに20年も前の環境測定データ見せられたり、下手くそな揺さぶりばっか聞かされたりすると、もー爆がっかりですわい。こんなことなら、ひとりで『ムー』読んでりゃよかった。ヒトラーの生まれ変わりの猫の写真でも眺めてたほうが楽しかった。 なので、ネタばらしをしてみました。 信じたくなったら、まずその文章の真偽より、文章の技術をチェックしてみるのも、ひとつの方法です。どれくらい自分が揺さぶられているかわかりますから。 「オレは酔ってない」と言い張る酔っぱらいと、「いかん、呑みすぎた」って思ってる酔っぱらいくらいの差は、生まれるはずです。 ま、どのみちクルマは置いて帰るしかないんでしょうけど。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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