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BL主腐日記

炎の蜃気楼

「炎の蜃気楼」 

原作:桑原水菜
全40巻+5.5巻&20.5巻 1990~2004年 コバルト文庫



 戦国時代の武将であった上杉景虎は謙信より怨霊調伏の命をうけ、
4人の仲間(夜叉衆)とともに人の体を奪いながら長い時を生き続けます。

 仰木高耶という名で現代に蘇った景虎は活性化する怨霊群との戦いに身を投じて行きますが、
物語は夜叉衆の一人・直江信綱との関係を軸に展開。

彼らは魅かれあいながらも反発し「追われる者と追う者」「光と影」「死にたい男と生き続けたい男」というように常に対照的。
両者とも恐ろしくプライドが高いため劣等感・優越感・羨望・嫉妬と複雑な感情が錯綜し、優しいだけの絆が結べません。

 ミラージュはこの二人が葛藤の末に「永遠の愛」をいかに掴むかを描いた物語ですが、
それだけに止まらず夜叉衆や様々な戦国怨霊との友情そして戦いを織り込んだ奥の深いファンタジー小説です。


「炎の蜃気楼」は400年に及ぶ男と男の愛憎劇を描いた究極の恋愛小説である


 ミラージュは自分と向き合う心の葛藤がかなり濃く書かれている作品で、
特に直江は日本一苦悩する男ではないかという程の回りっぷり
このグルグルは時に滑稽でへタレな感じさえするのですが、文章に不思議な吸引力とジェットコースター的な勢いがあるため
キャラの苦しみに引きずり込まれます(これぞ桑原節!)

なので全体的にカッコイイ文章と脳裏に焼きつく桑原節的名台詞多数ですが、
この反面ウケをねらっているのか定かでない妙な譬えや表現も多く、怨霊調伏ものだけに「あり得ない・・」という突っ込み所も満載。
とにかく心臓鷲掴みな萌え場面とビックリな赤面場面が一杯な、いろんな意味で爆走読みできる小説です。


 ミラージュとの出会いは2002年1月からキッズステーションで放映されたアニメでした。
アニメ的には正直レベルが低く内容も???でしたが、えもいわれぬ暗さとねっとり感に魅かれ最後まで見てしまいました。

 そしてネット上のあらすじから高耶と直江がプラトニックラブで終わらない事実にオロッとなっていたにも関わらず(ホントです)
たまたま図書館で原作を手にしたのが運のつき。

完全に外縛状態になってからは野菜を茹でていようが、掃除機をかけていようが常時読書。
1日に5冊読破した日もあって(16~20巻)、気がつけば1カ月で番外編を含む40冊を消化。

後にも先にもこれだけ大量の本をムチャ読みしたり、架空の話にこれだけ泣かされることはないでしょう・・。
とにかく読書で死にかけるというお初な体験をさせてもらいました(笑)。

 リアルタイムで楽しんだのは(苦しんだのは)ラスト7冊でしたが、
1冊1冊出るたびに動悸・息切れ状態で、いつも最後の方にページが近づくと読むのがもったいないと思うほど・・。
出会ってたった2年で終わってしまいましたが、一生忘れられない物語であることは確かです。


 この小説は物語を楽しむだけでなく、嵌ると旅行に行きたくなるというオマケが付いてきます。
登場人物が日本各地を動き周り、行き先は必ず実在する土地なため、ツアー本まで出版(しかも3冊)。

泊まったホテルもモデルがあり、使用グッズもやけに銘柄指定なので
(例えば直江の乗っていた車はセフィーロで、吸っているタバコはパーラメントであるとか)
そのホテルに滞在し、目の前をセフィーロが走ればこの上ない幸福を実感できます(笑)。

 実在する土地については有名所がほとんどですが、新潟の春日山城跡や米沢祭りなどはミラージュがなければ
歴女が大量に訪れることはなかった筈。

そういう意味でも上杉景虎・直江信綱という戦国時代の負け組みを見つけた桑原水菜の眼は偉大であるし、
町興しに一役かった作品であることは確かです。
(ただ、新潟や米沢の人たちがどれほどこの小説の内容を知っているかは定かではありません。・・まさか801とは思うまい/笑)。


 この物語の数多くの登場人物の中で私は直江が無節操に好きです
 景虎に対する異常な執着愛ゆえに回っても回ってもツメが甘く、エゴイストで突然狂犬になったりする悪党ですが、
結局どんなに踏みにじられても、言うことを聞いてもらえなくても主人激愛!

体をはって景虎を守ってしまうM系な彼ですが宇宙一の深い愛と強さには脱帽。
とにかく容姿素晴らしく、優しく、激しく、包容力ありの直江は無暗やたらにカッコよく、
どんな漫画や小説を読んでも擬似直江探しをやってしまうほど・・
本当にこの人で人生を踏み外しました(笑)。


 ミラージュは読後泣かずにはいられない切なく痛い小説でしたが、生死の理を考えさせられたり、
歴史に埋もれた無名の人々に思いを馳せることができたりと普通のBL小説からは考えられない深さがあり、
そして登場人物の決してあきらめない姿勢と冷めぬ「愛」にはひたすらひれ伏すしかありません

 妥協と移ろう愛が溢れかえる現実生活から程遠いこの物語はただ「面白かった」だけでは済まされない何かがあって、
それはハマッタ人に桑原水菜の言う「精神的精子」が根付いてしまう魔力と言うべきか・・
夥しい数の同人誌とファンサイトを生み出す力となったのです。

 「炎の蜃気楼」は力強く激しく不屈で時としてもろく、出会って魅入られたら最後焼き尽くされてしまうような、
正に物語全体が主人公・仰木高耶そのもの。
そしてこの高耶に心をもっていかれた直江は即ち私たち読者なのです。 


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