カテゴリ:ソフトウェア
なんだか、最近、Flashこそ悪の象徴で、HTML5規格が完成すれば、すべてが解決するかのような能天気な論調がはびこっていて、非常に気持ち悪い。
元NTTドコモの夏野氏までが、こんなことを言い出している。 夏野剛氏が講演、HTML5で大きく変わるテレビのビジネスモデル HTML5では、これまでJavaやFlashのプラグインの追加が必要だったアプリケーション実行環境が、Webブラウザー単独で実現できる可能性が高い。つまりHTML5対応ブラウザーをテレビに搭載するだけで、アプリケーションのダウンロード販売が行える。本当だろうか? HTML5に関して、よく言われていることを詳しく分析してみよう。 ・Flashで出来ることは、HTML5でも出来る→△ これは、ある程度本当だ。HTML5は、ベクタグラフィックスのアニメーションについては、SVG規格を取り込んだことで、似たことが出来るようになったし、Flashのアプリケーション処理を記述するActionScriptは、JavaScriptとDOMを活用すれば、代用できる部分が多いだろう。 実際にFlashアプリを、HTML5コンテンツに変換するツールも開発されつつある。 もちろん、細かな仕様の違いはあるので、全く同じことが出来るわけではないが、そもそもHTML5というものが、HTMLだけでFlashと同等のことができるようにすることが目的の一つだったので、当たり前といえば当たり前だ。 ・Flashは処理が重く、HTML5なら軽くできる→× Flashの実装は、携帯電話やデジタルテレビのCPUでは処理が重く、実際パソコンのようには滑らかなアニメーション表示が出来ない、とか、CPUをフルに使うのでバッテリーの消費が激しい、とか、やたらメモリを食うなどという不満はよく聞く。 しかし、HTML5がそれに比べて軽くなるかというと、本当だろうか? FlashのActionScriptはECMAScriptという規格を拡張したものだが、実は、HTML5のJavaScriptを標準化した規格がECMAScriptなので、実は言語使用自体は大差ない。HTML5のSVGも、処理の重い点は、ベクターグラフィックスのレンダリングやバッファリングであり、この点では、Flashだって技術的には大差ない。 メモリの面についても、Flash自体の消費メモリは大きく、下手をすると用途次第では、プラグインだけで、ブラウザ本体と同じぐらいか、それ以上のメモリを割り当てる必要がある。しかし、HTML4からHMTL5に対して拡張した機能をまともに動作させるには、当たり前だがブラウザ自体が大幅にメモリを消費すると予想される。その根拠は、HTML5がやろうとする実際の処理が、Flashと大差ないからだ。 テレビや携帯のCPUでは重いFlashコンテンツが、HTML5なら軽々と動くなら、メーカーは嬉しいが、夏野氏の講演でも、あっさりと、HTML5のブラウザを動かすのに、AtomクラスのCPUが必要であることを白状してる。 いや、Atomがあれば、Flashだってまともに動くって! ・HTML5になれば、製品間の互換性が高まる→× Flashのエンジンは、基本的にAdobeが管理した単一ソースコードから実装される。しかも、規格上必須とオプションの機能は明確に定義されており、オプション機能の有無もコンテンツから明確に判別できるように仕様が規定されている。 動画配信についても、AVコンテンツのストリーム形式やコーデック、ストリーミングプロトコルなどは厳格に規定されている。 また、Adobeはかなり厳格な互換性テストツールを用意しており、これに合格しないと、Flash playerの名前をつけさせてもらえないから、結果として、Flash実行環境の互換性は、同一バージョンであればかなり高い。 それに対し、W3Cでは、規格は決めるが、決めた規格の中で、何が必須なのか、必須機能の範囲は基本的に定めない(Compact HTML規格という例外はあるが)。 また、ブラウザの互換性をテストするような仕組みは持たないし、ツールも提供されない。HTML5対応を謳っていても、どの機能まで対応しているかは、ブラウザを実装する側の自由だということだ。 現実にも、Opera、Safari、Chromeの間の互換性は必ずしも高くないし、HTML4でもそうであったように、互換性問題を完全に解消する手段をW3Cは持っていないのだ。 また、AVストリーミング関係の機能については、HTML要素、属性の規定は共通化されるが、実際に流すAVコンテンツのストリーム形式やコーデックについては、W3Cでは規定しないため、HTML5準拠のブラウザがあって、HTML5対応の動画配信サイトがあったとしても、必ず動画が見られると言う保障はない。 ・Flashはセキュリティ対策が悪いが、HTML5にすれば解決する→× セキュリティホールの多寡は、ソフトウェアの品質管理の問題であり、Flashに問題があるとしても、HTML5ブラウザであれば大丈夫、なんてことはどこにも保証はない。実際に、HTMLブラウザを実装する会社の品質管理体制次第だ。 また、発見されるセキュリティホールの多さは、ある意味、そのソフトウェアの利用頻度の多さにも比例するところがあり、Flashのセキュリティホールの多さが、必ずしもFlashの品質が悪いという理屈にはならない。 Jobsは、Adobeのソフトウェア品質管理を非難したが、私自身は、Appleがよくそんな口がきけるよな、と思う。初期のSafariの致命的バグの多さといったら、セキュリティホールうんぬんのレベルではなかったことを、私は忘れない。 ・W3Cによって標準化されれば、すぐに全世界に広まる→× W3Cにも、作ったけれど使われていない屍規格はたくさんあり、そんな保証はない。 しかも、現在、HTML5の規格提案を行っている会社は、どこもPCやハイエンドのスマートフォンクラス用のブラウザを前提とした提案を行っており、CPUパワーもメモリも大変リソースリッチなシステムが前提になっていて、携帯電話やテレビで実装しやすい仕様なんて配慮はどこにもないと言っていいい。 HTML5は、パソコン用のブラウザに広がるのは、情勢的に間違いないだろうが、携帯電話やテレビに載るのは、一部(GoogleTVやCELL REGA)を除いて、だいぶ先の話になるだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年06月16日 00時49分55秒
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