あれ?イタリア議会がP2P音楽共有を合法化?

イタリア イタリア議会が通した新たな著作権法では、非商用かつ、劣化したものであれば、インターネット上で自由の音楽を共有していることを認めているよ、というお話。もちろん、これは積極的に認めているというよりは、消極的な制限という類のものになるのだろうが、問題はその「劣化した」という部分。もともとのデータがCDであれば、非可逆圧縮のかけられたMP3などの音楽ファイルは、もとのデータから劣化したものとも考えられる。そうなると、現在の違法ファイル共有において主にやり取りされている音楽データ、つまりロスレスでははい音楽データは著作権法に違反しない、ということになるのだろうか?

原典:Ars Technica
原題:Whoops―Italy inadvertently legalizes some P2P music
著者:Eric Bangeman
日付:February 01, 2008

イタリア議会は、無意識的にP2Pネットワークを介した音楽共有を合法化してしまったかもしれない。両院議会を通過した新たな著作権法は、それが非商用であり、劣化したものであれば、イタリア人がインターネット上で自由に音楽を共有することを認めることになるだろう。

イタリア人著作権弁護士Andrea Montiがla RepubblicaSlashdotで見つけたGoogle translation)に語ったところによると、法律を起草した誰もが、"劣化した"という言葉が"非常に厳密な意味を持つ"ことを考慮に入れることができなかったという。大手音楽ダウンロードサイトで販売されている全ての楽曲は、192kbpsのMP3であれ、128kbpsのAACファイルであれ、劣化したものである。したがって、新たな法律の下では、音楽ファンはP2Pネットワークを介して(ロスレスではない)音楽ライブラリを自由に共有することができるようになるだろう。

法律は「教育および科学的」利用のためにそのような共有を制限しているものの、法律の効力はP2Pの使用に対する訴追を困難なものにするだろうとMontiは考えている。それでも、イタリアでRIAAに当たる団体の会長はla Repubblicaに、それらは制限されているため、同団体が慌てるようなことにはならないと述べている。

新たな法律は、ここ数ヶ月に渡り欧州におけるいくつかの重大な法的後退を余儀なくされた音楽業界に更なる打撃を与える。今週初め、EC司法裁判所は、ISPが民事著作権裁判において加入者の身元を公表することはできない、それは刑事裁判においてのみであると判断している。そのような裁判はますますEU諸国において行われることが困難になっている。例えば、ドイツの検察官は著作権侵害に関する告訴の継続を拒否し、それらを「ささやかな罪」であるとした。また、スイスのアンチパイラシー企業が、刑事的な著作権侵害裁判を起こし、その後「得られた問題のネットユーザ」の個人情報を元に民事裁判に移行することで、この問題を回避している。しかし、スイス政府は現在、この慣習をやめるよう彼らに勧告している。

彼らが可決してしまった法律はもはや修正の仕様がない。必要となるのは、法律になる前に、公式ジャーナルにおいて公表することだけである。

まぁ、「劣化」が正確にどの程度のところを意味しているのかによって、今回の法律がこれまでの違法ファイル共有に対する免罪符となりうるのかが変わってくるのかなと思う。こういった部分に修正を加えることになるのか、裁判所が「劣化」を判断するのかはわからないけれども、、少なくともこれまでの違法ファイル共有が認められるということは、正直考えにくいけどなぁ。(追記:あくまでもこの法律は「研究・教育目的で」という制約があるので、そこまでいくこともない、って考え方もある。おそらく、イタリアの音楽協会の考えはそうしたものかと。この法律についての詳細は、無名の一知財政策ウォッチャーの独言でもフォローアップされているので、是非。)

それにしても、欧州でのこのあたりの展開というのはめまぐるしい。もちろん、上述されているように著作権侵害に対するアンチパイラシー団体の活動を否定するような動きもある一方で、より効果的に著作権侵害を予防するような動きもまた多く見られる。フランスでは、「スリーストライクアウト」方式で違法ファイル共有ユーザをインターネットから締め出そうとする動きもあるし、英国においてもISPが音楽産業と協力した取り組みができないのであれば、立法によってそれを強制するという動きもある(もちろん、こうした試みは米国においても見られている)。さらに、ベルギーにおいては、裁判所がISPに対し、P2Pファイル共有によって違法に流通するコンテンツをブロック・フィルタリングするよう命じている

欧州でのこのような動きが正しいかどうかは別として、適切な姿を模索しているということでもある。ISPに対するEU諸国の著作権保護要求が強まる一方で、EU議会は、ISPに対するフィルタリングの強制を否定し、アクセスと知的財産権とのバランスを保つよう求めているという側面もある。

今回のイタリアの件は、あくまでも拡大解釈をすればそういう可能性もあるという程度に収めたほうがよいかもしれない。ただ、イタリアを含め、EUにおける違法ファイル共有に関わる著作権侵害への対処を求める声が、今年もまた苛烈になるのは必然であろう。その辺もできるだけ多く伝えていければなと思う次第です。

最後に、この記事の中にあった、ドイツ検察が著作権侵害に対する告訴の継続を拒否したというのは、ドイツにおける刑事著作権侵害裁判が「民事訴訟のための被告の個人情報を取得する目的」で乱発されているという背景がある。

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