米論文:ファイル共有は音楽セールスにはほとんど影響しない

題名どおりのことを述べている論文が、権威ある学会誌に掲載されたよというお話。以前にも同様の論文についての話題が挙がったけれども、どうやらその論文を修正したモノが掲載されたようだ。骨子はほぼ同じとのこと。今回は備忘録みたいなものです。

原典:p2pnet.net
原題:File sharing: zero effect on downloads
著者:Jon Newton
日付:February 12, 2007
URL:http://www.p2pnet.net/story/11303

ちょうど2年ほど前、Felix OberholzerとKoleman Strumpfは、「The Effect of File Sharing on Record Sales: An Empirical Analysis(レコードセールスに及ぼすファイル共有効果:実証的分析)」を発表することで、Big4音楽カルテルによるアンチP2Pプロパガンダの計画をひっくり返した。

その中で、彼らは「正確な概算にもかかわらず、ダウンロードは統計的にゼロと区別がつかない程度にセールスに対して影響を及ぼす。」と結論付けた。それ以来彼らの研究は非常に反響を呼んできた。

現在、Journal of Political Economy (2007)に掲載された論文の中で、彼らはそれをもう一度行った。

ハーバード大学経営学大学院のOberholzerと、カンザス大学経済学部のStrumpfは、2007年にそのフォローアップ研究を公表した。そのタイトルは「The Effect of File Sharing on Record Sales: An Empirical Analysis」であり、その中で再び彼らは明確に述べる:「ダウンロードは統計的にゼロと区別がつかない程度にセールスに対して影響を及ぼす。」と。

今回は、彼らは更に「我々の予測は、ファイル共有は我々の研究機関における音楽セールスの減少の第一の原因であるという主張とは一致しない。」と述べている。
さらに、p2pnet.netでは著者に対してコメントを求めたようで、その発言からはどうやらこの論文は、以前公表したものの修正されたもの、といったもののようだ。ただ、その大きく違うところは専門家の査読を経て、権威あるトップジャーナルに掲載された、初のファイル共有に関する論文である、ということなんだそうで。さらにこの2人は現在、ファイル共有と映画についての研究も進めている模様。

で、実際の論文は未だにネット上には公表されていないけれど、そのアブストラクトだけは見ることができるので、以下に引用。

Felix Oberholzer-Gee and Koleman Strumpf, 2007, The Effect of File Sharing on Record Sales: An Empirical Analysis, Journal of Political Economy , vol. 115, 1-42
ソフトウェアから医薬、娯楽といった分野の産業にとって、知的所有権保護の適切なレベルについての激しい議論がある。インターネットに寄って情報をコピーするためのコストが大幅に引き下げられたことによって、インターネットは減らされた保護の意味を評価するために、当然の試練を課す。 本論文では、我々はファイル共有が合法的音楽セールスを減少させるかについて分析を行った。この問題が学術領域、産業、国会において高い注意を集めているが、本論文は、音楽ファイルの実際のダウンロードに関するデータを使用し、現象の研究を行う最初のものとなる。 我々は、多数のアルバムについて、米国セールスデータと、ダウンロードの広範囲のサンプルとの比較を行う。因果関係を確認するため、インターナショナルスクールの休日におけるデータを利用し、ダウンロードを観測した。 ダウンロードは統計的にゼロと見分けがつかない程度にセールスに影響を及ぼす。我々の予測は、ファイル共有は我々の研究機関における音楽セールスの減少の第一の原因であるという主張とは一致しない。

で、この研究、どうも毎年どっかで公表されているらしくて、調べてみたら複数の論文が見つかった。 すべて同じ「The Effect of File Sharing on Record Sales:An Empirical Analysis」というタイトルのようで、2004年2005年2006年にも発表されている。時間があったら読んでみようかしら。でも、どうも経済学は門外漢なもので、ここで作られているモデルがどの程度信頼できるのかが判断できない・・・。詳しい人に解説して欲しいわぁ。

あと、日本でも同様の研究をしている人がいるので、そちらも紹介。この研究は結構話題にもなったし、こんな風にITmediaに記事も書かれているので知っている人も多いはず。論文そのものはネット上からは姿を消した?みたいのなので、キャッシュしかみれなかった。英語でのワーキングペーパーはこちらにあった。まぁ、概要を知りたければ、ITmediaの記事を読むだけでもいいかもしれない。

個人的に思うところとしては、この様な研究が実証されたとしてもそれによって著作権侵害が不問に附されることはない、ということ。少なくとも、現行の法律では著作権侵害は違法行為であり、いかに損害が少ないからといって、それが許されるというものではない。

ただし、このような論文による検証によって、各娯楽産業のセールスに対する影響がごくわずかであることが示されれば、P2Pファイル共有をはじめとする著作権侵害によって深刻な侵害を受けているとして、健全なユーザに対する制限を課し、彼らから搾取しようとする試みを阻止するためには有益だろう。音楽産業側は、自らの努力不足による音楽セールスの低下を、著作権侵害によるものだと主張しており、そのような詭弁をはねつけるために、このような研究を声高に主張するべきだと思う。

音楽業界のセールスの低下は、単純に音楽への関心が薄らいでいるためだとしか思えない。しかし、音楽産業の人たちは知ってか知らずかそれをほぼ無視している。音楽への興味関心は持っていて当たり前、その水準は上昇することはあっても減少することはない、とでも考えているようだ。

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