大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

日本HPにコンシューマ事業への取り組みを聞く
~HP 2133 Mini-note PCの安定出荷は年末か




 日本ヒューレット・パッカード(以下 日本HP)がコンシューマ事業に本格再参入してから、今年9月で、1年半を経過する。ラインナップは着実に増加。日本における存在感も増している。だが、事業拡大に慎重すぎる側面も指摘されている。日本HPは、その点をどう捉えているのか。また、品不足が解消されない話題のミニノート「HP 2133 Mini-note PC」(以下 2133 Mini)の今後の出荷状況はどうなるのか。日本HP パーソナルシステムズ事業統括 取締役 副社長執行役員の岡隆史氏と、パーソナルシステムズ事業統括 モバイル& コンシューマビジネス本部 本部長の山下淳一氏に話を聞いた。

●2133 Miniの出荷は数千台規模

パーソナルシステムズ事業統括 取締役 副社長執行役員の岡隆史氏

--最初に、2133 Miniの現在の状況から聞かせてください。直販サイトの「HP Directplus」では、再出荷当日に売り切れという状況が続いています。今後、入荷状況はどうなるのでしょうか。

岡 この件では、お客様、販売店の方々に大変ご迷惑をおかけしています。我々の予想の2倍以上の引き合いをいただき、生産が間に合わないことが品不足の背景にありますが、それ以上に、全世界で、供給が逼迫しているのが原因です。日本での2倍のブレというのはまだいい方で、国によっては当初計画の10倍の数量が欲しいなどと言っていますから、とにかく製品の取り合いといった状況になっています。ただし、ミニノートは、日本の市場において、重要な製品であるということを、本社トップも理解していますから、日本への出荷数量を減らすといったことはありません。

--いまは、日本向けには、どれぐらいの出荷数量となっているのですか。

岡 6月24日に最初の出荷をし、次に7月下旬に再出荷をしましたが、いずれも、数千台規模での出荷となっています。HP Directplusで深夜O時に掲載すると、正午には売り切れになってしまうことの繰り返しです。8月25日の出荷分に関しても、やはり数千台を用意したところ、午後3時頃までは持ちましたが、24時間すら維持できず、まだまだ需要に供給が追いついていません。9月以降は、月1万台程度の出荷台数にまで引き上げることが可能ですから、徐々に品薄は解消できると考えています。

 次の出荷は、9月中旬になると思いますが、まずは、3日間程度は品切れとならないようにしたい。ビックカメラやヨドバシカメラの一部店舗では、HP Direct Stationを設置し、今年5月から、在庫を持っていただく形で店頭販売を行なっていますから、2133 Miniが直販サイトで売り切れた場合でも、店頭にいけば入手できる場合があるかもしれません。


8月25日出荷分より、日本語キーボードを搭載した「HP 2133 Mini-note PC」

--売り切れ状態にならなくなるのは、いつ頃になりますか。

岡 今年の終わりぐらいになってしまうのではないでしょうか。2133 Miniは、中国のODMで生産しており、いま、生産ラインを増設するといった取り組みが始まっています。これによって、徐々に安定供給に向けた体制が確立しつつあります。当社にとっても、大変な販売機会損失となっていますし、一刻も早くこの状況を解消したい。

--機会損失を生まないために、予約を取るという手法もありますが。

岡 6月の出荷の段階から、受注数を在庫分だけに限定したのは、全世界からの引き合い状況を見て、供給がかなり逼迫するのがわかっていたからです。仮に、それにも関わらず、受注すれば、少なくとも、予約から1カ月以上お待たせするのは明らかですし、場合によっては、年内は納品できないという人が出てくる可能性があった。それでは、お客様にも迷惑をかけるだけですから、予約は行なわないようにしたのです。他の国のように、企業向けという点を、強く訴求しなかったのも、企業ユーザーにご迷惑がかからないことを考慮してのものです。

--Linux版の出荷はどうなりますか。

岡 まずは品不足を解消するのが先決ですから、検討するのはその先になります。

山下 ただし、個人向けに展開するということはあまり考えていません。価格が安くなるからという理由で投入するのではなく、Linuxが欲しいという人に対して、その需要に応える形で提供していきたい。商品がある程度潤沢に調達でき、ビジネスユーザーに対してもしっかりと供給できる体制が確立した段階で、Linux版の国内投入を考えていきます。


●コンシューマPC事業の自己評価は5段階で2.5から3

--日本HPが、2007年3月に、国内のコンシューマPC市場に本格再参入して、ちょうど1年半を経過します。事業の進捗状況は、どう自己分析していますか。

岡 5段階の通信簿でいえば、「2.5」から「3」といったところでしょうか。

--かなり厳しい評価ですね。

岡 再参入とはいえ、日本HPにとっては新しいビジネスですから、やはり手探り状態です。まず、販売ルートを、Web直販のHP Directplusに絞り込んだのも、お客様の反応を聞き、マーケットにおいて、どれぐらいのパイを取れるのかといったことを検証するという意味がありました。そのうち、実際に商品を見てみたいという声が増えてきましたから、店頭で商品を見られるように、ビックカメラに限定して展示し、そこからWebで購入していただけるようにした。また、すぐに購入して持ち帰りたいという方々が増えてきたので、ビックカメラ、ヨドバシカメラに限定して、一部店頭在庫を持っていただき、そこから販売できるようにした。このように、徐々に手の打ち方を広げていっています。

--ラインアップも着実に増えていますし、2133 Miniのような話題の製品も投入したという点を考えると、もう少しいい点数を与えてもいいのでは(笑)。

岡 いや、認知度をあげるという点では、まだまだ努力不足です。例えば、PCといった時に想起するPCメーカーはという設問に対して、ヒューレット・パッカードと回答する人は、10ポイントだったものが、15ポイントぐらいには上昇した。だが、同様の調査をすると、日本の他のPCメーカーは、60%や70%という高いポイントです。まだまだその差は大きい。日本経済新聞に「HP」と表記されれば、ヒューレット・パッカードと読んでくれるが、朝日新聞や読売新聞などの一般紙では、まだ「ホームページ」ですよね(笑)。HPとヒューレット・パッカード、そしてPCというものを結びつけていく努力が必要です。

パーソナルシステムズ事業統括 モバイル&コンシューマビジネス本部 本部長の山下淳一氏

山下 海外では、まずPCとヒユーレット・パッカードが結びついたところで事業をスタートしているわけですが、日本では、そこから築き上げていかなくてはならない。時間をかけてじっくりとやる必要があるのです。そこに多くの投資と時間をかけています。ラインアップも、確かに増えてはいますが、決してすべてを持ってきているわけではない。日本の市場性を見た上で、必要と思われる製品に絞り込んでラインアップしているといったところです。ノートPC、省スペースタワーに加えて、オールインワン、タワー型といったラインアップが揃え、さらにIntelとAMDという選択肢を用意したことで、デスクトップは2倍、ポータブルでは1.5倍のラインアップ数にしていますが、まだまだ不十分です。ただ、タッチパネルとしたオールインワンの「Touch Smart PC」や、ミニノートの2133 Miniの投入によって、HPの名前を知る方が増えていますし、HPが世界ナンバーワンのPCメーカーであることや、HPのPCには先進技術が搭載されていることが認知されはじめています。


--どんなイメージで、受け入れられているのでしょうか

ノートPCでは「ZEN-design」で異彩を放っている。写真は“hibiki”(響き)を採用した「tx2005/CT」

山下 HPは、いいPCを出している、ということが少しずつではありますが、浸透しはじめているようです。また、デザインに対する評価も高い。購入者の間からも、デザインがいいという声が数多くあがっており、まさに、これは1年半前にはなかったことです。さらに、プライスパフォーマンスの高さについても、評価が集まっている。

岡 以前は、社内にコンシューマPCがなかったこともあり、HP社員でも他社の製品を購入している例があったが、いまでは、日本HPの社員がコンシューマPCを購入して、社内からも「なかなかいいじゃないか」という声が出ている。「格好よくなった」という声も多いですね(笑)。

山下 以前の日本HPのPCとは違うという印象を多くの人が持っているようです。

--北米では、ゲームユーザー向けの超ハイエンドPCである「Voodoo」(ブードゥー)シリーズを投入していますが、日本ではまだですね。

岡 これに関しては、日本での投入は白紙です。というのも、本社の方針として、まずは、米国を中心に展開することが決定し、他の国への展開は、その後検討していくということになっているからです。しかし、もし、海外での販売がスタートしたとしても、まだ、日本では売れる体制が整っていないというのも正直なところですが。


Voodooは、ハイパフォーマンスなゲーム用デスクトップPC(右のOmenなど)が主力だが、左の「Envy」の用に超薄型のモバイルノートも出している。ノートPCだけでも日本市場への投入を期待したい

●絶対にやめないことが最大の課題

一部量販店に開設されている「HP Direct Station」

--店頭販売体制では、ビックカメラ、ヨドバシカメラに限定した在庫販売ですが、これは増やしていきますか。

岡 いま、在庫販売を行なったときにどんな課題があるのかという点を勉強しているところです。ちゃんと在庫をオペレーションをできるノウハウがまだ蓄積されていないと考えています。店頭展示の方法1つとっても、5月から約1カ月間やってみて、6月に悪いところを取りまとめて、7月末までに改善し、これでようやく他社並もなったというところです。こうした課題が解決しないまま、横展開していけば、それは課題を広げていくのと同義語です。ですから、それらの課題を解決したのちに、考えていきたいですね。

山下 もちろん、ビックカメラ、ヨドバシカメラに限定した施策とは考えていませんから、チャンスがあれば検討はしていきたい。ただ、基本的に考え方は、むやみに増やそうとは思っていません。

岡 それと、日本HPには、ダイレクトプラスパートナーという制度があり、販売店がこれを活用して、独自に商品を仕入れて、在庫を持ち、キャンペーンのようにして販売するという例もあります。

--確かに、ツクモやPCデポでも販売していますね。

岡 こうした店舗が全国で100店舗ほどありそうです。その点では、以前に比べて、日本HPのコシンューマPCを購入できる場は拡大してきているとはいえます。

--シェア目標として、早期の10%獲得を掲げていますが。

岡 まだまだ先の話です。社内には1年に1ポイントずつシェアを上げていけばいいと言っています。着実に増やしてきたいと考えています。


岡副社長が持つ「HP 2133 Mini-note PC」(右)や山下本部長が示す「Touch Smart PC」(左)などラインナップは拡充されている

--ただ、その一方で、事業拡大への取り組みが慎重すぎるという声もありますが。

岡 いま、日本HPのコンシューマPCビジネスにおいて、もっとも重要なことはなにかといえば、それは、「やめないこと」です。かつてのコンパック時代、旧日本HP時代に、コンシューマ事業から一度撤退したことで、多くの方々にご迷惑をおかけし、会社に失望した人も多かった。今度、同じことを繰り返したら、二度と、日本HPはコンシューマPC事業ができなくなる。

 ですから、その点では、慎重に慎重を期している。シェアを獲得しようと思えば、プライス戦略で引っ張ることもできる。だが、それは過去の経験からも明らかなように、長期的な成功にはつながりにくい。日本HPは、「プライスパフォーマンス」、「バリュー・フォー・プライス」という観点で優れているという点を知っていただきながら、事業を拡大していきたい。

 スケールを追わない慎重ぶりを見て、日本HPは、コンシューマPC事業には本気ではないのではないか、という見方ができるかもしれません。しかし、それは違います。日本HPは、短期的なビジネスをしているのではなく、長期的に成功するビジネスをやっている。そして、絶対に失敗が許されないビジネスです。ブランド、チャネル、製品というそれぞれ領域において、試行錯誤を繰り返しながら、着実に一歩一歩進んでいく。ですから、慎重にやっていることこそ、むしろ本気の証だと捉えてほしい。

山下 成長に向けた基盤づくりという意味では、総仕上げの段階に入ってきたともいえます。しかし次の段階として、認知度をもっと上げていく必要がある。これも時間がかかるものですから、これからも慎重に取り組んでいく、というように見えるでしょう。もちろん、ここで製品や、チャネルも拡大していくことになりますが、これもむやみに拡張するつもりはありません。そして、次の次のフェーズとして、初めてシェアを獲得するということを意識していきたい。

岡 その時に、国内2桁のシェアが視野に入ってくると思います。今年は、まずビジネスノートPC分野において、10%のシェア獲得を目指したい。ビジネス分野で認知度を上げていくことは、コンシューマPC事業にとっても大きな意味があります。こうしたシナジー効果も期待したい。日本HPは、本気ですし、それは少しずつではありますが、パートナーやユーザーに着実に伝わっていると思います。


□日本HPのホームページ
http://welcome.hp.com/country/jp/ja/welcome.html
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【2007年4月9日】【大河原】Vista時代における日本HPのPavilion事業戦略
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【1月24日】日本HP、「デザイン」を前面に打ち出した2008年春モデル発表会
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【6月12日】【Connecting Your World】 HP、約18mmのスリムノート「Voodoo Envy 133」
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(2008年9月1日)

[Text by 大河原克行]


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