●---- -->イー・モバイルの高速モバイルインターネットブロードバンドサービスに加入した。少なくとも、今のところは快適で不満を感じることはない。サービスエリアも、自分の行動範囲はほぼカバーしている上、地下などの意外なところでもつながったりと嬉しい誤算もあった。 ●この街東京は捨てたもんじゃない この春は出張が実に多かった。北京、上海、ロサンゼルスと海外だけでも3カ所、国内出張もあわせると4月と5月の半分は東京にいなかった。仕事柄、旅先でもインターネット接続は欠かせないのだが、これがまた、行く先々で、大きく環境が異なり、仕事の効率を左右する。 中国は、北京、上海ともホテルにブロードバンドインターネットサービスがあったが、その速度たるや、IT関連のイベント時ということもあるのだろうけれど、快適にはほど遠い有様で、リンクをクリックして数十秒待ってようやくページが開くという状況だった。場合によってはメーラーがタイムアウトを起こしてしまう。これでブロードバンドを名乗ってはほしくない。北京に比べれば上海はちょっと速い気もするが、それでも24時間120元上限という料金を返せと叫びたくなる。 米国は、中国に比べれば遙かにましだが、米国内はともかく、日本との通信は決して速くはない。宿泊したホテルは、自室から無線LAN利用ということもあり、多少の不安定さを抱えながら4泊を過ごした。 海外出張や、地方出張を終え、東京に到着し、イー・モバイルの通信カードを使い、モバイルでのインターネットが快適に使える環境に戻ると、東京という街は、少なくともITインフラに関してはなんと豊かな都市なのだろうと痛感する。成田空港の場合なら、入国審査を通過し、預けたスーツケースがベルトコンベアに乗って出てくるのを待っている間に、空港内の無線LANサービスでメールのチェックができるし、リムジンバスや成田エクスプレスからは、イーモバイルの通信カードでインターネットに接続できる。これが、海外だと、とたんに不便になってしまうのだ。 携帯しているPCで、いつでもどこでもインターネットが快適に使えるということが保証されるだけで、PCの使い方のモデルにも大きな影響を与える。たとえば、Googleが提供するオンラインでの各種サービスは、インターネットと遮断されていては何の意味も持たないが、ほんの少し未来に、PCがオンラインでないことの方がイレギュラーな時代がくるのだと考えれば、それはそれでありかもしれないと錯覚するくらいだ。 ●CFカードに悩まされる ぼくが購入した通信カードは、CFカードタイプの「D01NX」だ。イー・モバイルのサービスインは3月31日だったが、その時点では発売が間に合わず、予約だけを入れておき、4月13日の発売日に入手した。都内の量販店で、キャンペーン価格を利用し1円で購入、初期費用は無料、データプラン(いちねん)を利用し、今後1年間、月額5,980円の基本使用料で利用していくことになる。安いとは思わないが、現時点で得られる環境を考えればまずまずの価格だ。理想的にはこの半額程度にはなってほしいところだ。 CFカードタイプを選んだのは、ノートPCからの出っ張り部分を少しでも小さくしたかったからだ。いちいち通信のたびに抜き差しするのはめんどうなので、ノートPCに装着しっぱなしで使うことを考えれば、出っ張り部分は小さい方が望ましい。ただ、スロットに装着したままにすると、外から押されたときに、内部基板に圧力がかかり、最悪の場合、マザーボードに損傷を与えてしまう可能性もある。 CFカードタイプとPCカードタイプの両方を試したわけではないが、感度的にも特に不満を感じることはない。ただ、本当は、ちょっとだけ後悔している。というのも、PCカードタイプが32bitのCardBusインターフェイスであるのに対して、CFカードタイプは通常の16bit PC Cardインターフェイスだからだ。たかだか3Mbpsの通信なので帯域幅については問題ないのだが、どうもドライバのできがよくないようで、レジューム、サスペンドを繰り返していると不安定になることがある。 パッケージにはCD-ROMが添付され、これを使ってユーティリティとドライバ類を組み込むことができる。ユーティリティは、接続、切断のコントロールや送受信したデータ量などを監視する機能を持つ常駐ソフトだ。また、ドライバのインストール時には、パケット通信の最適化を行なうこともできる。 余分なユーティリティを入れたくない場合は、ドライバだけをインストールし、Windows標準のダイヤルアップネットワークを使って通信させることもできる。どうせ定額なのだから、通信量を気にする必要はない。接続に要する時間も長くなるので、特に理由がないかぎり、ユーティリティはいらないと判断した。 具体的にはドライバのインストール後、PCから正常にカードが認識されると、USBモデムがデバイスとして追加されるので、それを使って通信するように設定すればいい。電話番号として*99***1#にダイヤルさせれば、1秒未満でインターネットにつながる。FOMAも同様の仕組みになっているが、カード内にAPN(Access Point Name)と呼ばれる接続先名が登録されていて、そのcid(Context Identifier)を接続先電話番号に指定して接続するわけだ。「*99***1#」は、1番目のcidに接続させるためのダイヤルアップコマンドだ。 16bitバスであるとはいえ、十分な電界強度が確保できる場所で安定した通信ができているのなら特に問題は起こらない。カードにはインジケータが装備され、赤が圏外、緑が圏内で電波が強ければ強いほど緑点灯の時間が長くなる。つまり、安定していれば点灯しっぱなし、電波が弱ければ長い間隔での点滅となる。 問題は、電波が弱いときや、電車などで比較的高速に移動しているときに起こる。カードはハンドオーバーしながら接続を維持しようとするが、一時的に赤インジケータ、すなわち圏外になることもある。ところが、Windowsから通信状態を見たときに、カードには赤インジケータが点灯していて、明らかに切断されているにもかかわらず、接続が維持されているように見えるのだ。 通信圏外なのに、Windowsは通信しているつもりでいる。この状態で、ノートPCのディスプレイを閉じるなどしてスリープ状態に移行させようとすると、ほぼ確実に操作不能になる。スリープに移行できないだけならまだしも、ディスプレイ表示は消えてしまい復帰は不可能、電源ボタンの長押しで強制終了させるしかなくなる。 カードの通信状態に関わらず、Windowsから明示的に切断を指示すれば、そのようなことはおこらない。通信圏外にあるときの切断には10秒程度の時間がかかるが、切断さえすれば、正常にスリープに移行できる。この手続きを忘れてうっかりとディスプレイを閉じ、何度泣いたことか。また、スリープ中にカードを抜くと、レジューム時に強制再起動がかかることがある。場合によってはブルースクリーンが出ることもある。これにも注意が必要だ。 こんな具合に、かなり気を遣わなければ、いろいろなトラブルが起こる可能性があるのがやっかいだ。PCカードタイプの製品では、このような現象が起こらないのであれば、本当は乗り換えたいところではある。それともWindowsが悪いのか。機会があったら、ぜひ、試してみたいと思う。 ●VPNで自宅LANのリソースを使う いろいろと文句は言いながらも、北京、上海、ロサンゼルスのホテルにおけるインターネット環境のどれよりも、イーモバイルの接続環境の方が快適だ。これはすごいことだと思う。もっとも上り速度が遅いので、大きなデータのアップロードにはある程度の忍耐が必要だ。 ぼくは、イー・モバイルでインターネットに接続した状態で、自宅のLANにPacketiXを使ってVPN接続して使っているが、自動接続を設定しているので特に意識することなく、出先でも、LAN内の各種リソースに自由にアクセスできるのは嬉しい。取材メモなどは、LAN内リソースのフォルダをオフラインフォルダ指定してそこに書き込んでいるが、取材時にインターネットに接続しっぱなしにしておけばオンラインとなり、自宅に戻ったら、すでにデスクトップPCからメモが参照可能な状態になっている。こういう使い方は、従来のナローバンドでは考えられなかったと思う。 問題があるとすれば、サービスエリアだが、これは時間が解決してくれるだろう。それまでは、FOMAとの併用が必要だ。FOMAは携帯電話との間をBluetoothで結び、ワイヤレスで通信できるので、イー・モバイルが使えないときは、そちらを使う。ただ、東京にいる限り、インターネット接続にFOMAを使わなければならないことは極端に少なくなったので、料金プランを見直さなければなるまい。 イーモバイルも、「EM・ONE」を選択し、Bluetoothモデムとして使う方法も考えたのだが、約4時間の使用時間という点で断念した。つなぎたいときにカバンから取り出して電源をONにしなければならないのでは便利さは半減するし、バッテリを常にフルに保つように、毎日充電を気にしなければならないのは面倒だ。なによりも、端末の重量が250gというのは、モデムとして考えたときに重すぎる。100gを切るような専用単機能Blutoothモデムがあれば考えるのだが、そのような製品は出てきそうにない。 ●地下鉄無線LANとIntelのワイヤレスモジュール これで、東京にいるときのインターネット接続環境は、屋外にいるときにはイー・モバイル、地下鉄に乗っているときには、NTTコミュニケーションズのホットスポットを使うようになった。地下鉄駅の無線LANは、この5月2日に大江戸線の飯田橋と六本木駅が追加されたことで、都営地下鉄全駅がサービスインを完了し、東京メトロとあわせて、すべての地下鉄駅で無線LANが使えるようになった。これはこれですごいことだ。ただし、どのような事情があるのかは知らないが、浅草線押上駅、新宿線新宿駅、三田線目黒駅を除くとのことで、ぼくの行動範囲では、新宿線新宿駅で使えないのが痛い。 地下鉄駅の無線LANは、電車での移動中にも接続を維持することができる。もちろん駅間では電波が弱くなって切断されるが、次の駅に近づくと再接続されるからだ。最初の接続時に、認証のためにIDとパスワードを入力すれば、次の駅での再接続時には認証の必要はないようだ。 ところが、現在、携帯しているノートPCの無線LANモジュール、Intel PRO/Wireless 3945ABGモジュールがうまく機能してくれない。Vista特有の現象なのか、ドライバのバグなのだろう。 地下鉄駅のアクセスポイントは、NTTコミュニケーションズの他に、NTTドコモのサービスも共用していて、そのSSIDをブロードキャストしないようにステルス設定されている。ところが、PC側で、アクセスポイントがSSIDをブロードキャストしていないときにも自動的に接続するように設定しておくと、うまく通信ができないことが多いのだ。自動接続をオフに設定しておけば、このような現象は起こらない。自動接続がOFFの場合は、アクセスポイントが見つかろうが見つからなかろうが、接続のエントリに常に表示されるようになり、手動で接続することができる。だが、手動接続では駅間で切断されるたびの再接続がめんどうだ。ただでさえ停車時間は数十秒しかないのだ。ここは自動接続の繰り返しででうまく乗り切りたいところだ。 ●いつでもどこでもブロードバンドオンライン イー・モバイルの導入後、近所の居酒屋から都心のホテルの記者会見会場、取材先の応接室にいたるまで、ブロードバンドオンラインでいられるエリアは一気に広がった。地下鉄のことを考えなければ無線LANサービスはなくてもいいくらいだ。もし、イーモバイルが全地下鉄駅をサービスエリアに加える時期が来たら、様子を見て、現在2つ契約している無線LANサービスは双方ともに解約してしまうかもしれない。 都心のコーヒーショップなどでは、無線LANが使えるところが多く、これまでは重宝していたが、それらの場所が、地上である限り、ほぼ例外なくイー・モバイルも使える。確かに無線LANの方が、ほんの少し高速に感じるし、上り方向の帯域も広いのだが、ちょっとメールを書いて送ったり、数分間ブラウザを使うといった用途では、接続時に認証の必要がないイーモバイルの方が便利だ。認証後、ブラウザがポータルページを開くようなうっとおしさもない。 今後、ドコモやau、ソフトバンクモバイルなどのキャリアもHSDPAによるブロードバンドインターネット接続を本格的にサービスし始めるだろうが、PCとの親和性やリーズナブルな価格という点ではまだ先は長いだろう。ドコモは先だって、64Kbpsの定額インターネットサービスの開始をアナウンスしたが、もう、そこまで低速な環境には戻れないし、戻りたくもない。 2000年の暮れ、うちには東京めたりっく通信の1.6Mbps ADSLサービスが開通した。ギリギリ20世紀のうちに自宅にブロードバンドインターネットがやってきたのだ。イーモバイルでの接続は、ちょうど7年前に感じたあの感覚に似ている。当時、サービスに支払っていた金額は月額8,000円。電話線重畳使用のためのNTTへの支払い800円とあわせて8,800円だった。そして、今、月額5,900円のイーモバイルで得られる環境は、当時のADSLよりもずっと快適だ。 来年(2008年)あたりから、広域インターネット接続環境としてのWiMAXサービスが本格的に始まろうとしている。イーモバイルもこのテクノロジーに食指をのばすキャリアの1つではあるが、HSDPAとの棲み分けがどうなるのかは気になるところだ。HSDPAとWiMAXがシームレスに乗り入れ、接続や切断を意識することなく相互に利用できるようになるのなら、ぜひ、使ってみたいものだ。イー・アクセスは慶應義塾大学SFC研究所のオープン無線プラットフォーム・ラボ、WIDEプロジェクトと共同で、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス内においてモバイルWiMAXに関する実験を実施することを発表したが、そこでの成果がどのように本サービスに活かされていくことになるのか、興味は尽きない。
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(2007年5月25日)
[Reported by 山田祥平]
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