山田祥平のRe:config.sys【特別編】

Viivの行方




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 2006年の初めに華々しく発表されたViivだが、Centrinoに続き、二匹目のドジョウを狙ったものの、当初、Intelがもくろんだほどには浸透していないのが現実だ。その原因はどこにあるのか、そして、Intelは、これからViivをどうしようとしているのかを探ってみた。

●Intelのフェローが近未来技術を解説

 IDF Fall 2006の最終日、通常の基調講演とは、ちょっと異なる趣のセッションが催された。Technology Insightsと呼ばれるもので、Intelのフェローが3名続けて登壇し、ハイパフォーマンスコンピューティング、ソフトウェアスレッディング、そして、Viivについての技術的な解説を行なった。

 ハイパフォーマンスコンピューティングについて説明し、おそらく25年後にはいわゆるデスクトップPCでペタスケールコンピューティングが可能になると予測したStephen S. Pawlowski氏(Intel Senior Fellow, Digital Enterprise Group, Chief Technology Officer, Digital Enterprise Group、General Manager, Architecture and Planning)は、聴衆から、一般のコンシューマユーザーにとって、デスクトップPCで使えるペタスケールコンピューティングは、いったいどんな意味があるのかと聞かれて答えに窮するなど笑いを誘う場面もあった。

 Technology Insightsの3人目の登壇者は、Intelのフェロー兼デジタルホーム事業本部CTO(最高技術責任者)のブレンダン・トロー氏だった。氏は、IDF翌週の今週、CEATECのために来日、Intelの上席副社長兼デジタルホーム事業本部長のエリック・キム氏とともに記者に囲まれてのラウンドテーブルに出席、両氏からさらに詳しい話を聞けたので、セッションの内容に補足して話を進めよう。

●ストレージの問題点

 Viivのめざすものが、デジタルコンテンツを10フィートユーザーインターフェイスで視聴することに第一義を置いている点は明らかだ。ただ、トロー氏は、Viivのテクノロジーを使ってコンテンツを楽しむ方法として、PCで楽しむ、PC以外のデバイスでネットワークを使って楽しむ、別のデバイスにコピーして別の場所で楽しむ「シンク&ゴー」、DVDなど別のメディアにコピーして別の場所で楽しむ「スニーカーネット」という4つの形態に分類する。「シンク&ゴー」は文字通り、コンテンツをデバイスに同期させることであり、「スニーカーネット」は自分の足で運ぶメディアネットワーク的な考え方だ。こうしてみると、Viivが必ずしも10フィートUIだけを意識しているのではないことがわかる。

 トロー氏は視聴以前の問題として、現在のストレージの問題点を指摘する。ここがまだ断片的で統合されていないというのだ。必要なデータに自由にアクセスできない状況が続いていて、その傾向は悪くなる一方だという。さらに、デバイスの数は増える一方だ。氏によれば、今、平均的な家庭には7つのHDDが存在しているらしい。半年後には1ダースになっているのではないかというくらいに増え続けている。これは、HDDを内蔵したガジェット類が増えていることを意味する。

 そのおかげで、いわゆるデータオブジェクトの数も劇的に増加している。デジタルカメラで撮影した写真も、何百枚というレベルから、何千枚というレベルに変遷している。単にバイト数だけではなく、個人の持つデータファイルの数が爆発的に増加している。それを適切な方法でナビゲートしなければならないとトロー氏は説く。そのための有力なキーテクノロジがメタデータだというのだ。

 膨大な数のデータから探しているコンテンツを見つけるのは、わらの中から針を一本探すイメージで、メタデータを使っての検索ができなければ、見つけるのは不可能だという。つまり、現在のようにジャンルやカテゴリで絞り込んでいくようなViivの10フィートGUIでは、コンテンツを見つけられなくなるのは時間の問題だと氏は予想しているのだ。

●コンテンツの重要性とその管理

 トロー氏は、データの恒久性についても言及した。家庭内にあるデータの重要性はまちまちだと氏はいう。写真は無くなってしまったら2度と取り戻せないかけがえのないものであり、半永久的に保存が求められるデータだ。だが、それだけの重要性を持つデータばかりではない。ダウンロードしたオンラインコンテンツなどは、なくなってもかまわないものだ。いや、なくなったら困るかもしれないが、無くなって生きる死ぬという問題に発展するようなものでもなく、無くなったとしても世界が変わるようなたいへんな事件にはならないのだから、恒久的なストレージに置くこともないだろうとトロー氏。氏は、自分の妻の話を例に、もし、過去のデジタル写真がなくなるようなことがあったら、妻になんと言われるかわからない、みなさんもそうにちがいないと同意を求め、場内の笑いを誘った。

 コンテンツの重要性に応じて、分類して格納しておくことが要だとトロー氏はいう。HDDは必ず故障する。数が増えれば欠陥を発生する確率も高くなり、もし、7台のHDDがあれば、35%の確率で、1年以内にどれかが故障するという。ところが、今、コンシューマには現実的な選択肢がなく、バックアップが必要なデータすら、物理的にできない状況が続いている。トロー氏は、なんらかの方法があるべきだとし、自動的に重要なデータをバックアップしてくれるようなソリューションがあってもいいのではないかという。そのためのエコシステムを作り、Intelは、パートナーと協力しながら、家庭のためのストレージ環境を作っていくつもりだという。これは、Viivの守備範囲に、ストレージの管理まで含まれていく可能性があるということを意味する。

●遠隔管理の可能性

 さらに、トロー氏は、遠隔管理の重要性についても言及した。これは、すでにViivの機能として実現されているものだが、家庭内のネットワークを、外部から別の組織が管理するような形態を想定している。技術に精通しているユーザーは、その技術で家庭内の問題を解決したがるし、それは実際に可能ではあるが、普通のユーザーはそうではなく、自力で問題を解決するのは難しい。だから、さらに別の技術を開発し、コンシューマが安心してネットワークを使えるようにし、トラブルが起こった場合にも、外部から支援できるような体制作りが必要だという。ブルースクリーンが出た家庭内のサーバーを、外部から修復できるようなことが、すでに現実になっている。それもやはりViivがもたらす世界だ。

 今回、来日したエリック・キム氏は、現在のデジタル体験は、TVとPCに二分化されているものの、両者を融合するテクノロジは完成していないという。また、コンテンツを作るだけではなく、コンテンツを共有することが大事になり、そのためのヘルシーなテクノロジーを人々が求めていると主張する。今、日本市場では、6割がメディアPCであり、それらがハブになることで、TVとPCは競合するものではなく、融合するものとしてとらえられていくだろうというのがキム氏の考えだ。

 ここまでは、今までさんざん言われてきたことだが、キム氏は、Viivの派手な部分にはあまり興味がなさそうだ。というのも、現在のViivが、あまりにもWindows Media Center Editionに依存する部分が多すぎて、それがViivの普及の足を引っ張っているのではないかと指摘したところ、Intelがやるべきことは、テクノロジーを使った土台を作ることであり、ユーザーが直接扱うGUIなどは、本来、別のベンダーがやるべきことだという。もちろん、キム氏は、現在、Media Centerが提供するGUIが、きわめて原始的なものであり、それが崩壊してしまうのも時間の問題だという指摘には同意する。だからこそ、大手のコンテンツプロバイダは、革新的なGUIを用意し、ユーザーが、楽しみたいコンテンツを自由に選べるようにするだろうというのだ。彼の方針としては、Intelは、あくまでも縁の下の力持ちに徹するということらしい。

●水面下で進行するViivの将来案

 ご存じのように、今、iTunesをデフォルトセッティングのまま、CDからリッピングした音楽を管理し、iPodに転送して音楽を楽しんでいるユーザーは多い。だが、その音楽コンテンツをViivテクノロジー配下で楽しむことはできない。Media Centerが.m4aに対応すれば、今日からでもできる話なのに、実際にはそうなっていないし、そうしようともしていない。つまり、PCではiTunesを10フィートGUIで楽しむことはできない状況が続いている。もちろん、そのことを知っているユーザーが、mp3で楽曲を蓄積するようにしていればいいのだが、一般的なコンシューマは、そんなことを思いつかないだろう。

 キム氏は、Appleはきわめてクローズドな企業であり、すでに独自のコンテンツサービスを持っていて、そのクローズドな姿勢こそが、彼らの生業であるとする。Intelとしては、Appleに何かを提案するようなことはせずに、彼らの求めるものを提供していくのだという。だから、もし、iTunesがAppleの手によって10フィートGUI化するようなことがあっても、それが、Viivに統合されることはなさそうだ。

 発表から半年以上が経過しているViivだが、それでも水面下では、いろいろな動きが進行中であるようだ。トロー氏がいうところのメタデータ利用についても、10フィートUIでメタデータを扱い、メニーコアなプロセッサを使って、膨大な数のデータから瞬時に目的のデータを探し出せるようにするための重要なテクノロジが並行して何種類か開発途上にあるという。きっと、画像や音楽を色や形、音色パターンでリアルタイムに検索できるようなことが想定されているのだろう。

 少なくとも、現在のViivでは、100本の録画済みTV番組、5,000枚の写真、1万曲の楽曲の中から、今、楽しみたいものを短時間で探し出すのは無理だ。リモコンの方向キーでのスクロールが前提で、階層化メニュー形式に毛が生えた程度のGUIでは将来的にも難しそうだ。そこを放置しているうちに、個人が所有するコンテンツの数は倍々ゲームで増えていく。家電に搭載された非力なプロセッサでは難しい新たなGUIも、PCに搭載された高性能プロセッサならいとも簡単に実現できるだろう。どうして、そこをもっと利用しないのか理解に苦しんでいたのだが、IntelはIntelで、それなりに考えを持っているようだ。とはいうものの、それが現実的な解として提示されるのは2007年以降である。ドッグイヤーのこの分野で、これほど悠長なことがあってもいいのかと、ちょっとせかしてみたくもなるというものだ。

□関連記事
【6月23日】インテル、Viivバージョン1.5をデモ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0623/intel2.htm
【4月7日】【IDF Japan】Viivはユーザー体験を向上させるプラットフォーム
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0407/idf03.htm
【2月23日】【本田】Viivはチッチキチー
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0223/mobile326.htm
【2005年8月26日】【山田】おしゃべりなヴィーブ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0826/config069.htm
【2005年8月26日】【笠原】ついに発表されたEast Forkこと“Viivテクノロジ”
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0826/ubiq122.htm
【2005年8月26日】【IDF】デジタルホーム向けの新ブランド「Viiv」を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/0826/idf05.htm

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(2006年10月4日)

[Reported by 山田祥平]


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