2005年に引き続き、2006年の9月上旬にも、AppleとSamsung Electronisが相次いで発表を行なった。両社が、NANDフラッシュメモリのカスタマとサプライヤの関係にあるのはご存じのとおり。ここで取り上げる発表も、当然NANDフラッシュメモリ関連の製品である。 ●新iPodシリーズを発表
9月12日(日本時間9月13日)にAppleは、iPod全ラインのモデルチェンジを行なった。1.8インチHDD搭載iPodのマイナーチェンジ、NANDフラッシュベースiPod nanoのフルモデルチェンジ、同じくNANDフラッシュベースiPod shuffleのフルモデルチェンジである。2005年は、9月にnanoをリリースした後、10月にiPod with videoの発表を行なったが、今年はこれで打ち止めなのだろう。これらiPodと同時にiTunesの新版、「iTunes 7」がリリースされ、米国では映画(9.99ドル~14.99ドル)とゲーム(4.99ドル)のダウンロードサービスが始まったが、日本法人による正式発表前の本稿執筆時点においてこれらのサービスが我が国でどう展開されるのか(特に映画のダウンロード)は分からない。 マイナーチェンジとなったiPodは、基本的に価格の引き下げと、ハイエンドモデルの容量拡大(60GBから80GBへ)が主な変更点。30GBモデルが34,800円から29,800円に引き下げられ、80GBモデルが42,800円(60GBモデルは46,800円だった)で提供されるほか、ディスプレイの輝度が向上している。ギャップレス再生などソフトウェア的な更新もあるが、これらは従来のiPodにもいずれ適用されるのではないかと思う。 iPod nanoは、1GBモデルが廃止され、2GB、4GB、8GBの3シリーズとなった。8GBモデルが従来の4GBモデルとほぼ同価格でこの秋に登場するであろうことは、2005年秋の時点において筆者でさえ予想ができたこと。それほど驚きはない。ただ、HDDベースのiPodと異なり、こちらは外装が一新されており、フルモデルチェンジと考えて良さそうだ。
新しい外装は、酸化皮膜処理を施したアルミニウムボディ。2GBモデルはシルバーのみ、8GBモデルはブラックのみで、4GBモデルのみシルバー、グリーン、ブルー、ピンクのカラーバリエーションが用意される。アルミニウム製のボディ、丸みを帯びたエッジを見ると、以前販売されていたiPod miniを小型化したイメージである。
今回の発表で、サプライズを探すとしたら、新しいiPod shuffleだろう。Apple Radio Remote(FMラジオつき有線リモートコントローラ)とほぼ同じ大きさ(重量15g)に、1GBのNANDフラッシュメモリとバッテリを含むミュージックプレーヤーの全機能をおさめたiPod shuffleは、おどろくほど小さい。本体と一体になったクリップで、ポケットや袖など、好きなところに止めることができる。今回の目玉はこれだろうということで、筆者も早速オーダーしたものの、出荷予定日は10月末である(ちなみにiPodとiPod nanoが発表即出荷)。 まだ現物を手にしておらず、いわんや分解した中身を見ていない現段階で即断するのは危険だが、おそらく今回発表されたフラッシュベースの2シリーズには、Samsung Electronicsが2004年に発表した8Gbit NANDフラッシュ技術が使われているものと思う。2005年に発表されたiPod nanoには、1つのパッケージ内に4Gbit NANDフラッシュダイを4枚スタックした16Gbit NANDフラッシュチップが2個使われていた。これを8Gbit NANDフラッシュダイに置き換えることで、同じ容積、ほぼ同じ価格で8GBのiPod nanoができあがる。 同様にiPod shuffleは、容積的に考えて8Gbit NANDフラッシュダイを使っているハズだが、ひょっとするとミュージックプレーヤー機能を司るDSPチップを同じパッケージに封入したMCP構成をとっているかもしれない。今年発表されるiPodにSamsung ElectronisのDSPチップが採用されること(従来、独占的にチップ供給していたPortalPlayerがシェアを失ったこと)は、すでに明らかにされており、分解記事が今から楽しみだ(自分で買ったのをバラすのはちょっと切ない)。 ●ファンの法則を忠実に守るSamsung このようにSamsung Electronicsは、毎年NANDフラッシュメモリの容量を倍増させており、このことを同社半導体総括社長である黄昌圭(ファン・チャンギュ)氏の名前をとって、「ファンの法則」と呼んでいる。このファンの法則がキープできていることを、Appleの発表に先立つ11日(現地時間)、32Gbit NANDフラッシュの発表という形で明らかにしている。表はSamsung ElectronicsのNANDフラッシュメモリの開発~量産ロードマップだが、2000年以降、ファンの法則を忠実に守っていることが分かる。
【表】Samsung ElectronicsのNANDフラッシュ開発ロードマップ
今回発表された32Gbit NANDフラッシュメモリの特徴は、同社がCTF(Charge Trap Flash)と呼ばれる新しい技術を採用したことにある。従来NANDフラッシュメモリには、東芝が開発したフローティングゲート技術が使われてきたが、製造プロセスの微細化により、将来の容量増加に懸念が生じてきた。Samsung Electronicsは、不導体物質に電荷を保存するCTF技術の採用によりセル構造の簡素化とサイズ縮小(28%)を実現、20nmプロセス(256Gbit)まで微細化を続けていく目処が立ったとしている。 表で32bit NANDフラッシュメモリの量産開始が、通常より1年遅い2008年としたのは、技術の切り替えを踏まえてのものだが、2008年前半量産開始、2008年末に実製品への搭載は不可能ではないだろう。これをiPodにあてはめていくと、2007年秋には現在とほぼ同じ大きさと価格で16GBのnanoが、2008年末には32GBのnanoが登場できることになる。 果たしてこの時代において、HDDはポータブルプレーヤーのストレージデバイスとして、有用であり続けられるだろうか。おそらく音楽だけなら、HDDはもはや必要とされなくなるだろう。今回、iTunes 7と同時に米国でスタートした映画の配信サービスがうまくいけば、HDDがなお優位性を持つであろう大容量の需要が確保できるかもしれない。が、その場合、今度はHD DVDやBlu-rayといった、光ディスクのシェアが喰われる可能性が出てくる。コンシューマー市場において、クオリティが絶対的な武器になり得ないことは、AACがCD-DAを置き換えようとしていることでも明らかである。32GBという容量、それを実現する32Gbit NANDフラッシュというのは、そういうポテンシャルを持っている。また、行く末のカギを握るという点で、iTunes 7こそが今回のAppleによる発表中の真の目玉なのかもしれない。
□関連記事 (2006年9月13日) [Reported by 元麻布春男]
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