元麻布春男の週刊PCホットライン

新iPodでビデオ再生を試す




●第5世代iPodを購入

 10月13日に発表された第5世代iPod(5G iPod)の出荷が、早いところでは20日あたりから開始された。ポイントの付く量販店で予約した筆者はそれからさらに待つことになったが、これはやむを得ないところ。約1週間遅れでようやく60GBモデルを入手した。

 HDD搭載であることを踏まえ、Apple Care Protection Plan for iPodも購入、保証期間を1年延長したが、この2年保証が切れる頃には100GB以上の容量を持ったモデルが登場していることを祈るばかり。現在の残容量である約9GBで、2年は十分乗り切れる計算になっている。筆者の実績では10GBで200枚弱のアルバムが追加可能だが、現在のCD購入ペースはこれよりずっと低い。あとはどれくらいビデオを登録するかにかかっている。

 この2つに加えて購入したアクセサリは、ユニバーサルドックとAVケーブル。フラッシュメモリベースで軽量なnanoと違い、HDDベースでそれなりの重量がある5G iPodについては、定置場所を設けようという考えだ。AVケーブルはカラーディスプレイを備えたiPodと組合せ、ヘッドホン端子からビデオ出力を取り出すもの。オマケとはいえ、ビデオ再生は5G iPodのウリの1つ。一応押さえておきたいアイテムとみた(多くの人が同じ考えのようで、現時点での店頭在庫はかなり薄いようだ)。

ユニバーサルドック上の5G iPod 60GBモデル。ドック中央の黒い丸は、赤外線受光部だがリモコンは別売 ドックの裏側には、ドックコネクタ、音声のライン出力、映像出力(S端子)が用意されている

 もう1つ購入したのはデジカメ用の液晶保護フィルム。基本的にnanoと同じデザインを踏襲したことから5G iPodもキズが懸念されるのだが、まだ専用ケースは出回っていない。本体のキズはしょうがないとしても、液晶が見にくくなっては、ビデオ再生機能も役に立たなくなってしまう。ディスプレイだけは保護しておこうと思ったわけだ。

 5G iPodのディスプレイはスペック上は「2.5インチ」ということになっているが、市販の2.5インチ用保護フィルムではサイズが若干不足気味。一回り大き目の方が良い。試した範囲ではフジのFinePix Z1用(52.2×42.8mm、サイズはエツミのスーパークリアタイプガードフィルムの表示サイズ)でほぼジャスト(縦方向は少し余裕がある)、オリンパスのμ-800用(54.5×45mm、同)が本体からハミ出さない範囲で天地左右とも余裕があり貼りやすかった。

 本当はヘッドホンも新調したかったのだが、これはまだ結論が出ていない。これまで使ってきたヘッドホンは、Clie(PEG-TH55)、iPod Shuffle、iPod nanoで問題なかったのだが、5G iPodとは相性がもうひとつに感じられる。

 5G iPodの音は、良く言えばワイドレンジ感があるものの、悪く言えばドンシャリ傾向(いずれもnano比。逆にnanoはナローレンジと言えなくもない)。筆者の好みに対し、5G iPodはボーカルが薄くなる。ヘッドホンを変えて対応したいところだが、音質以上に装着感とケーブルの感触が筆者にとっては肝心で、まだ結論が出せていない。

 ヘッドホンを新調しなくても、これだけアクセサリを購入するとそれなりの出費となる。オマケと言いつつビデオ再生機能には、保護フィルムとAVケーブルの投資をした。これは試してみねばなるまい。

iPod nanoとのサイズ比較。iPod photoより約5mm薄くなったとはいえ、60GBモデルはそれなりに厚い オプションのAVケーブル

●NASではビデオコンテンツを転送できない?

ネットワーク上にライブラリを置いて、iTMSからビデオを買うとこのようなエラーが出て保存できなかった。音楽は問題ないのだが

 5G iPodで見るビデオコンテンツの主流としてAppleが想定しているのは、iTMSで販売するビデオクリップやショートフィルムだろう。20日弱でiTMSにおける配信数も100万件を超えたというし、ユーザーの側の認識もそれほど大きく違っているわけではないようだ。筆者もまず、1本購入してみることにしたが、早速ここでつまずいた。購入したビデオクリップがダウンロードできないのである。

 だがエラーメッセージをじっくり見ると、どうやら問題はダウンロード(Internet環境)ではなく、ディスクへの書き込みにあるようだ。筆者はiTunesのライブラリをネットワーク接続されたTeraStationのRAID 5ボリューム上に構築している。この環境で、iTMSの音楽ファイル(保護されたm4pファイル)は問題なく購入し、保存することができているのだが、今回の件についてはどうもこれが怪しい。一時的にライブラリの保存場所をローカルドライブに変更すると、あっさりとビデオファイルのダウンロードができた。

 どうやらDRMに関して、音楽とビデオで完全に同じ扱いというわけではないようだ(プロパティ上は、FairPlayのバージョンは音楽、ビデオとも2と表記されている)。しかし、だからといって、いまさらライブラリをローカルドライブに移動する気はない。なんとかこの問題が解決することを望んでいる。


●日本製ビデオコンテンツが少ないiTMS

 ただ、この問題がなくても現状でiTMSが配信するビデオには大きな問題がある。それは、日本製のコンテンツがほとんどない、ということだ。先行する音楽についても、iTMSは邦楽の取扱い数が少ないとの批判を受けることが少なくないが、ビデオについては少ないというより、ほとんどないというのが実情だ。Appleとて分かっているのだろうが、なかなか交渉が進まないのだろう。現状では、日本語のビデオコンテンツを利用したければ自分で作成するしかない。

 そのためのツールとしてすぐに思い浮かぶのは、Apple純正のツールである「QuickTime Pro」だ。「QuickTime Pro 7」には、ビデオをiPod用にエクスポートするオプションが用意されている。だが、このQuickTime Pro 7も、iPod用の動画作成ツールとしては問題が少なくない。

 一番の問題は、QuickTime Pro 7がそのままではMPEG-2ファイルを扱えないことだろう。わが国、特にWindowsユーザーで最もポピュラーなTVキャプチャーカードは、MPEG-2のハードウェアエンコーダーを搭載した製品だが、これがキャプチャしたデータからiPod用のビデオを作成できないのでは効率が悪い。

ひょっとすると現時点で最も安定かつ動作が確実なiPod用動画トランスコーダーかもしれない携帯動画変換君。AVC対応のテスト版ということだが、不都合を感じることはほとんどない

 QuickTimeには、オプションとして「QuickTime MPEG-2再生コンポーネント」(税込み2,400円)というものも用意されており、これをインストールすることでMPEG-2のデコードが可能にはなる。が、AC3音声に対応していないため、キャプチャカードのデータ(音声はMPEGオーディオが主流)には対応できても、家電系DVD/HDDレコーダーの録画データには対応できないなど、万全ではない。

 また筆者の環境では、このコンポーネントを入れてQuickTime Pro 7でMPEG-2データのトランスコードを試みると毎回、QuickTime Pro 7がクラッシュしてしまうので、ほかの方法を考えるしかなくなった。MPEG-2をiPodが対応するH.264(MPEG-4 AVC)にトランスコードできるツールとしては、ほかにソニーがPSP用に提供している「ImageConverter 2+」もあるが、ImageConverter 2+が出力したデータはプロファイルが異なるため、iTunesはiPodへ転送してくれない(iTunes/QuickTimeを使ったPCでの再生は可能)。

 で、たどり着いたのが、以前にも何回か取り上げたことのある「携帯動画変換君」。作者のホームページのウェアラブル奮闘日記で公開されているAVC Test版が早速iPodに対応している。動作もかなり安定しており、現状で最も使いやすい変換ツールではないかと思う。画質については設定ファイル(Transcode.ini)をいじることで、かなり詰められそうだが、筆者はデフォルト設定のままで不満を感じていない。


●動画再生機能が“オマケ”扱いな理由

 こうしてビデオのデータも手元に揃い、実際に5G iPodに転送してみた。結論から言えば、ポータブルビデオプレーヤーとしては十分実用可能なレベルにあると思う。屋外に持ち出しても、直射日光が直接ディスプレイにさしこむような極端な環境でない限り、視認性も確保されている。AVケーブルを用いてTVに出力してみても、SDのTVであれば十分視聴に耐える(AVケーブルによるNTSCビデオ出力とiPod側のディスプレイ表示は排他となる)。

 だが、不満も少なくない。たとえばバッテリ駆動時間だが、音楽再生時の最長20時間は筆者にとって十分だが、ビデオ再生時の最長3時間はやはり足りない(いずれも60GBモデル)。また、複数のビデオを登録した場合のデータ閲覧性も必ずしも良いとはいえない。

ビデオにも音楽と同じようなタグ情報を入れられるが、現状ではあまり利用されていない

 音楽プレーヤーとしてのiPodの特徴の1つは、タグ情報を用いてさまざまなリスティングができることと、シャッフルプレイにあるが、ビデオ再生時はこれらがサポートされない(ビデオについても音楽データ同様、タグ情報を登録することはできるが)。たとえば、ミュージックビデオで「すべて」を選択すると、タグ情報のアーティストやアルバムは関係なしにクリップのアルファベット順再生となる。

 基本的にiPodはiTunesのライブラリを外に持ち出すデバイスという性格付けであり、蓄積型のプレーヤーだと認識している。実際、単独ではライブラリの管理は、全くできないといっていい(ファイル1つ消すこともできない)。しかし、現状のプレーヤーの仕様では、100本、1,000本とビデオクリップを蓄積していくのはあまり現実的ではないのではないかと思う。

 圧縮効率に優れたH.264のおかげで、ビデオといっても動画384kbps、音声128kbpsの計512kbps程度で十分実用になる。音楽ライブラリを256kbps程度のビットレートで構築している人もいることを思えば、ビデオといってもデータ量は音楽の2~4倍程度に過ぎない。「15,000曲の音楽を持ち出せる」iPodであれば、4,000曲近いミュージックビデオを蓄積することだって可能だ。しかしバッテリ駆動時間、ビデオプレーヤーの仕様は、こうした使い方を想定したものとは思えない。このあたりが、ビデオ再生が「オマケ」にとどまる理由なのだろう。

●細かい不満はあるが優秀なプレーヤー

 最後に全般的な操作性だが、やはりフラッシュメモリベースのiPod nanoに比べると、何をやるにも1テンポ間合いが空く印象が否めない。ライブラリサイズも違うから、単純にフラッシュメモリとHDDの差ばかりではないだろうが、これまで曲を選択すると瞬間的にアルバムアートが表示されていたのにすっかり慣れてしまっていたので、かなり違和感を感じた。iPodの更新時間の短縮と合わせ、もう少しスピードアップして欲しい。

 現在は更新に時間がかかることから手動更新にしてしまっているが、自動更新の方が便利なことは間違いない。iPod側でライブラリ操作ができないことを踏まえれば、もう少しうまい手があるのではないだろうか。逆に言うと不満はそれくらいで、良くできた製品だと思う。

□携帯動画変換君のホームページ
http://www.nurs.or.jp/~calcium/3gpp/index.html
□関連記事
【10月21日】【元麻布】「iPod」の戦略と歴史
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1021/hot389.htm
【10月13日】Apple、QVGA液晶搭載MPEG-4/H.264対応の新「iPod」
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20051013/apple1.htm

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(2005年11月7日)

[Reported by 元麻布春男]


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