冒頭に書いたが、特注のRA30が届くまで我慢できず、汎用品の電源トランスを3つ使って、このDACに必要なものを仮で組んでしまった。2,000円程度の余分な出費になるものの、約10日間それで楽しみつつパーツのエージングが進むので良しとする。どんな機器でも新品の状態は音が不安定。少なくとも一週間程度のエージングが必要である。特に今回、OS-CONやDALE
NS-2B(巻き線抵抗)など、エージングに時間がかかるパーツを部分的に使っているのでなおさらだ。音の評価はある程度時間が経ってから行なうことにして、ネットラジオに接続しっ放しで一週間通電した。
EIタイプの汎用品×3トランス3つバラバラだと設置し難いので、適当な板に取り付けた。右側のトランスの後ろ、白いケースの中にヒューズも入っている。留守の時も通電しているので、突然故障すると怖い。安全性を考えると必ず入れるべきだろう。この状態で約一週間使用した。左から±7V/1.0A,
7v/0.5A, ±13v/0.2A |
RA30到着!株式会社フェニックスに特注したRA30が届いた。仕様は二次出力3回路(7-CT-7V/1.0A,
7V/0.5A, 15-CT-15V/0.4A,
静電シールド付き)だ。下の紙は実測のデータシート。サイズも非常にコンパクトで、汎用品を使うよりほぼ二分の一のスペースで済み、オーディオパーツっぽいルックスもGoodだ |
バラックで音出し中このシステムはサブとして日頃使っているもので、CDPとパソコンからのネットラジオ専用環境になっている。エージングで一週間以上音を出すには、CDを使うよりネットラジオの方が便利だ。好きな放送はradioioJAZZ。三日目まではガッカリするので真面目に聞かない方が無難かな!? | |
RA30について何通かメールを頂いた。筆者は注文した後に気が付いたが、アナログ用に±15Vは少し電圧が高く、25Vの電解コンデンサの耐圧がギリギリ(実測で約20V)になってしまう。また、PCM61P
16個には+5V:193mA, -5V:401mAの電流が流れるのでもう少しAを確保したい。従って、7-CT-7V/1.2A,
7V/0.4A,
13-CT-13V/0.4Aとし、計30VAの方がいいだろう。更にスペースの余裕があるなら、RA40以上を使い、7-CT-7V/2.0A,
7V/0.2A,
13-CT-13V/0.4Aなど、DAC用の電流に余裕を持たせればベストだ。また、全て独立したトランスでこのクラスを狙うのであれば、DACのマニュアルにも例として挙げられている、RSコンポーネンツ株式会社のトロイダルトランスも候補になる。
●DAC三つ巴の戦い!? エージングもほぼ終わったところで、お待ちかねの音質チェック!!ただ、音に関しては人それぞれな上、測定器を使わず耳だけの判断なので、かなり独断と思い込みに偏っている可能性がある。この点は予めご了承頂きたい。使用した機器は、McIntosh
C34V + MC7270 + MCD7007(トランスポートとして使用)、JBL D130 + LE175+
4530BK。昔のJAZZ喫茶的な音がするシステムである。
まず気になる電源トランスによる音質の違いであるが、これは驚くほど向上した。激変と言っても過言ではなく、とても同じDACから出てきた音とは思えない程だ。RA30は全てに渡ってEIタイプの汎用品を凌駕している。筆者もここまでの差が出るとは思っていなかったので、はじめて音が出た時には目が点になってしまった。価格差約7,000円であるものの、例えばこの価格帯のケーブルなどアクセサリ類の場合、これほど音は変化しない。やはりパワーの源である電源トランスは重要であることを再認識した次第だ。
次に、オペアンプ
NJM4580DDとOPA2604の比較。NJM4580DDの音は良く言えば柔らかくて優しい、悪く言えば、フニャフニャした頼りない音だ。対してOPA2604は元気が良くガッツのある感じ。ただ元気過ぎてもう少し繊細さや落ち着きが欲しいところか!? 一昨年、DTM用のA/D
D/Aコンバータ、ART
DI/Oを改造し、最終的に同じオペアンプを乗せたので、その印象と良く似ている。どちらも8パラDACの影響だろうか!? 馬力と滑らかさを兼ね備えた音である。キャラに違いはあるものの、オーディオ的にはやはりグレードが高いOPA2604に軍配が上がる。
さて、ここまでが当初予定していたパーツ構成-ケース代で計約4万円となっている。手持ちのDAC、Odeon-LiteとDA48(改/MUSE+OS-CON化)との差が気になるところだ。特にDA48は$499と値段が近い。早速、DAC三つ巴の戦いを実行した。
Odeon-Lite電源ケーブルを付け替えたり、ボリュームを外せばいい音になる! と言われているが、未改造のまま使っている。ふっわっとした感じの独特な空気を持つ。長時間聞いても飽きず、聞き疲れしないため、日頃サブシステムと組み合わせて鳴らしている |
DA48(改)内部にはGOLDMUNDのDACモジュールがそのまま使われ、価格からは想像できない音が出る。特に解像度が凄い。オリジナルは少し高域寄りのバランスであったが、電解コンデンサを取り替え低域までバランスがとれた。お気に入りのDACである |
PCM61P
8パラDAC(改)芯があって馬力のある音だ。McIntoshとJBLのコンビネーションで更にその傾向は強くなり、これを聞いた後では、他のDACが妙に物足らなく感じる。ただ、OPA2604の限界か、空気感や解像度は今一歩。前編で“とりあえず”と書いた理由はここにある |
●更なる改造!?
ここまできたら欲が出た! 素性は非常に良いので、予算オーバーしてでももう少し改造して更に上を狙いたいところ。デジタル回路を触るのは大変(と言うより思い浮かばない)なので、このDACの弱点と思われるアナログ部分に手を入れる。回路構成は前編で紹介したが、二回路入りのオペアンプを使い、片方はI/V変換、もう片方はLPF(fc=約40KHz)になっている。一般的な回路なだけに、ここを触れば音も変わるというわけだ。いろいろ実験してみたが、明らかに音質向上したものは、
- 一回路オペアンプ×2to二回路オペアンプ×1変換アダプタ(通称“ゲタ”)を使い、OPA627BP(もしくはOPA627AP)など、音質が良いとされている高級オペアンプを使う。(但し、1つ3,000円以上)
- OPA627計4つは予算的に厳しいので、取りあえず2つだけ購入し、LPFはCRだけ使ったパッシブ式に変更。オペアンプ二回路分を節約する。
- 電流式LPF+SATRI-ICを使ったI/V変換にし、アナログ部は完全に別回路とする。
この3パターン。特に1つ目の“一回路オペアンプ×2to二回路×1オペアンプ変換アダプタ”は、このDACに限らず良く使われる方法なので、知っていて損はないだろう。上位バリエーションとして考えられるのは、別基板に定数は全く同じアナログ回路を組み、サイズ的に入らない抵抗やコンデンサなど、高級パーツをふんだんに盛り込むのも手だ。ついでに左右独立電源にすると更にいい。最後の1つは、前から実験したかったものの、該当するDACが無く、今回はじめて試みた。とは言え、少しやり過ぎかな!?
失敗談は、ネットで調べると18bit8倍オーバーサンプリングならLPFは不要! という話が結構あったので、オペアンプが一回路減るというメリットもあり、実験してみたが全体的にキツい音になってしまい駄目だった。また、h_fujiwara_1995氏から「バイパスに付いてるチップコンデンサ(1μF)に10μF程度のタンタルコンデンサを極性に注意しながらパラればいい」とのアドバイスを頂いた。しかし、あの数を付けるのはかなり面倒。未だこの実験は行っていない。
ではその詳細を説明しよう。
ゲタを作って一回路のオペアンプを使う先の実験でわかるように、この手のDACはアナログ部のオペアンプによって音がかなり変わる。音質の良いオペアンプとしてOPA627は有名であり、これを是非とも使って見たい。ただし、一回路なのでこのような簡単な配線で二回路に合わせる |
ICソケットを2つ利用したゲタ今回は周辺の空き具合の関係で、16ピンと8ピンを接着剤でくっつけ、前8ピン以外のピンを切断し配線した。さすがに3,000円以上するOPA627BPを一気に4つは買えず、I/V変換に一組使い、LPFにはOPA604を使用した。4発の音も気になるところだ |
ゲタの実装実装するとこんな感じだ。そのままでは下のパーツに当たるので、8ピンのソケットをもう1つ間に入れている。予想通り音は抜群! もはや5万円クラスのDACの音ではない。手持ちのDACをも超えてしまった。どうやらメインのDACになりそうだ |
パッシブ式LPFを試す後に接続する機器のインピーダンスによってLPFの特性が変わるので、あくまでも実験。追加でオペアンプを2個買うまでの応急処置だ。ただ、ART
DI/Oも同じパッシブ式だったので、あまり気にせず試して見た |
信号を取り出す場所この赤いマークの部分が出力を取り出す位置となる。オペアンプは先のゲタを使い、I/V変換部だけOPA627BPを乗せる。この方法ならパターンカットなど手間もかからず、簡単に実験可能だ |
動作チェック実際の配線などは写真の通りとなる。ゲタを使ったOPA627BP+OPA604のパターンより音痩せするものの、少なくともOPA2604よりは良くなった。やはりOPA627BPの効果は絶大だ |
SATRI-ICを使ったI/V変換SATRI-ICの詳細はここをご覧頂きたいが、電流入力なのでそのままDACのIout(13pin)が接続できる。左側のCRが電流式LPFだ。DCサーボに使っているオペアンプもグレードの高いものにすると音が良くなる。8パラなので、Ioutの出力が最大1mA×8=8mAになってしまい、SATRI-ICのバイアス電流を定電流ダイオードE352で実測4mA流している |
信号を取り出す場所前編でこの抵抗を横付けした理由はこれ。上にユニバーサル基板が乗るので、縦付けにすると邪魔になってしまうのだ。赤いマークのリード線を切断し、基板側がIoutになる。抵抗側のリード線は絶縁テープなどを使って、他に触れない様にする。これならすぐに元の状態に戻せるので、オペアンプとの聞き比べも容易だ |
別基板に組み立て動作チェック回路自体は簡単であるが、その分、パーツの差が音に直結する。肝心の音は……ゲタを使ったOPA627BP+OPA604の更に上を行ってしまった。これが本来のPCM61P
8パラの音かもしれない。滑らかかつ力強い音で筆者の好みだ。特にドラムやウッドベースの弾む感じが凄い! IC上のジャンパは現時点で撤去しているので気にしないように |
以上、更なるグレードアップとして例を挙げてみた。今回のDACに限らず、一般的なDACの改造として知っている技は前編・後編でほぼ全て紹介したつもりだ。リクロックなどデジタル回路を変更する事も考えられるが、まずその前にアナログ回路を納得するまで触るのが面白い。パーツ1個変更するだけでコロコロ音は変化する。ツボを押さえれば、徐々に好みの音色になっていくだけに「自作の世界(地獄の世界ともいう)にはまりこむ」というわけだ。とは言え、筆者は技術的に詳しいわけではなく、ネットを使い関連情報を検索しながら真似しただけなので、プロから見れば間違っている部分があるかも知れないが、そこは趣味の世界と言うことでお許し頂きたい。
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