2007/12/03

ミランダ・ジュライにぶつかる

yom yom (ヨムヨム) 2007年 12月号 [雑誌]

 新潮社の「yom yom」第5号を買ってきたら、「岸本佐知子のヘンな部屋」という小特集が組まれていた。(1)翻訳、(2)日記エッセイ、(3)豊崎由美によるブックガイド、の3本立て。そこで(1)翻訳として載っていた、ミランダ・ジュライという作家がすごかったのである。
《わたしは自分の知ってる泳法をすべて教えた。バタフライはすごかった、あんなのたぶん誰も見たことがない。》

 今回、岸本佐知子が訳したのは、「水泳チーム」と「その人」の2本。とくに前者にはたまげた。海も湖もプールもない町で、泳ぎ方を教える女の子の話。しかも生徒は80歳を越えた老人。
 ちょっと変わった女の子の一人称、とか説明すると無用な偏見が生まれるかもしれないが、そんなところをかるがると越え、最初の数行でしっかり特異な世界が立ち上がり――、とか書いても何も伝わるまい。「水泳チーム」が7ページ、「その人」が4ページしかないので、もう全文引用したいくらいの気持になった。ヘンで強烈。ヘンに切ない。
 それこそ、これまでに岸本佐知子の訳したリディア・デイヴィス(『ほとんど記憶のない女』)とかジュディ・バドニッツ(『空中スキップ』)、あとほかにケリー・リンクあたりを面白く読んだ人なら一撃で気に入るんじゃないかと思う。そんな作家ひとりも知らないよ、という人は「yom yom」を立ち読みしてみよう(あんなパンダの本、立ち読みできないしレジにも持って行けないよ、という人には、もしかすると向かないかもしれない)。

 ミランダ・ジュライは、まず映像の人として活動しているそうで、「君とボクの虹色の世界」という映画で話題になったらしい。ちょっとググると、「ほぼ日」にインタビューがあった。

 「ミランダ・ジュライのマジカルな瞬間」
 (「ご近所のOLさんは、先端に腰掛けていた。」vol.112/2006/04/05)
 http://www.1101.com/OL/2006-04-05.html

 そして、この人についていちばん情報があるのは、このはてな日記だと思われる。

 「saltwatertaffyの日記」
 http://d.hatena.ne.jp/saltwatertaffy/
 
 このはてなは、『ブック・イン・ピンク』『ハイスクールU.S.A』の著者のものだった。なるほど。(→「ミランダ・ジュライ」で検索

「水泳チーム」「この人」は、どちらもNo One Belongs Here More Than You という短篇集に入っているそうで、はやく全訳が読みたい。
「岸本佐知子のヘンな部屋」では、(2)日記エッセイもいつも通り面白かった。今年初頭の『ねにもつタイプ』があちこちで話題になったから(なったと思う)、きっと読者も増えただろうし周囲の期待も高まろうというものだが、本人は変わらぬ調子で日々を刻んでいらっしゃるように見えるのが頼もしい。白水社日記の更新を、私はまだ待っている。もう2年半くらい待っている。
《九月某日 美人女優が茶色いトイ・プードルを抱いてにっこりしている写真のキャプションを「私とウンコのハッピーライフ」と読み間違えたうえに、犬もウンコと見間違える。自分は疲れている。》

「yom yom」に載っている創作は、私があんまり読まない類の作家がほとんどなのだが(みんなそんなに恋愛小説が好きか?ほんとうに?)、何だかんだ言いつつ、毎号そしらぬ顔で剛速球を投げ込む川上弘美とか、震えながら読んでいます。


No One Belongs Here More Than You: StoriesNo One Belongs Here More Than You: Stories
(2007/05/15)
Miranda July

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コメント

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ミランダ・ジュライ

私もすっかり打ちのめされました。
彼女の表現はどれもこれも好きです。

なるほど

くだんの短篇集の収録作は16本あるらしく、
いまのところ3本が発表されているので・・・
7月くらいの刊行は・・・

どうなんでしょうね。

いまさらミランダ・ジュライ

はじめまして
と、こんなところに書いて、気づかれるかわからないのですが。本日、ミランダ・ジュライを知って。衝撃的に好きになったので。まだ単行本になっていないからか。ミランダ・ジュライのことを書かれているサイトがあまりないなあ。と思いつつ、こちらのいろいろを読ませていただきました。
あ。ユリイカの情報だと、今年に翻訳が出版されるようですね。

さらに

しつこくてすいません。なんと。ミランダ・ジュライは、今年の横浜トリエンナーレに来る?出展?パフォーマンス?たぶん、映像の出展なのでしょうか。参加者リストに入っているのに、驚きました。

こんにちは

ほんと、衝撃的ですよね。
「ミランダ・ジュライの翻訳を静かに待つ人の会」
でも作ろうかという勢いです。
(活動:静かに待つ)

> ミランダ・ジュライは、今年の横浜トリエンナーレに来る?

初耳でした。そのくせ、「なるほど」と納得もできるような。
私は映画を見るところからはじめたいと思いました。

映画から入ったものですが、ミランダ ジュライの文章が翻訳されてるなんて!!
こっちも初耳です!!早速 本屋さんで探してみたいと思います。

こんにちは

いろいろ遅い私はまだ映画を見ていないのですが、
うえの記事を書いたあと、ミランダ・ジュライの短篇は

「共同パティオ」が「ユリイカ」2008年3月号(特集*新しい世界文学)に、
「マジェスティ」が「新潮」2008年9月号に、それぞれ掲載されています。

前者の感想はちょっとだけ書きました。
 → http://outofthekitchen.blog47.fc2.com/blog-entry-474.html
後者もやっぱり面白かったです。

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