広い海の中にいるクジラの居場所がわかるのはなぜ?

おしごと年鑑 「知る」「学ぶ」「楽しむ」をかなえるお仕事 2020年度
一般財団法人 日本鯨類研究所

海で生活する特定のクジラの居場所を、どうやって調べるのか、そこから何がわかるのかを、日本鯨類研究所に教えてもらったよ。

人工衛星のシステムを利用して、追跡調査をしているからです。

クジラたちは、種類によってすんでいる場所が違います。暖かい海が好きなクジラもいれば、冷たい海を好むクジラもいます。大きいクジラは、季節によってエサを求めてあるいは繁殖するため、海を南北に大きく回遊します。
世界中の海にすむクジラたちの居場所は、クジラの体に衛星標識という発信機をつけて、そこから送られてくる電波情報を人工衛星を通して受け取り、追跡調査を行うことでわかります。

【クジラの居場所がわかるしくみ】

クジラの居場所がわかるしくみ

1 クジラに発信機をつけます

2 発信機から人工衛星に居場所を伝える電波が送られます

エサを求めて移動してるよ!

クジラ

3 電波をキャッチした人工衛星は、情報処理センターにクジラの居場所の情報を送ります

4 情報処理センターは、研究者に人工衛星から届いた情報を送ります

5 送られてきた情報を解析して、クジラの居場所や、どんな動きをしているかを調べます

どこの海にいてもちゃんと観察してるよ!

研究者

クジラの居場所が教えてくれること

クジラの居場所は、さまざまなことを教えてくれます。例えば、クジラの居場所を追跡することで、どこの海へエサを食べに行き、どこに帰るのかがわかります。このことから、どの海域にクジラのエサとなる魚やイカがいるのか、海の資源の情報がわかります。また、長い期間クジラを観察することで、クジラの生まれ育った場所がわかります。それによって 、クジラの集団の情報がわかります。他にも、どの海域にどんな種類のクジラがいるのか分布がわかります。私たちはクジラの生態を知ることで、クジラのいろいろな生活史や、さまざまな海の環境を教えてもらっているのです。

クジラの動きから、海の環境のことも教わってるんだな

ヒナタ

海の生態系を守る!

私たちは、海で生きる魚やイカなどのさまざまな生き物を食べ物として利用しており、どれも大切な食料資源です。これらの生き物は、食う食われるの関係(食物連鎖)の中で海の生態系のバランスを保ちながら生存しています。クジラはこの食物連鎖の高位にいる生き物で、季節や場所によって異なるエサを追って、夏に日本周辺の海に移動してきます。魚、イカ、さらにプランクトンなどはもちろんのこと、クジラを調べることで食べ物としてのクジラを守るだけではなく、海の生態系の仕組みや環境変化を理解することができます。鯨類を専門とする私たちの研究所は、クジラの研究を通して、海の生態系を守り、食料としてクジラ資源を安全に将来にわたって利用できることを証明するのも仕事の一つです。

1頭のクジラの体からわかることは?
1頭のクジラの体からわかることは?

1 耳アカの年輪から年齢がわかる!

1 耳アカの年輪
1 耳アカの年輪

写真提供:国際水産資源研究所

2 脂皮の厚みや胴回りから栄養状態がわかる!

2 脂皮の厚みや胴回り
2 脂皮の厚みや胴回り

3 体重や体長、食べていたエサ、性別などがわかる!

3 体重や体長
3 体重や体長

他にも……骨を調べると、成長しているか、もう成長が止まっているかがわかる!

他にどんな調査があるの?

目視調査

目視調査

調査船がジグザグコースを走り、発見したクジラの種類や数を調べます。

衛生標識装着

衛星標識装着

衛星標識を装着して、クジラの旅を見る方法です。クジラがいつ、どこに向かって移動しているのかを調べます。

バイオプシー採取

バイオプシー採取

クジラの表皮と脂皮の一部を採集して、DNAなどの遺伝情報、ホルモンやエサの情報などを調べます。

海洋観測

海洋観測

クジラやそのエサの分布は海洋環境と密接な関係にあるので、海洋環境を調べることはクジラの分布や生態系を知る上で不可欠です。

クジラの生態系の仕組みを調べる仕事です

答えてくれた人

一般財団法人日本鯨類研究所 研究者 小西健志さん

鯨類とは、イルカやクジラなどの仲間の意味です。日本鯨類研究所では、クジラの生態に関することだけでなく、海の魚と同じように、クジラを守りながら利用する資源管理も大事な仕事の一つとなっています。ここは、主にナガスクジラなどの大きいクジラについても扱っている、世界的にも珍しいクジラ専門の研究所です。
私の仕事は、何十年にわたるクジラの太り具合の変化や食べているエサ、皮膚の一部を分析して生態系の仕組みを調べたり、クジラに発信機を装着して行動や回遊経路などを調べたりしています。調査では、数カ月間船に乗って南極海や北太平洋の海へ調査に出かけることもありますが、調査が終われば研究所に戻り、一日中パソコンを使って解析をしています。
将来、クジラの研究者を目指す人へ。クジラは世界中の海にいるので、海外の研究者とコミュニケーションをとるために英語の勉強はとても大事です。また、みんなで調査した結果を、きちんと論文に発表することが研究者の一番重要な仕事です。そのためには、自分の考えをしっかり持って、アイデア(発想)をどんどん出せるようになるといいと思います。

クジラの動き方は、クジラがそこで
何をしているのかを教えてくれます

答えてくれた人