アンドロイドの論点 : 「アンドロイドにとってクラウド、Googleとは何なのか?」

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アンドロイドの論点も今回が3回目。1、2回目が好評だったことを受け、引き続き連載させていただきますgamellaです。前回のアンドロイドの論点では「アンドロイドアプリは儲かるのか?」を取り上げましたが、この中で取り上げなかったアンドロイドのキーワードであるクラウドとGoogleについてを今回は取り上げたいと思います。

Googleにとってアンドロイドの役割とは何なのか

本稿では最初にGoogleにとってのアンドロイドの役割を整理しておきたいと思います。と言うのも、一般的にWeb検索企業であるGoogleが、どうしてモバイル・組み込み機器向けOSであるアンドロイドの開発に乗り出したかを考えることが、このあたりの大事な部分だからです。
まず、Googleの利益の大半を稼ぎ出すものはWebで行われた検索の結果のページなどに差し込まれるアドワーズという広告です。Googleはこのアドワーズ広告でその利益の97%を稼ぎ出しています。では、そのような状況でGoogleが利益を最大化する方法は何でしょうか。それは以下の2種類です。

  • 世の中で行われる検索を可能な限りGoogleを通したものにすること
  • 世の中で行われる検索の全体の総和を増やすこと

前者はGoogleとYahoo!Japanなどの提携を見てもわかるとおり着々と進められています。そして、アンドロイドは後者のミッションをクリアするために作られたものなのです。世界で行われる検索の総和が増えれば自動的にGoogleの取り分は増大していきます。これはつまり世界のインターネットのサイズそのものがGoogleの利益であり、Googleにとってはインターネットのサイズを拡大することこそが利益につながることを意味しています。このビジネスモデルは極めてシンプルでパワフルであり、ほとんど類をみません。
この戦略に従ってGoogleはアップルのように専用デバイスを作成するのではなく、アンドロイドというオープンソースのアプリケーションプラットフォームをLinuxをベースに作成し、多くの企業がアンドロイドデバイスを作成できるようにしました。アンドロイドデバイスが増えたからといって、Googleの検索が必ず行われるという保証はありません。しかし、繰り返しになりますがGoogleにとっては世の中で行われる検索の総和が増えれば勝手に自分達のパイも拡大するので、他の企業が利することになっても、そのような小さなことに関係なくアンドロイドデバイスを普及させているわけです。
このスタンスの違いは明らかに他の企業とGoogleとの差別化・衝突の要因になっており、先日、Oracleがアンドロイドに搭載されたJavaの実行環境であるDalvik VMに利用された技術を特許侵害としてGoogleを訴えた一件も、大きく見ればこの企業間のスタンスの違いによる衝突と考えて問題ないでしょう。この問題も注意深く海外サイトで状況を追ってますので、今後ある程度進捗があったら論点として取り上げたいと思います。

ゲームコンテンツを例に考える

上記で説明したGoogleにとってのアンドロイドの役割の中で重要なポイントはなんでしょう。それは「アンドロイドデバイスが可能な限りオンラインに保たれること」です。逆にいうとアンドロイドがオフラインの時に便利すぎる機能があると、それはgoogleにとってあまり喜ばしいことではありません。
魅力的なアンドロイドアプリはいっぱい存在していいが、最終的にはそれらのアプリもオンラインになることで魅力が増大する。そのようなことを意図した設計・仕様がアンドロイドの各所に見受けられます。逆に、アンドロイドでネットワークに接続しなくても遊べる本格的なアプリケーションを作れと言われたら結構大変だろう、とアンドロイドの仕様をみて思います。
例えば、携帯デバイスにおける最も魅力的なコンテンツの1つであるゲームであっても、現状のアンドロイドの仕様を見るに、PSPクラスのゲームを今発売されている全アンドロイド端末で動くように作ることはかなり難しいのではないかと思われます。その原因はアンドロイドに最低限必ず満たしているGPUのスペックが存在しておらず、また解像度もまちまちであることです。3Dゲームを作ったことのある方ならご存知かと思いますが、3Dグラフィックというのは、どのくらいそのデバイスに搭載されたGPUのハードウェア機能を上手く使えるかでかなりできることが変わります。iPhoneであれば、テクスチャーの見栄えの良いゲームを作ろうと思ったら圧縮されたテクスチャ(PVRTC)を読み込むiPhoneに搭載されたGPUのハードウェア機能を使うことになります。また、ゲームの中で利用する様々な素材もある前提となる解像度が存在したら、それに合わせて作り込むこともできますが、そのあたりもまちまちでアンドロイドでは解像度は固定せずアプリケーションのレイアウトが可変になるように作ることが推奨されています。
このように前提となるハードウェアが存在しない、またはそのスペックが多岐に渡る環境では、まともなゲームを作るということはかなり難しいのです。例えば、Googleが作成したネクサスワンをアンドロイドの標準デバイスと考えることも出来ると思いますが、現状出荷されているデバイスを見るとネクサスワンの仕様は少しリッチすぎる気がします。ネクサスワンを仮定した場合、日本で最も普及しているソニー・エリクソンのXperiaではアンドロイドOSのバージョンが異なることも含め、なかなか動作させることは難しいでしょう。これがアンドロイド2.2になりデバイス間の差異を埋めるFlashのような技術が実用化されてくれば話は別ですが、少なくとも今の環境でアンドロイドでPSPレベルのゲームをつくれと言われたら大部分のエンジニアは躊躇すると思います。これがiPhoneならば、3GS以降のモデルを対象にするなどすれば、かなりスペックは統一されるのでそれほど難しくありません。ただ、現状のアンドロイドの仕様ではどうしてもソーシャルゲームのようなグラフィックに頼らないネットワークよりのゲームを作らざるを得ないと思います。
ネットワークゲームであれば、グラフィックの遅さなどネットワーク自体の遅延でいくらでも隠蔽できます。そもそもネットワークゲームはある程度の遅延が発生した場合も問題が起きないように設計するのが通常なので、このあたりはあまり問題になりません。よって、ソーシャルゲーム、ネットワークゲームはコンテンツ課金の仕組みが整えばアンドロイドでも無理なくスタート出来ると思います。

クラウドこそアンドロイドアプリの価値の源泉

ゲームコンテンツの例が長くなってしまいましたが、上記のような状況をGoogleが意図していたと考えるのは勘ぐりすぎでしょう。ただ、単純にオープンでポーティング可能な設計にしたらこうなってしまったのでしょう。しかし、この設計こそがGoogleの「インターネットのサイズを拡大する」というミッションから生まれたものなのです。
少なくとも現在のアンドロイドは、様々な処理をクラウドに頼ったほうがより良い価値がでるように設計されています。それは敢えてJavaを標準言語として採用し、インテントという仕様で単一のアプリを複数のアプリと連携させることで新たな価値が生まれてくるようにした仕様からも見て取れます。アンドロイドは膨大なデータ処理能力を備えたGoogleのデータセンターのような外部計算装置が存在してこそ能力を発揮する仕様なのです。
一個のアプリを作り込みたい時は、iPhoneのように特定箇所をC言語でガリガリにチューニングできるobjective-Cのような言語の方が明らかに有利です。しかし、JNIで拡張可能とはいえガーベジコレクタを備えた一般的には組み込み機器には向かないと考えられていたJavaを標準言語にしたことが、Googleにとってのアンドロイドの役割を明確に表しています。
この戦略の一端を確認できるのがiPhoneでも提供されているGoogleの音声検索です。一度試したことのある人なら御存知かと思いますが、Google音声検索はものすごい精度で音声認識を行ないます。多くの人が今まで見たことのない、iPhoneに搭載されたおもちゃのような音声コントロール機能とはモノが違う精度です。あの音声検索も肝心の音声認識エンジン部分は全てデータセンター側にあり、端末側はデータを送るだけの仕様です。もしデータ処理部分をデバイス側で行わなければいけないとしたら、それはJavaでは難しかったでしょうし、例えC言語でも不可能だったと思います。このような到底モバイルデバイスでは実現できないと思われていた機能をクラウドを通して提供してくことがGoogleの真骨頂でもありますし、このようなアンドロイドアプリを増やしていくことこそGoogleの「インターネットのサイズを拡大する」というミッションに合致するわけです。

この方向性を納得できない企業も存在する

これらのクラウドに頼るという部分はGoogleにとっては非常に重要なポイントなのですが、アンドロイドで幅広いコンテンツを展開しようと考える他の企業にとってはあまり面白くありません。全ての企業がGoogleのようなデータセンターを持っているわけではないですし、よりリッチなコンテンツ、ゲームなどを提供したいと考えている企業も多いと思われます。
このことをGoogleも敏感に感じており、アンドロイド3.0では一定スペックのハードウェアを必要とするような制限が入ると言われています。また、あまりにも自由すぎたアンドロイドの仕様を見直し、UIの基本部分は統一しようという動きもあるようです。
この辺りのスペックの制限、UIの仕様などの動きは、今後のアンドロイドの将来を決める部分かと思うので注視する必要があると感じています。






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