相撲春秋BACK NUMBER
白鵬が浴びた大阪のシビアなヤジ。
「銭の取れる相撲」に値しない千秋楽。
posted2016/04/05 11:00
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph by
JMPA
かつて“戦う男たちの最高峰”にあった海軍大将・山本五十六元帥は、後世の男たちに格言を遺した。
苦しいこともあるだろう
言いたいこともあるだろう
不満なこともあるだろう
腹の立つこともあるだろう
泣きたいこともあるだろう
これらをじっとこらえてゆくのが
男の修行である
堂々と胸を張れず、謝らざるを得ない相撲。
大阪場所千秋楽。
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観客が背を向けるように席を立ち、熱気が急速に冷めていった館内の中央に、白鵬がいた。ブーイングと拍手の入り交じるなか、優勝力士インタビューを受けると、「そんなにまでして勝ちたいか!」などと辛辣なヤジが四方から飛ぶ。
「ああいう変化で決まるとは思わなかった。本当に申し訳ないと思います……」
4場所ぶりに賜杯を胸にした白鵬は、異様な雰囲気に気圧されるかのように言葉に詰まり、こらえられずに溢れる涙をぬぐっていた。
「まあ、大阪じゃなかったら、あそこまでヤジもひどくなかったやろな。大阪はシビアや。タイガースが負けたらボケやらアホンダラやら、えげつないで。吉本(新喜劇)でも、オモロなかったら“金返せ!”言うからなぁ」
そんな浪花のファンの言葉を耳にした。
われわれは横綱に品格を求めるが、「ファンや観客には品格なんぞない」と思って掛かり、ときには敵に回すことも致し方ない――そんな覚悟を持っていなければならないのが横綱でもあろう。しかし、人間味溢れるセンシティブな横綱は、ブーイングとヤジに“変化”もせず、いなすこともできずに真っ向から受け止めてしまった。己の持てる力を精一杯出しての相撲だったならば、言い訳も謝罪も必要ない。36度目の優勝に堂々と胸を張れず、謝らざるを得ない相撲を見せてしまったことを、白鵬は一瞬でも後悔したのだろうか。
白鵬が流した涙の裏に、言い尽くせない理由がほかにあったとしても、観る者がその事情に思いを馳せ、想像し、同情しなければならないのだろうか。
否、戦う者に求めるのは目の前の事実だけ、「結果がすべて」なのである。