野ボール横丁BACK NUMBER
日本ハムが貫いたドラフトの信念。
菅野騒動で問われる球団の姿勢。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/10/31 12:05
津田敏一日本ハム球団社長が菅野の指名権獲得を確認した瞬間。「スカウティングと育成で勝ち続けるのが、ウチのモットー」と胸を張った津田社長
本当にそうだろうか。
先日のドラフト会議で、日本ハムが東海大の菅野智之を先方に何の断りもなく指名したことについて、一部の関係者が「失礼だ」と憤慨しているという。
しかし、指名する場合、事前に監督等に連絡を入れるのは「礼儀」ではない。あくまで球界の単なる「慣習」だ。
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どのような展開になるのかもわからないのに、指名するであろう選手にいちいち連絡を入れていたのではキリがない。おそらく今年も、何の連絡もないままに指名を受けた選手は菅野だけではないだろう。
そもそも日本ハムでは、ドラフト当日まで、誰を指名するかを知っているのはGMを始めとするほんの数名の幹部だけだ。
日本ハムのスカウト、岩井隆之が明かす。
「僕は横浜でもスカウトをしていたんですけど、日本ハムにきてびっくりしましたよ。僕らはぜんぜん知らないんですから。だから、報道関係の人も日本ハムだけは最後まで絶対に読めないと思いますよ」
マスコミや他球団への情報漏えいを防ぐ――。指名選手をごく一部の人にしか明かさないメリットは、まずはそこにある。
そうした球団の絶対方針があるため、現場の担当スカウトも相手先に連絡のしようがないのだ。
球団が「指名予定です」と事前に伝えたばかりに悲劇も生まれ……。
'08年に日本ハムが東洋大の捕手、大野奨太を1位指名したときも、担当スカウトと東洋大の監督は、まさか1位で指名されるとは思っていなかったから、2人して仰天していたという話だ。もちろん、このときは大野自身が12球団OKという姿勢を示していたこともあり、何ら問題にはならなかった。
また、これは日本ハムのケースではないが、逆に「4位ぐらいでA選手を指名する予定です」と知らせていたばっかりに先方の不興を買ってしまったというケースもある。
ドラフト会議は何が起こるかわからない。特に2位以下になると、指名したいと思っていた選手がすでに指名されていたり、逆にいないと思っていた選手が残っていたりする。そのたびに戦略も二転三転する。A選手の場合も4巡目に回ってきたとき、すでに指名を受けていると思われていたB選手がまだ残っていたため、その球団は急きょB選手に乗り換えてしまったのだ。
しかもA選手とB選手のタイプがあまりにも似ていたため、5巡目以降もA選手の指名は見送られた。
結局、どこからも指名がなかったA選手の落ち込み振りは尋常ではなく、彼が所属していたチームの監督は指名予定だと言ってきた球団に激怒したという話だ。