「IT書籍の索引について考える」(KeN's GNU/Linux Diary)まず索引というのは、そもそも正しいページを参照するものでなければなりません。42ページを見よとなっているのに、そのキーワードも関連する概念の説明も42ページに出現しないのはまずい。また、キーワードAに対して「キーワードBを見よ」などとなっている場合もありますが、これが循環しているのもまずいです。Aの項にもBの項にも具体的なページ番号がないのは論外ですが、「…も見よ」が循環しているのもまずいです。こうした参照先について要求されることがらを「索引の健全性」と呼びます。(いま作った用語。このほか、キーワードが正しく五十音順に並んでいることなんかも健全性に含まれますね。)
矢吹さんのtweetから始まって、まとまりはないけど索引について思考実験。オチはないよ。
一方、索引には、キーワードがあますところなく網羅されている必要もあります。こちらは、いわば「索引の完全性」です。索引の完全性は、「このキーワードの説明ページに飛びたい」に応えることだけではありません。「本に出現するキーワードはわからないけど、こんな話ってどこに書いてあるんだろう」とか「この話、あのキーワードの近くに説明があったような……」といった漠然とした要求にも応えられるよう、キーワードが選ばれている必要があります。
読者にとって索引の悲劇というやつは、たいてい、完全性が満たされていない事態です。健全性がまるでないことが発覚した本は、発行後に回収される場合さえあるので、作ってるほうはあまり手を抜いてません。健全性は機械的に(必ずしも自動的にという意味ではない)チェックができる性質でもあります。時間や人手が足りないなら、項目を減らせばいい。かくして完全性からは程遠い索引(けど健全)ができあがります。@kmutoさんが指摘するように、索引はページ割りが確定しないと着手できない場合も多く、それはスケジュール上は時間や人手が最高に足りない時間です。つまり索引の完全性は、なりゆきで本を作っていると、おのずから低下します。少しでも完全性の高い索引を作るには、著者や編集者にそれなりの心構えが必要ということです。心構えというより、むしろ覚悟がいります。
- キーワードの選択と参照先ページの決定(この両方の作業をインデキシングといいます)には時間がかかるという覚悟
- インデキシングに著者を巻き込む覚悟
- 著者にはできないインデキシングもあるという覚悟
で、その時間を誰に割いてもらうか、というのが上記の2.と3.です。@kmuto さんがいうように、本の中身をいちばんよく知っているのは著者であり、著者が主体的にインデキシングした本はよい索引になることが多いです。が、ページ割が決まった後でないとインデキシングできないのでは、著者に作業をお願いしにくい。この点、LaTeXとかXMLからの自動組版は秀でています。なにせ、著者が自分の手で原稿に入れたメタ情報をそのまま情報を落とさずに利用できるのだから。つまり、こういう要求にも応えられる。
自分のDebian徹底本では索引用に5種類くらいのタグを使い分けて後処理していた。当時は紙に組んだら情報がかなり落ちてしまったのでいろいろもったいなかったんだけど、今ならもうちょっとうまい方法を思いつけそう実際、『RailsによるアジャイルWebアプリケーション開発』という本の第2版以降は、原著のXMLデータ(著者本人が作ってるもの)からあらゆるインデキシングに関する情報を抜き出しているつもり。(第4版はもうちょっとお待ちください。)
http://twitter.com/#!/kmuto/status/106236697867599872
とはいえ、著者が作ればうまい索引になるというわけでもないのだよなあ。そこで、だからこそ編集者がいるんだ、というポジショントークです。最近の自分がかかわった例だと、『Coders at Work』という読み物があるのですが、これ、ちゃんと索引つけています。なんで読み物に索引ついてるんだという話ですが、この記事で最初のほうに言及した「この話、あのキーワードの近くに説明があったような……」に応えるためというのと、複数の話者のインタビュー集なので、同一の話題をパラレルに参照可能な手段があるほうがよかろうなと考えたからです。たとえば「テスト」のような項目を引いてもらうとわかりますが、別々の話者が主にテストについて語っている部分に飛べるようになっています。「テスト」というキーワードの直接出現がない場合もあるので健全性を一部犠牲にしていますが、後悔はしていない。なお、本書は原書にも索引はあるのですが、これが典型的な「それっぽいキーワードの出現箇所を適当に参照してみました」な出来だっていたので、結果的には参考にしませんでした(どうやら英語圏の大手出版社には「indexer」という専門職がいるようなので、その仕事っぷりによって索引の出来が大きく左右されてるような気もします)。
とはいえ、編集者が不要なインデキシングができるすごい著者はたくさんいて、たとえば『プログラミングのための確率統計』の著者の方々とか。それでも、編集者としては、たとえば「Γ関数」を「G」からも「記号・ギリシャ語」からも「カ行」からもひけるようにしました。いや、もしかしたらこれも平岡さんがやったのだったっけ? そこはかとなく気もしてきましたが、とにかくこれはすごい本です。