まるで子どものような老人ホームの人間模様
―[キレる老人たちの暴走現場]―
10月10日、東京都世田谷区の住宅街で隣人トラブルが原因とされる殺人事件が起きた。被害者の62歳の女性は日本刀で斬りつけられて、搬送先の病院で死亡した。一見すると隣人トラブルに端を発した殺人事件であるが、容疑者である徳永重正が元警視の86歳の老人であったことが世間に衝撃を与えた。
作家・藤原智美氏が『暴走老人』を発表したのは‘07年のこと。キレる老人が社会問題として一躍注目を集めたのは、記憶に新しい。あれから5年。キレる老人や常識外れに暴走する老人たちの話題には、今なお事欠かない。
今回はこうした老人達の暴走っぷりを取材してみた。
◆非常識な老人たち
「今、わたしは妊娠していて妊婦バッジもしているんですが、バスで座っていたら『あんた、妊娠なんて別に病気じゃないんだから、席譲りなさいよ』っておばあさんに怒鳴られたことがあります。横にいた会社員の方が間に入ってくれたお陰で助かったのですが……」(33歳・女性・スタイリスト)
「地下鉄で並んで待ってたら、電車が来た途端に突っ込んできて僕と後ろの方が弾き飛ばされたんです。さすがに頭にきて『どういうつもりだ!』って言ったら、『老人優先だろ!』って。割り込みしていいなんてことはないですよ」(36歳・男性・自営業)
「電車の中で本を読んでたら、いきなり『どけ!』って言われたことがある。そりゃ老人優先だし、譲るけど言い方ってあるんじゃないの?」(22歳・女性・大学生)
「よく、生鮮食品などはロスを出さないために、タイムセールや閉店間際の割引をしますよね。ある日、お刺身を並べていたら70歳くらいの女性の方がいきなり怒鳴りつけてきて『早く割引のシールを貼れ!』って……。まだ、時間じゃないと断ると、『いつもはこのくらいの時間に貼ってる』ってわーわー騒がれました。ほかにもおじいちゃんが割引対象じゃないものを持ってきて、『こっちにも貼れ!』と言わたことがあります」(50歳・女性・スーパー)
こうしたクレームならまだよいのだが、中には暴力沙汰に発展するケースもあるという。
「ウチの地区ではゲートボールが3年くらい前から禁止になったんです。そのワケは老人同士の殴り合いのケンカが何度か起きてしまったからなんです。ゲートボールって相手のボールを邪魔するようにボールを置いたりするんですが、『貴様! なんでワシのボールばっか邪魔するんだ!』『そんなことはない!』ってなやり取りが、最終的に殴り合いの大乱闘に発展してしまったんです。結局、話し合いをした結果、もうゲートボールは禁止しようと……」(関東地方在住の男性)
ゲートボールが原因で殴り合いとは、なんとも穏やかではない。
◆まるで子どものような老人ホームの人間模様
また、老人同士で仲良く暮らしているというイメージの老人ホームでも、こうしたケンカは頻繁に起こるという。中部地方で介護士をする30代の男性に話を聞いた。
「若い人よりも老人の方がですね、頑固というか自我が強いんですよ。だから言い争いになると、どっちも引かない。嘘のような話ですが、色恋沙汰でケンカになることもあったりするんですよ。お気に入りのおばあちゃんに『慣れ慣れしく喋ってた』とか……」
老いてなお盛んと言うべきか……。さらに介護士の男性に、老人ホームでの人間模様について話を聞いた。
「地元が同じだった幼馴染みが入ってくると、当時のガキ大将と子分みたいな関係が復活することも多々あります。それが原因でイジメが起きることもありますね。会話のベースは基本的に若い頃や働き盛りだった頃の自慢話。まぁ、確かに70歳、80歳の方が前を向いて将来について考えるって難しいですから、それは別にいいと思うんです。おかしいことにみんながみんな、自慢話をぶつけ合うから、意外と会話が成立したりするんですよ。でも、自慢話も度が過ぎたり明らかに嘘だったりすると、嫌われてのけ者にされてしまいます。人間関係は、ハッキリ言って小学生レベル。これは良い意味でもあり、悪い意味でもあります。良い意味は単純で裏表がないということ。感情に素直ってことです。悪い意味は、人間関係のヒエラルキーをすぐに作ろうとすることですね。だからちょっとしたことでイジメに繋がったりします。建前がなかったり自分の心の中で処理できない分、問題に発展しやすいんですよ」
介護士によると、こうした人間関係の問題には非常に敏感にならざるを得ないという。
「誰からも相手にされず孤立してしまうと、老人の方って急速に老け込むんですね。心がふさぎ込むと体の調子もすぐに壊します。あと、よく聞くのは自殺です。こうしたことにならないように、我々がある程度人間関係に入り込んで、クッションのような役割をしないとダメなんです。不平不満を聞いてあげたり、悪いことをしたりイジメになりそうだったら距離を置かせるように誘導したりもします。叱ることはないですが、やんわりと釘を刺すくらいはしますね。僕らなんか、おじいちゃんたちからすれば孫みたいなもんです。そんな年齢の人間から叱りつけられたら、プライドが傷つきますからね。だから、よほどのことがないと叱りませんね。神経使いますよ」
高齢化が加速していけば、老人問題はこれからもっと増えることになるだろう。そして、こうした暴走老人たちの問題もより身近になり、かつ巻き込まれて当事者になる可能性は十二分にある。そうした時、いかに問題を大きくしないようにするかは、彼ら老人たちの考え方などを我々が理解することにあるのかもしれない。今回、様々な分野の人に話を聞いて、決して頭ごなしに解決しようとしてはならないと筆者は強く感じた。 <取材・文/テポドン(本誌)>
― キレる老人たちの暴走現場【2】 ―
『暴走老人!』 老人の暴走は今日もどこかで |
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