地方鉄道の経営は厳しい。赤字の路線が当たり前で、沿線自治体からの支援でやっと維持している。支援が打ち切られると路線廃止の危機という鉄道会社もあるようだ。

とくに自治体と民間資本が協同出資する第3セクター鉄道は赤字会社ばかりだ。もともと国鉄時代から赤字ローカル線として廃止される路線だったり、運行しても赤字になるからと建設中止になった路線だったりするからだ。赤字を承知で運行し、やっぱり赤字で困っている……、そんな第3セクター鉄道は多い。

ところが、そんな第3セクター鉄道の中に、開業以来16年間も黒字決算で、100億円以上も積み立てた会社がある。なぜ黒字で運営でき、そんなに貯金できたのだろうか?

「稼ぎ頭」はこの特急列車

関東と北陸を結ぶルートで特急列車が稼ぐ

16年間で100億円以上も貯金したローカル鉄道会社、それは北越急行だ。新潟県が資本金の過半数を出資し、他に沿線自治体、地元銀行、電力会社なども出資している。路線は「ほくほく線」ひとつだけ。JR上越線の六日町駅(南魚沼市)と、JR信越本線の犀潟駅(上越市)を結んでいる。新潟県の山間部と日本海沿岸を結ぶ路線である。

大都市に近いわけでもなく、有名観光地もない。そんな地域の鉄道路線が、どうしてそんなに儲かっているのか? この路線では現在、1日13往復の特急「はくたか」が走っている。この特急列車が「稼ぎ頭」だ。「はくたか」は越後湯沢駅から北陸方面の富山・金沢を結ぶ特急列車である。越後湯沢駅で上越新幹線と接続するため、東京など関東地方から北陸地方へ移動する人の多くが「はくたか」を利用する。

北越急行ほくほく線と他の路線との関係

関東地方から北陸地方へJR線だけで行くとなると、米原駅で東海道新幹線と在来線特急を乗り継ぐルートと、長岡駅で上越新幹線と在来線特急を乗り継ぐルートがある。しかし、ほくほく線経由の特急「はくたか」を利用すれば最短経路となる。ほくほく線は建設される前から、「はくたか」の乗入れを視野に入れており、新幹線に準じるほどの高規格な線路になっている。その結果、在来線として初めて時速160kmの運行が可能となった。

特急「はくたか」の人気は高く、そのきっぷ代には北越急行の運賃と特急料金も含まれる。北越急行は、自社線内の駅で降りず、「はくたか」で通過していく人々の運賃と特急料金で稼いでいて、16年連続黒字となった。2012年度決算の後、内部留保は104億円以上という。

なぜ熱心に貯金していたか?

それにしても、なぜ100億円以上も貯金できたのか? 使い道がなかったから……、ではない。2015年度から赤字決算となり、資金不足になるとわかっていたからだ。

赤字決算の理由は、ドル箱である「はくたか」の廃止である。2015年春に北陸新幹線が金沢へ延伸すると、関東と北陸を結ぶ最短の列車は北陸新幹線となり、現在の特急「はくたか」はその使命を終える。ほくほく線内を走る特急列車はなくなってしまう。「はくたか」の名前さえ、北陸新幹線の列車名に採用されてしまった。

2015年以降、北越急行はドル箱列車を失い、赤字ローカル鉄道会社になるだろう。それがわかっていたから、未来の赤字を補うための貯金に励んでいたというわけだ。試算によると、100億円あれば20年ほどは借金なしでほくほく線を運営できるという。幸いなことに、普通列車の利用者も当初の見込みより多いとのことで、さらに営業努力をすれば、無借金運行を20年から30年に延ばせるかもしれない。