島根県と聞いて、何を思い浮かべるだろう。出雲大社? 石見銀山?? いえいえ、この連載を読んでいる方にはぜひとも、「コーヒー! 」と答えてもらいたい。島根県には、バリスタコンクールでは度々決勝に進出し、優勝も果たしている兄弟バリスタがいる。「CAFE ROSSO」(カフェ・ロッソ)の門脇洋之さん、「CAFFE VITA」(カフェ・ヴィータ)の門脇裕二さんだ。まずは弟の裕二さんに登場していただき、オリジナルのエスプレッソドリンク3品を教えていただく。
コンクールでは上位入賞常連
「CAFFE VITA」は、JR松江駅から車で10分ほどの場所にある。のんびりとした雰囲気の土地で、赤い外観のその店はとってもよく目立つ。オープンは2002年11月。私が門脇さんを知ったのはその翌年のことだった。
2003年3月に開催された「ジャパン・バリスタ・チャンピオンシップ」。バリスタの技術を競うこの大会で、門脇さんは準優勝。競技中に見せる1つひとつの正確な動作とは対照的に、表彰式でうれしそうに、でもちょっと恥ずかしそうにしている表情が印象的だった。その後、2005年大会では5位、2006年大会で4位、2007年大会で4位。今年2月に開催された「ジャパン ラテアート チャンピオンシップ」でも決勝進出。2008年7月に行われた「UCCコーヒーマスターズ エスプレッソ部門」(UCC上島珈琲主催のバリスタコンクール)では見事優勝に輝いている。
オーナーがコンテストで入賞する大変さ
こういったコンクールに、カフェのオーナーが入賞するというのは少ないケースだ。というのも、コンクール出場のためには、練習も欠かせないし、オリジナルドリンクの開発も必要となってくる。企業で働くスタッフが出場する場合、練習の時間を特別に確保してもらうケースもあると聞く。また、スペシャリストが集結したサポートチームが結成されることも少なくない。それほど、近年ではコンクール自体のレベルが上がっており、入賞も難しくなってきている。
しかし、店の全てを見るオーナーは営業終了後に練習をこなす。夜遅く、または朝方までの練習となり、肉体的にも精神的にもハードな日々が続く。そんな中、前述のような成績を収めていくのは、並大抵のことではないはずだ。
実際に取材をさせていただくと、持論が独特でいて、また説得力があり、非常に興味深かった。エスプレッソの抽出は、20秒~30秒の間に25cc~30ccを抽出するのがベストとされている。「う~ん、それだと少し薄く感じるんですよね。私のベストは25ccです」。さらに、カフェラテやカプチーノに使うフォームドミルク。一般的にミルクの温度は65℃程度が最適とされている。「65℃だとミルクが持つ自然な甘みが熱で飛んでしまうんですよ。55℃~60℃がベストですね」。
確かに淹れていただいたカプチーノを飲むと、ミルク本来の甘みがエスプレッソに負けずにしっかりと感じられる。かといって、エスプレッソの味わいが飛んでしまうでもなく、しっかりとしたボディ感も伝わってくる。飲んでみるとその持論の確かさが実感できる。 そんな門脇さんにまず提案していただいたのは、レモンを加えたカプチーノ「カフェリモーネ」。牛乳とレモン。思わず、「分離しませんか? 」と聞いてしまったが、「レモンの量とミルクの温度に注意すれば、大丈夫ですよ」とのことだった。
「カフェリモーネ」
材料(1杯分)
グラニュー糖 3g / エスプレッソ 25cc / レモン果汁 1~2滴 / フォームドミルク 120~130cc / 香り付け・トッピング用のレモン
つくり方
1.カップにグラニュー糖を入れてから、エスプレッソを抽出する。2.レモン果汁を加え、スプーンでかき混ぜる。この時に、グラニュー糖も溶かしておく。
3.フォームドミルクを注ぎ入れる。
4.カップの上でレモンのピールを削って香り付けをし、ピールを添えたら完成。
分離を防ぐためには、2で加えるレモン果汁の分量を守ること。これ以上多くなると、分離しやすくなる。また、前述の通り、フォームドミルクの温度は55℃~60℃。この温度を超えると、分離の原因となる。最後にカップの上でピールを削ることで、ピールに含まれるオイル分がフォーム上に付着し、飲むときに凝縮されたレモンの香りが楽しめる。
ふんわりと広がる柑橘香、ミルクの甘み、エスプレッソのしっかりとしたボディ、そして、レモンの酸味によるすっきりとした後味。様々な要素が後追いし、楽しいハーモニーが味わえる。
レモンをプラスするだけで劇的に変化するこのレシピ、ぜひ皆さんもお試しいただきたい。次回は残り2品のレシピを紹介する。