空前の日本料理店ブームに沸くミャンマーの旧首都・ヤンゴン。在留邦人数が1000~2000人程度といわれているにもかかわらず、200軒近い日本料理店がひしめきあっています。そんな中、いま最もホットな話題を集める店のひとつが、日本式のうな丼を食べさせる「寿司鰻亭」。日本人と協力して店を切り盛りする共同経営者の、アウン・チー・ソーさんにお話をうかがいました。

■これまでのキャリアの経緯は?

アウン・チー・ソーさん/ミャンマー・ヤンゴン在住/43歳/日本料理店共同経営者

日本語を勉強するため、1992年に日本へ渡りました。卒業後は、魚を加工して販売する水産会社に就職。清掃係から始め、そのうち魚をさばかせてもらえるようになり、管理者にも起用してもらいました。一生懸命に仕事をしていれば評価されるのがうれしかったです。

仕事は楽しかったものの、日本へ行く少し前に結婚した妻や、その後生まれた子どもにはほとんど会えない日々が続いていました。ミャンマーが政治的にも経済的にも安定してきたため2006年に帰国。ところがなかなか仕事が見つからず、結局、家を長くあけることになるクルーズ船で働くかたわら、航海と航海の間の長期休暇に日本語通訳のアルバイトをする生活を送っていました。そこで知り合ったのが、今の共同経営者である日本人です。

彼はミャンマーのウナギを海外へ卸そうと調査に来ていました。現在、ミャンマーではドジョウに似た田ウナギが一般的です。私が子どもの頃には、日本と同じような大きなウナギを食べていましたが、海外企業の乱獲で姿を消してしまいました。地方には残っているところもあり、彼はそこに着目していたのです。ウナギについて連日話し合ううちに、私自身、次の世代にウナギ料理を残したいという気持ちが強くなり、一緒に店の経営に乗り出そうという話になったんです。

■現在のお給料は以前のお給料と比べてどうですか?

正直なところ以前より少なくなりました。でも経営者なので、店が成功すればいずれ増えるはずと、気にしていません。何より、家族とともに過ごせる暮らしはお金にはかえられません。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

養殖モノよりも固く臭みの強いミャンマーの天然ウナギを、いかにおいしく焼き上げるかにとても腐心したので、うまくいったときは苦労も吹き飛びました。日本人のお客さまにおいしいといってもらえるがうれしいのはもちろんですが、うな丼を食べたことのないミャンマー人のお客さまに「ウナギってこんなにおいしかったんだ!」とお褒めの言葉をいただくと、「してやったり!」という満足感が沸いてきます。

日本のウナギと同じく、大ぶりでふっくらと焼きあがった「特上鰻重」

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

お客さまに日本の方が多いので、従業員の日本語および日本式サービスの能力が重要になってきます。最初からそういったことを心得ている人は給料が高いし、慣れていない人だと教育の手間が大変。そのあたりのバランスに苦労しています。

■ちなみに、今日のお昼ごはんは?

今日のまかないランチは、鶏肉とジャガイモの煮込みかけごはん

お客さまが途切れる午後1時半から2時頃に、従業員たちと一緒にまかない料理を食べています。今日は、ごはんに鶏肉とジャガイモの煮込みをのせたものです。また、10日に1回は従業員たちとウナギを食べ、みんなで味をチェックするようにしています。

■日本人のイメージは? あるいは、理解し難いところなどありますか?

留学時代から、日本人は味や香りに対する感覚がとても繊細で研ぎ澄まされていると感じていましたが、この仕事についてそれを再認識しています。ミャンマーの料理に比べると、日本料理は素材の味を生かし、あまり濃い味付けをしないせいかもしれません。私もその域に近づかねばと努力していますし、調理担当の従業員たちには特に、その点をしっかり教えています。

■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは何ですか?

気になるのは、日本のマスコミを騒がせている憲法改正問題ですね。日本には日本の事情があるのでしょうが、私たちアジアの国々は心配になってしまいます。

■休みのとりかたは?

朝10時から14時まで昼食を提供、昼食をとった後に夕方5時まで休憩。その後は夜10時までお店を開けています。週1回の休みを取っており、大変といえば大変ですが、いまは勝負時と思って頑張っています。

■将来の仕事や生活の展望は?

当面の目標は利益を上げて、店の内装をもっと高級感あるものにすることでしょうか。現在、お客さまの8割は日本人なので、もっとミャンマー人にもうな丼を広めていきたいですね。そのために、安い価格帯のうな丼もメニューに載せています。日本料理としては濃い目の味なので、ミャンマー人の好みにも合うはず。いずれヤンゴン以外の街でもチェーン展開し、ミャンマーに日本式うな丼ブームを起こしたいですね!!!