″これから日本のウェブサイトを変えなきゃいけないと思います″ - 池田信夫さん
--ライブドアという名前を最初に池田さんが認識されたのは?
池田信夫氏(以下、池田) 一番最初の付き合いはオン・ザ・エッヂからですね。たしか2000年頃でITバブルの崩壊した直後くらいです。僕が『ホットワイアード』っていう日本版のウェブサイトでコラムを書いていたときに、そのサイトの運営をしていたのが、オン・ザ・エッヂだった。僕のところにきた支払調書がオン・ザ・エッヂからで、「そういう会社があるんだな」くらいに思ってましたね。それで、その名前を聞いた前後に、オン・ザ・エッヂがマザーズに上場したんですよ。その時にはすごい値がついた。
最初はライブドアは無料プロバイダとして始まったんですよね。でもオン・ザ・エッヂがライブドアを買収して、名前を買収された会社に変えた。世間的に名前が知られるようになったのは、球団や企業の買収までやったときですね。僕は前の事件のときに出た本にも書いたんだけれど、東京地検が入った2006年の1月は日本のある種のミニバブルみたいな時期の最後だったんですよ。
--『ライブドアに物申す!!―44人の意見』(トランスワールドジャパン)ですね。
池田 2001年に小泉政権ができて、それまでの長期不況が一旦片付いたとみんな思っていて、2004年からまた景気がいい時代があって、その時期に堀江貴文さんや(村上ファンドの)村上世彰さんが資本市場で結果的に儲けたわけです。
僕は、あの時期にああいう形で日本の企業買収が終息してしまった、ということが、経済的には非常に大きなダメージだったと思うんですよ。
たとえば村上さんが狙ったある会社のように、会社の時価総額よりもその会社の持っている定期預金のほうが多い会社があって、それはこの会社を買収して定期預金全部おろしただけで儲かるわけです。ノーリスクで儲かるんですよ。そういう会社は今でもいっぱいあるわけです。時価総額がその会社のもっている預金よりも低いということは、会社として存続することは間違っているってことです。
つまりその会社の企業価値がマイナスだってことですよね。資本主義の社会では、こういう会社は存在しちゃいけないんですよ。その存在しちゃいけない会社を買収して、もっとお金が稼げる会社にするっていうのが、企業買収の役割なわけです。
日本は企業買収が、先進国の中では群を抜いて少ない。時価総額で、世界のわずか2.5%です。でも日本では企業買収は危ないということが先に立っちゃうわけだから、みんな手を出したがらない。特に買収される側の企業は非常に抵抗しますよね。
昨年の株主総会では、500社くらいが買収防止策を決めているわけですよ。買収が起きてもいないのに、買収防止策だけはして、みんながっちり守ってる。
もともと日本の会社って買収しにくいんですよ。会社同士でお互いの株を持ち合うから、市場に出ている流動株は少ないわけだし、企業買収で過半数の株を取るとか、全株買いしめるのが非常に難しい。堀江さんもフジテレビを買収しようとして、そのためにニッポン放送を買収しようとしたけれど、その時も法人の株主が邪魔をして最後はうまくいかなかった。本来だったら堀江さんがTOBで高い値段を提示してきたら、株を高く売るのが普通なんだけど、いくら堀江さんが高い値段を出してきても、昔からの付き合いで株を手放さない。
確かに第三者からみると企業買収っていうのは、「株を右から左にながしてひと儲けしてけしからん」みたいな風潮があるのはわかりますけどね。
--アメリカの資本市場を例に出して、同じような流れだとおっしゃっていますよね。
池田 アメリカでも同じようなことが1980年代に起こってるんですね。アメリカの場合は戦後60年代から70年代の初め頃から、GMとかIBMが大きくなることによって、規模の経済で儲けるという仕組みでずっときたわけです。ところが段々うまくいかなくなって、GMでいうと規模では4分の1くらいしかないトヨタに、利益で抜かれるということが起きる。それで、80年代には大きな会社を買収して、一度ばらして切り売りする人たちが出てきた。それが投資銀行だったわけです。
ゴールドマンサックスなどが、本格的に企業買収の仲介をやるようになったのは80年代です。ところが、アメリカでも「企業買収なんかやるやつらは会社をモノみたいに転売して、何億ドルって濡れ手に粟みたいに儲けてけしからん」っていう風潮があって、当時はぼろくそに叩かれたんです。
ところが、こうした企業買収によって、アメリカはその後どういう風になったのか調べてみると、ジャンクボンド(高リスク高利回り社債)を使って、取引されている株式を全部買い取り、会社を買収したあとに、悪いところは切り売りして、経営陣を変えたりして、時価総額を上げて、3年くらいしたら株式市場に再上場するんですね。そういう例を調べてみると、買収したときに比べて大体2、3倍くらいの時価総額がついてるんですよ。
つまり、ここで何が起きたかというと、100円の入った財布を70円で売っているような会社を買収して、資本をもっと効率的に使うようになった。こうして会社の価値を上げていった結果、アメリカの企業は80年代に非常にスリムになった。80年代は日本が世界を制覇すると言われて、アメリカの会社もGMも自動車会社も駄目になっていった。その駄目になった会社を投資銀行の人たちが買収して、余計な部分をそぎ落として、価値をあげてもう一回市場に戻した。つまり、アメリカ経済全体としては活性化したんですよ。
日本で2005年頃に堀江さんたちがやったことって、もしかしたら日本の産業構造を変えて、特に情報通信産業を昔ながらのNTTのような古い産業ではなく、リーマン・ブラザーズから資金の調達をし、フジテレビを買収するように、新しい流れをつくり、日本経済を活性化する最後のチャンスだったのかもしれないんです。
たしかに彼が批判されたように、えげつない金儲けというふうに見える部分もあるけれど、資本主義ってそういうものなんですよ。
資本主義は聖人君子を前提とする社会ではない。言葉は悪いですが、資本主義の社会を動かしているのは、やっぱり欲望なんですよ。金儲けしたいとか。もっといい家にすみたい、車に乗りたいとかね。そういう欲望があるからみんな金を儲けるために新しいビジネスを起こして、その儲けた金が社会に還元される、っていうのが資本主義なんです。
でも、儲けるのが駄目だって言って今みたいに封じこめられちゃうと、結局みんな縮こまっちゃう。縮こまるとお金は儲からない。儲かったお金を社会に還元することもできない。人を雇うこともできない。すると、みんな不幸にわけですよ。
そういうところに堀江さんみたいな人が来て産業構造を変えることは、つねにいいことだとは限らないけど、60年に一回くらいやらないとね。
・続きはlivedoor 10周年記念スペシャルインタビュー「きっかけはlivedoor 2009」で
池田信夫氏(以下、池田) 一番最初の付き合いはオン・ザ・エッヂからですね。たしか2000年頃でITバブルの崩壊した直後くらいです。僕が『ホットワイアード』っていう日本版のウェブサイトでコラムを書いていたときに、そのサイトの運営をしていたのが、オン・ザ・エッヂだった。僕のところにきた支払調書がオン・ザ・エッヂからで、「そういう会社があるんだな」くらいに思ってましたね。それで、その名前を聞いた前後に、オン・ザ・エッヂがマザーズに上場したんですよ。その時にはすごい値がついた。
最初はライブドアは無料プロバイダとして始まったんですよね。でもオン・ザ・エッヂがライブドアを買収して、名前を買収された会社に変えた。世間的に名前が知られるようになったのは、球団や企業の買収までやったときですね。僕は前の事件のときに出た本にも書いたんだけれど、東京地検が入った2006年の1月は日本のある種のミニバブルみたいな時期の最後だったんですよ。
--『ライブドアに物申す!!―44人の意見』(トランスワールドジャパン)ですね。
池田 2001年に小泉政権ができて、それまでの長期不況が一旦片付いたとみんな思っていて、2004年からまた景気がいい時代があって、その時期に堀江貴文さんや(村上ファンドの)村上世彰さんが資本市場で結果的に儲けたわけです。
僕は、あの時期にああいう形で日本の企業買収が終息してしまった、ということが、経済的には非常に大きなダメージだったと思うんですよ。
たとえば村上さんが狙ったある会社のように、会社の時価総額よりもその会社の持っている定期預金のほうが多い会社があって、それはこの会社を買収して定期預金全部おろしただけで儲かるわけです。ノーリスクで儲かるんですよ。そういう会社は今でもいっぱいあるわけです。時価総額がその会社のもっている預金よりも低いということは、会社として存続することは間違っているってことです。
つまりその会社の企業価値がマイナスだってことですよね。資本主義の社会では、こういう会社は存在しちゃいけないんですよ。その存在しちゃいけない会社を買収して、もっとお金が稼げる会社にするっていうのが、企業買収の役割なわけです。
日本は企業買収が、先進国の中では群を抜いて少ない。時価総額で、世界のわずか2.5%です。でも日本では企業買収は危ないということが先に立っちゃうわけだから、みんな手を出したがらない。特に買収される側の企業は非常に抵抗しますよね。
昨年の株主総会では、500社くらいが買収防止策を決めているわけですよ。買収が起きてもいないのに、買収防止策だけはして、みんながっちり守ってる。
もともと日本の会社って買収しにくいんですよ。会社同士でお互いの株を持ち合うから、市場に出ている流動株は少ないわけだし、企業買収で過半数の株を取るとか、全株買いしめるのが非常に難しい。堀江さんもフジテレビを買収しようとして、そのためにニッポン放送を買収しようとしたけれど、その時も法人の株主が邪魔をして最後はうまくいかなかった。本来だったら堀江さんがTOBで高い値段を提示してきたら、株を高く売るのが普通なんだけど、いくら堀江さんが高い値段を出してきても、昔からの付き合いで株を手放さない。
確かに第三者からみると企業買収っていうのは、「株を右から左にながしてひと儲けしてけしからん」みたいな風潮があるのはわかりますけどね。
--アメリカの資本市場を例に出して、同じような流れだとおっしゃっていますよね。
池田 アメリカでも同じようなことが1980年代に起こってるんですね。アメリカの場合は戦後60年代から70年代の初め頃から、GMとかIBMが大きくなることによって、規模の経済で儲けるという仕組みでずっときたわけです。ところが段々うまくいかなくなって、GMでいうと規模では4分の1くらいしかないトヨタに、利益で抜かれるということが起きる。それで、80年代には大きな会社を買収して、一度ばらして切り売りする人たちが出てきた。それが投資銀行だったわけです。
ゴールドマンサックスなどが、本格的に企業買収の仲介をやるようになったのは80年代です。ところが、アメリカでも「企業買収なんかやるやつらは会社をモノみたいに転売して、何億ドルって濡れ手に粟みたいに儲けてけしからん」っていう風潮があって、当時はぼろくそに叩かれたんです。
ところが、こうした企業買収によって、アメリカはその後どういう風になったのか調べてみると、ジャンクボンド(高リスク高利回り社債)を使って、取引されている株式を全部買い取り、会社を買収したあとに、悪いところは切り売りして、経営陣を変えたりして、時価総額を上げて、3年くらいしたら株式市場に再上場するんですね。そういう例を調べてみると、買収したときに比べて大体2、3倍くらいの時価総額がついてるんですよ。
つまり、ここで何が起きたかというと、100円の入った財布を70円で売っているような会社を買収して、資本をもっと効率的に使うようになった。こうして会社の価値を上げていった結果、アメリカの企業は80年代に非常にスリムになった。80年代は日本が世界を制覇すると言われて、アメリカの会社もGMも自動車会社も駄目になっていった。その駄目になった会社を投資銀行の人たちが買収して、余計な部分をそぎ落として、価値をあげてもう一回市場に戻した。つまり、アメリカ経済全体としては活性化したんですよ。
日本で2005年頃に堀江さんたちがやったことって、もしかしたら日本の産業構造を変えて、特に情報通信産業を昔ながらのNTTのような古い産業ではなく、リーマン・ブラザーズから資金の調達をし、フジテレビを買収するように、新しい流れをつくり、日本経済を活性化する最後のチャンスだったのかもしれないんです。
たしかに彼が批判されたように、えげつない金儲けというふうに見える部分もあるけれど、資本主義ってそういうものなんですよ。
資本主義は聖人君子を前提とする社会ではない。言葉は悪いですが、資本主義の社会を動かしているのは、やっぱり欲望なんですよ。金儲けしたいとか。もっといい家にすみたい、車に乗りたいとかね。そういう欲望があるからみんな金を儲けるために新しいビジネスを起こして、その儲けた金が社会に還元される、っていうのが資本主義なんです。
でも、儲けるのが駄目だって言って今みたいに封じこめられちゃうと、結局みんな縮こまっちゃう。縮こまるとお金は儲からない。儲かったお金を社会に還元することもできない。人を雇うこともできない。すると、みんな不幸にわけですよ。
そういうところに堀江さんみたいな人が来て産業構造を変えることは、つねにいいことだとは限らないけど、60年に一回くらいやらないとね。
・続きはlivedoor 10周年記念スペシャルインタビュー「きっかけはlivedoor 2009」で