板倉梓『なぎとのどかの萌える不動産』
なぎとのどかの萌える不動産
作者:板倉梓
掲載誌:『Kiss PLUS』(講談社)2012年-
単行本:KCDX Kiss
[同作者の記事→『少女カフェ』/『タオの城』/『野村24時』]
正社員登用めざしウィンドウディスプレイの会社でアルバイトしていた、「羽根田和(はねだ のどか)」。
会社が倒産し家賃滞納、自宅に退去勧告書がとどく。
実家も生活くるしく、ネットカフェ暮しでもするしかない。
現実つきつけられ、ふるえる手。
強引にさそわれた女子会へ、それどころでないが参加。
「ミラノサローネに取材にいつた」とか、はなやかな業界話に、
タダ飯目当てとはいえ、ネカフェ難民寸前の身分は場ちがい。
ただ女子会には、小学生のころ団地で一緒だつた「星乃梛(ほしの なぎ)」がいた。
十数年まえとおなじ様に、野球で二次会。
和がくるまで、出席者が彼女の苦境をさんざんバカにしたことを怒つている。
梛は目黒駅西口で不動産会社をいとなむ。
その名も「萌える不動産」!
産休をとるその子さんのかわりに、インテリアずきの和を雇うことに。
映画をおもわせる、よどみない導入部。
板倉梓の語り口はあいかわらずうまい。
さつそく物件の案内をまかされる。
女ひとりだが30m2以上ほしいというので、メゾネットタイプのデザイナーズマンションを紹介。
家賃18万円。
入居申込書に記入するとき、梛社長にダメ出しくらう。
セレブとおもいこむ和は確認しなかつたが、年収の欄に「400万」と。
あきらかに高望み。
店をさつた客にくいさがり事情をたづねる。
高級マンションにこだわるのは、女の意地。
離婚してちいさな部屋にすんだら、自分をうらぎつた夫に負けた気がして。
あえて縁側のあるふるい一軒家をすすめる。
昭和の町並みのむこうに六本木ヒルズ。
イグサのにおいが、背のびしなかつたころの記憶をよびおこす。
複雑な用途制限がからみ、再開発されなかつた区画とか。
六本木界隈にあるかはしらないが、目黒にすむ作者の地元愛が全篇にこもる。
こんなカワイイお客さまも。
いそがしいママのかわりに物件をみにきた、5歳の「きららちやん」。
やすくてひろくて、駅にちかいおウチがいいの!
母子家庭で、ママはメイクアップアーティスト。
留守番することがおおいが、となりの住人が壁をドンドンたたくのがこわかつた。
心配かけたくなくてだまつてたが、園長先生にうちあける。
しつかり者の娘だから平気ときめつけた、母の方があまえていた。
萌える不動産はNPOと提携し、シングルマザー用のシェアハウスを運営する。
年のちかい友だちができ、きららちやんもうれしそう。
「リビング」のある普通の家が、彼女の夢だつた。
人と家のかかわりが、それぞれ丹念にえがかれ、たしかに不動産に萌える。
芳文社での連載がなくなつてから、登場人物に「きらら」と名づけたのは皮肉かな。
『少女カフェ』の続刊はまだかとおもつてたら、1巻が売れなくて出ないそうだ。
あんなに萌え狂わせて、しかもホロリとさせる漫画はないのに!
講談社の漫画で、梛さんに「サンデーの『神のみ』がすき」といわせたり、
絵柄はシンプルだが、一筋縄でゆかぬ作家だ。
『少女カフェ』ファンにはうれしいことに、「つくし」と「みお」がゲスト出演。
女教師、カフェ、居候家庭、アジア、不動産、殺し屋……なんでも描ける器用貧乏なあずにやん先生だが、
幼女の可憐さだけは、他の追随をゆるさぬ飛び道具。
いまの漫画界で十指にはいる才能とおもうし、またさらに飛躍するはず。
なぎとのどかの萌える不動産(1) (KCデラックス Kiss) (2013/07/12) 板倉梓 |
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