両生類のサラマンダーには、メスだけの集団がいる。それで不自由しないどころか、彼女たちは大いに繁栄している。
北米北東部にみられるトラフサンショウウオ属の一部がそうだ。彼女たちは自らのクローンを産んで新しい世代とすることができる。
多くの科学者は、このような集団は必ず行き詰まると考えるが、このほど科学誌「Journal of Zoology」に掲載された最新の研究で、そうとは限らないことが明らかになった。
オハイオ州立大学の研究チームは、切断された体の一部を再生させるサラマンダーの能力に焦点を当てた。彼らは捕食者の攻撃や事故などでどこかの部位を失ってもすぐに再生できる。(参考記事:「再生能力を持つ生物、代表5種」、「死後3カ月たったミズクラゲが生き返った!」)
研究チームは、トラフサンショウウオ属のサラマンダーのうち、メスだけで繁殖をする集団とオスメス両方が生殖を行うグループで、切断された尾が再生される速さを比較。その結果、メスだけのサラマンダーは、オスメスそろっているときよりも1.5倍速く新しい尾を作り出した。
同大の進化生物学者ロブ・デントン氏は、「体の再生は関心の高いテーマですが、その能力の多様さは未解明です。私たちの発見は、この能力は私たちが思っていたよりずっと複雑だと知らしめた点で重要です」と話す。(参考記事:「「精液の質」で相手選ぶ、ハエ生殖戦略に新説」)
他集団のオスのDNAを盗み、ゲノムはごちゃ混ぜに
トラフサンショウウオ属のサラマンダーのうち、メスだけで生殖できる系統は600万年以上前に枝分かれしていることから、この方法には何らかの利点があるに違いないとデントン氏は言う。そうでなければ、これほど長期にわたって系統が保たれるはずがないからだ。
手がかりの1つが、メスのみのサラマンダーは、集団に属さない近縁種のオスが生息地に残していく精子からDNAを盗むということだ。メスはそのDNAを卵の授精に使うわけではなく、自分自身のゲノムに単に加えるのだ。(参考記事:「精子は“兄弟”認識、群れで卵子目指す」)
したがって彼女たちの中には、たいていの動物のように染色体を2本1対ではなく、3本、あるいは4本を1組として持つ者がいる。
東ミシガン大学の進化生物学者で、トラフサンショウウオ属のサラマンダーを研究するキャサリン・グリーンワルド氏は、自らを「サラマンダーの親子鑑定人」と呼ぶ。メスだけのサラマンダーにみられる複雑で多様な、ごちゃ混ぜのゲノムが、どの種のオスに由来するのか調べることに労力を費やしているからだ。おかげでこれらのメスには学名もつけられていない。
研究に貢献した1人が、オハイオ州立大学の学部生モニカ・サクッチ氏だ。雌雄同体であるカタツムリのうち、ゲノムのセットを余分に持つ個体は体の一部を失ったときの再生が明らかに速いことを先行研究で知った。DNAが余分にあれば多くの遺伝子をコピーしなければならないが、そのコピーを助けるタンパク質を多く持っているということでもある。(参考記事:「カタツムリの「恋の矢」が相手の寿命短縮、東北大」)
サラマンダーでも同じことが起こるのかどうか確かめようと、サクッチ氏はトラフサンショウウオ属のサラマンダーのうち、メスだけの集団と、スモールマウスサラマンダー(Ambystoma texanum)の卵を採集し、研究室で成体に育てた。
単性のサラマンダーは、ゲノムのセットを3つ持っていた。1つはアオボシサラマンダー(A. laterale)、そして残る2つがジェファーソンサラマンダー(A. jeffersonianum)に由来するものだった。
ラボで育ったサラマンダーは合計12匹。サクッチ氏は全個体の尾を切断し、再生にかかる日数を計測した。
有性生殖以上に有利?
論文によると、最初の3週間は、どちらのグループも尾の再生速度は変わらなかった。
ここで、サクッチ氏らは餌をより野生に近い、栄養価の高いものに変更。
それ以降、単性のサラマンダーで尾の再生速度が明らかに早くなり、ついにはスモールマウスサラマンダーの1.5倍の速さで元通りになった。
「実に説得力のある素晴らしい実験です。自然環境での有利さに関して集団ごとの特徴を比べていますが、これはなかなかできないことです」と評価するのは、アイオワ大学の進化生物学者で、雌雄同体のカタツムリにおける再生の研究を主導したモーリーン・ニーマン氏だ。
一方、グリーンワルド氏とニーマン氏はこの研究の大きな限界として、共通のゲノムを持つ単性のサラマンダー同士で再生速度を比較していないことを挙げた。
そのため、今回観察された再生速度の差が単性の生殖ゆえか、ゲノムの数が違うためか、あるいはゲノムをコピーする速度に先天的な違いがあるためかが判別しにくくなっている。
それでもニーマン氏は、「大きな第一歩です」とたたえる。
「ゲノムが何セットあるかは、私たちが持つ最も基本的な特徴の1つです。そして、これほど多くの種が2セットのゲノムに落ち着いているのかは、まだ分かっていないのです」(参考記事:「体内受精の起源? 古代魚類化石」)