オスのホッキョクグマが子グマを食べてしまうという、残酷な一面をとらえた映像が公開された。
ホッキョクグマの共食い行動は、北極地方の先住民の間では以前から知られており、1980年代から研究が行われている。主食であるアザラシが海に出てしまって捕獲しにくくなる夏の終わりから秋にかけて、ホッキョクグマは子グマを捕食対象にすると考えられている。(参考記事:「環境汚染でホッキョクグマのペニス折れやすく」)
「子グマ以外ほとんど食べるものがなくなってしまうのです」と、カナダのアルバータ大学およびカナダ環境省所属の生物学者イアン・スターリング氏は言う。「実際の現場を映像に収めた例はめったにないのですが、共食い自体はそれほど珍しいことではないと思います」
この動画は2015年夏、ナショナル ジオグラフィック・エクスプローラー号で行く北極海ツアーの旅行中に、カナダのバフィン島沖で撮影された。
足の遅い子どもや体の小さなメスは、体が大きく動きも速いオスに太刀打ちできない。オスはあっという間に子グマを捕まえ、頭や首の周りに繰り返し噛みついた。
母親はわが子を助けようと試みるが、次にオスの餌食になることを恐れてすぐに撤退した。
「目が離せませんでした」と、この様子を目撃したナチュラリストのジェニファー・キングズリー氏は語る。「これが北極圏での現実であり、ホッキョクグマの生態なのだとは分かっていても、実際に見ると圧倒されます」
エサがなく追い詰められれば…
自然界を見れば、カバやタイガーサラマンダー、ナマケグマなど、共食いをする種は多い。(参考記事:「カバを食べるカバ ――共食いする動物たち」)
オスのホッキョクグマが共食いに走るのも、珍しいことではない。オスの体はメスの2倍もあり、攻撃的な個体も多く、「お腹がすけば、オスの方が共食いへの抵抗はないでしょう」と、スターリング氏は言う。一方メスは、赤ちゃんに母乳を与える分、オスよりもお腹がすくはずだが、争いを避ける傾向にある。
スターリング氏は、気候変動が共食い行動に拍車をかけている恐れがあると懸念する。北極圏の海氷は年々減少し続けている。2015年に観測された最大海氷域面積は、過去30年間で最小を記録した。
氷が消えれば、ホッキョクグマは氷の上を飛び移ってアザラシを捕らえることもできなくなる。アザラシを食べられなくなれば、共食いはもっと増えるかもしれない。もしかしたら、既にそうなりつつある可能性もある。
2004年には、アラスカのボーフォート海で、オスが妊娠中のメスを巣穴まで追跡して食べてしまった様子を、作業中の生物学者が目撃している。過去に確認されたことのない例だった。これも、気候変動によって追い詰められた末の行動なのかもしれない。(参考記事:「ホッキョクグマ、氷減少に耐えられる?」)