世界最古とみられるイスラム教の聖典コーランの一部を発見したと、英国バーミンガム大学のキャドバリー・リサーチ・ライブラリーが発表した。2ページにわたる写本は西暦568~645年に書かれたものだという。目に触れる場所にはあったのだが、これまで誰も気付かなかった。
バーミンガム大学教授でキリスト教・イスラム教学が専門のデービッド・トーマス氏は、「年代測定の結果が正しければ、イスラム教が成立した時期から20年ほど後に書かれたものだということになります」と語った。
写本は同大学が所蔵する中東の文献の中に紛れていた。大学院生のアルバ・フェデーリ氏が、やや後年の本に古いページがあるのを発見したのだ。トーマス氏によると、この2ページは1920年代に図書館が入手し、なぜか別のコーランの一部として綴じ込まれたという。フェデーリ氏は、この2ページだけ筆跡が違うことから誤りに気が付いた。
写本を売却した古物商との書簡には取引の詳細が記されており、別個に2件の売却があったことが判明。この2ページは本とは別の、かなり古い写本ではないかというフェデーリ氏の疑念を裏付けることとなった。
そこで、英オックスフォード大学の研究所が放射性炭素年代測定法による分析を行ったところ、写本に使われている羊皮紙は1400年近く前のものという結果が出た。「私は研究者ですから、まず疑ってかかりました。まさかそこまで古いはずはないと」。だが、トーマス氏は続けた。「放射性炭素年代測定法の精度はとても高いのです」(参考記事:「写本の鑑定方法の詳細:放射性炭素年代測定」)
インクはまだ分析されておらず、文字自体は羊皮紙が作られてからかなり後に書かれた可能性もある。しかしトーマス氏は、「この羊皮紙は、コーランを文字で残すという目的のため特別に作られたのではないかと推測しています」と話す。
2ページにはコーランの18章から20章までが記されており、現在の文章にかなり近い。このことから、コーランの文言はイスラム史の初期段階で固まり、後代の加筆や時代に伴う変化はほとんどなかったという見方が裏付けられたとトーマス氏は説明した。(参考記事:「イスラム教徒に課された五つの義務」)
写本は、所蔵するバーミンガム大学で今年の秋に展示される予定だ。トーマス氏はこの写本を「感動的」と評価する。「これを書いた人物は、預言者ムハンマドと面識があった可能性があります。あるいは、ムハンマドを直接知る人物と知り合いだったかもしれません。つまり、ムハンマド本人につながる手掛かりが与えられたのです」(参考記事:「カアバ神殿の周回、大巡礼「ハッジ」」)