北米最高峰マッキンリー、デナリに名称変更

地図はどう変わる?ナショジオの地理学者に聞いた

2015.09.03
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アラスカ州は過去数十年の間、連邦政府に対し、マッキンリー山をデナリに改称するよう求めてきた。(PHOTOGRAPH BY AARON HUEY, NATIONAL GEOGRAPHIC)
アラスカ州は過去数十年の間、連邦政府に対し、マッキンリー山をデナリに改称するよう求めてきた。(PHOTOGRAPH BY AARON HUEY, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 8月30日、米国のサリー・ジュエル内務長官は、標高6194メートルの北米最高峰マッキンリー山の公式名称を「デナリ」に変更する長官令に署名した。

 「この地に対する敬意を表し、アラスカ先住民の伝統と、アラスカ州の人々の強い支持を認め、公式にデナリと改称する」と、ジュエル長官は声明を出した。地元の先住民族コユコン・アサバスカンの言葉で、デナリとは「偉大なもの」を意味する。

 アラスカ州では名称の変更を歓迎しているが、オハイオ州選出の議員は面白くなさそうだ。マッキンリー山の名の由来となった第25代米国大統領ウィリアム・マッキンリーは、オハイオ出身なのである。1896年にマッキンリーが大統領候補者だった当時、その名にちなんで、採鉱者がマッキンリーという名称を提案した。

 この山になぜ複数の名称があるのか、新しい名称は最終決定なのか、また地図作成者は改称にどのように対応するのかなどについて、ナショナル ジオグラフィックの地理学者ファン・ホセ・バルデズ氏に話を聞いた。(参考記事:「南極から月面まで、ナショジオ100年の地図」

――デナリには47もの別名があります。これは普通のことなのでしょうか。

 2~10の異なる名称がつけられている土地は多いですが、デナリには47の別名があります。これはかなり興味深い話です。ササイトナ川渓谷に住むデナイナ族は「大きな山」という意味をもつ「ドレイカア(英語表記でDelaikaまたはTraleika)」と呼んでいました。ほかにもロシア語で「ボルシャヤ・ゴラ(大きな山)」と呼ばれたり、「ノース・ピーク(北の山頂)」を意味するアサバスカン語の呼称を複数の異なる英語のつづりで表記したり、地元の金採鉱者の名前にちなんで「デンスモアの山」と名づけられたりしています。

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――改称にはさらに承認が必要ですか?

 いいえ。最終的な承認はすでになされています。1947年に成立した法律で、内務長官は地名変更の権限をもっています。「マッキンリー」という名称の方が、今では「デナリの別名」になったのです。

――改称は撤回させられるという意見も、一部にはあります。

 権威のある決定ですから、いったん委員会で決まったものを撤回させるのは難しいでしょうね。

――ナショナル ジオグラフィックでは、デナリに変更して、カッコ内にマッキンリー山と併記することになりましたが、なぜそのように決められたのでしょうか?

 ナショナル ジオグラフィックではかつて、この山を単に「マッキンリー山」と表記していましたが、1975年にアラスカ州政府がデナリへの改称を決定し、連邦政府へも同様の措置を要請しました。それ以来、本誌でも「マッキンリー山(デナリ)」と表記するよう編集方針を変更しました。誌上でそのように表記したのは、1981年に発行した雑誌の付録が初めてです。また1983年には、当社が刊行したアトラス世界地図第5版で新表記を用いました。当時デナリを別名としたのは、それが最も広く認められている別名だったためです。

 今回、「デナリ(マッキンリー山)」のようにマッキンリーの方をカッコ内に入れることにしたのは、デナリの公式名化によってマッキンリーが逆にデナリの別名として最も広く知られる名称となったためです。このような変更は、世間が慣れるまでに時間がかかるものですから、両方を併記するのがよいと考えています。インドのボンベイがムンバイに変更されたときにも、新しい町の名をすぐに認識する人は少ないという理由から、インドの地図にはボンベイを別名として併記していました。

――ほかの地図はどうなるのでしょうか。古い地図はリコールされるのでしょうか?

 ナショナル ジオグラフィックを含め、地図製作会社は、マッキンリー山の名称が記載されたすべての地図を更新することになります。私たちも地図製作のデータベースをアップデートしていて、今後の出版物には直ちに変更が反映されるはずです。既に発行されているものに関しては、増刷の際に変更することで対応します。昨年9月に発行された当社の世界地図第10版では、11枚の刷版にこの山の名称が表記されています。今後第10版を増刷するか、第11版を出版する際には、変更を反映する予定です。

――地図を1枚変更するにはどれだけの作業が必要なのですか? また教育現場への影響はあるでしょうか?

 変更は、単に名称を変えるだけの簡単なものですが、すでに印刷されている地図をもっている人には問題が生じることもあるかもしれません。教師にとっては、これをきっかけに、この世界が物理的なものだけでなく、物事の名前すら常に変化している躍動的な世界なのだと教える機会にしてはどうでしょうか。(参考記事:「地図は生きものである。」

――今回の変更が、ほかの山への先例となるでしょうか?

 そうとは限りません。それぞれの山にはそれぞれの事情があります。今回の場合は、ヨーロッパ人がやって来る前に土地が別の名称で呼ばれていたことを認めるものとなりました。数年前にも、ニュージーランドにあるクック山が、元からあったマオリ語の呼称「アオラキ」に変更され、クック山はカッコ内に併記されることになったという例があります。

――アイルランドでも最近、地名変更問題がいくつかありました。

 アイルランドでは、国内のどの地域にいるかによって、地名の呼び方が異なります。ある地域では、ゲール語の地名が優先されて英語名が別名とされますが、別の地域ではそれが逆になっています。ナショナル ジオグラフィックでは数年前に、アイルランドの憲法に従って地図を改訂しました。

――地名がもつ意味とは何でしょう?

 人々は時に、地名に特別な思いを抱くことがあります。国家にとってもそうですが、先住民にとってもやはりそうなのです。

――デナリには、何か特別な点がありますか?

 北米最高峰のデナリは、大陸が誇る偉大な山です。私たちはこの点を地図上で必ず強調することにしています。(参考記事:「マウント・デナリは女性? 男性?」

文=Brian Clark Howard/訳=ルーバー荒井ハンナ

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