なんでも批評空間 serial experiments lain
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serial experiments lain

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タイプ:テーマモノコンセプトモノ

テーマ:「集合的無意識と情報」

評価:☆☆☆☆










①概要


全13話。1998年~放送。






現実世界(リアルワールド)とは異なる電子ネットワークによる仮想世界・「ワイアード」が発達した時代。

中学生の主人公・岩倉玲音は「ワイアード」にアクセスする端末「NAVI」を親に購入してもらうが、その直後玲音のNAVIに自殺したはずのクラスメイトからメールが届く。










②テーマについて


すべての人間が共有する集合的無意識(=lain)がもし自我や人格を持ったら、という物語。







『集合的無意識』



ユングが提唱。

一般的に、人間の心は表面の「意識」と深層の「無意識」で出来ていると言われます。文字通り前者は心のうち自分でコントロール出来る部分で、後者は出来ない部分です。


「意識」は当然人の数だけあって、一人ひとりがそれぞれ違うものを持っている。でも実はこの世のすべての人間はそれぞれの「意識」の下でたった1つの「無意識」を共有しているのではないか、という考え方が『集合的無意識』です。


lainの正体はまさに『集合的無意識』で、登場人物それぞれの心の中に同じ外見のlainがいるのはそのためです。



「すべての人間は『集合的無意識』で繋がれている」。この考え方がこの物語の根幹となります。









物語の前提として「神」を人間を超越した全知全能の存在ではなく、「人間とは無関係に絶対的遍在性を持つ存在」と定義している。


(「遍在」=いつでも、どこにでも存在すること。時間や空間を越えて永遠に存在し続けること。)




遍在を語るにはまず「存在」の定義が必要だが、それについては「存在は認識=意識の接続によって定義され、人はみな認識によって繋がれている。記憶とはただの記録に過ぎない」とされている。







例えば、あなたの目の前にリンゴがあるとします。


その時、あなたが「ここにリンゴがある」と言えるのはなぜでしょう?




答えは誰でもわかるくらいシンプル。それはあなたに「リンゴが見えているから」です。



この場合「リンゴを見る」という行為があなたとリンゴとの「認識の接続」です。あなたがリンゴを認識して初めてリンゴは存在出来るわけです。


そしてその後、あなたの中には「リンゴがあった」という記憶が残ります。記憶は存在の証拠です。


しかし記憶を単なる「脳内のデータ(記録)」と考えると、それを書き換えてしまいさえすれば存在は簡単になかったことに出来る、ということです。











作中の「ワイアード」は私たちの現実で言うインターネットのこと。集合的無意識とネットは両方とも「人と人の繋がり」であるため、人は自らの集合的無意識をネットの中で「情報の流れ」として認識出来るようになった。



(作中頻繁に映される電線は「人と人の繋がり=情報の流れ」ということを示唆する。)




ワイアードを創り出した技術者の1人・英利政美は、人類の進化によって生まれたネットは現実世界の上位階層であり、ただの物体でしかない人間の肉体は人間の進化の妨げであると考えていた。


(ここでいう進化とは、人間が神になること。つまり、人間に絶対的遍在性を持たせること。)





よって英利政美は肉体を殺し意識だけをネットに残すことで自らをネット内に遍在し続ける「ワイアードの神」とし、人類を進化させるためネットと現実を融合しようとした。



そのためネットと現実を繋ぐ集合的無意識を意識上に転化させ、それに自我と物理的肉体を与えた。こうして英利政美のlainは「岩倉玲音」として生活することになった。





英利政美をネット内で神と称える「ナイツ」によって、ネットと現実の融合(=予言の実行)が進められていく。一方ですべての真相を知った玲音は英利政美に言う。




「あなたが神でいられるのはネットの中だけ。肉体がないあなたは現実では遍在性がない」

「ネット上で遍在性を持つのは私も同じ。私が神でないならあなたも神ではない」




そして神としての英利政美とワイアードを消滅させた玲音は、「ネットとは何か?」を考える。




「ネットは現実の上位階層ではない。ネットは情報伝達の場であり、情報はそこに留まらず常に流れているもの」

「すべての情報や無意識を蓄積できる世界を人間が創ることは不可能だ」




英利政美と違い、肉体がなくても現実にも遍在できるlainは自分が神である可能性に気付くが、与えられた自我を保ったまま人間として世界を見守っていく道を選んだ。




「私はここにいるの。ずっと一緒にいるんだよ」





ネットはあくまで現実を補助するためのもの。情報の総体であり、人と人を繋ぐネットがなくても、集合的無意識は確かに現実にあるはずだ。








③感想


まず正直に言っておきたいのは、僕はこの作品を1周観ただけではほとんど理解出来ませんでした。

初見でわかったことと言えば、


・「情報」がメインテーマ、そこから「認識への懐疑」や「自我の定義」、「神」を描いている

・主人公はネット上で生まれた存在、かつその正体はすべての人間が共有する集合的無意識である

・そんな主人公に自我と物理的肉体を与えた人物がいた

・彼はネットの神になり、ネットを現実の上位階層と考え(ネットが人類の進化によって生まれたため)、主人公を利用してネットと現実を融合させようとした

・しかし主人公に現実での存在の普遍性がない事を指摘され、消滅した


初見でわからなかったのは、

・肉体から意識だけをネットに移す方法は中学生女子でも実践可能なのか?

・序盤で電車に轢かれる女性は誰か?

・「ガッチャ」と言う女の子は誰か?

・主人公の姉が精神崩壊したのはなぜか?

・「予言を実行せよ」の意味は?

・宇宙人のくだりはなんだったのか?

・主人公を監視していた組織は何なのか?なぜナイツを殲滅したのか?

・なぜ主人公がいなくなるとみんな平和になるのか?



1周観ただけでは分からなかったので、もう1周観てみました。その結果、1周目での疑問点がいくつか解消されました。

・「予言」とは、ネット世界が現実世界に干渉し、影響を与えること。ナイツが「予言を実行」した結果、ネット上の出来事が原因で現実世界の人間を精神崩壊させたり、自殺させたりした。

・「ガッチャ」と言う女の子はナイツが自殺したネットゲームプレイヤーに見せた幻覚。

・宇宙人のくだりは、実在した無意識に関する研究の歴史と関係があったオマケ話。

・橘グループはネットと現実の融合を危険視するナイツの敵対組織。ついでに次世代のワイアードを経済的理由で支配したかった。

・自殺したクラスメイトのメールは英利政美がなりすまして送ったもの?

・最後はただ主人公がいなくなっただけでなく、世界からワイアード自体を消滅させた。よって集合的無意識が誰にも認識されなくなった。




2周観てやっとテーマだけでなくストーリーも理解できたような気がします。しかしいずれにせよ人にはオススメしにくいような作風ですね。

内容の論理展開を示す事よりも映像感覚の演出に重点を置いた作品という印象です。内容について似たようなテーマを扱った「攻殻機動隊 S.A.C.」と違うのは、最終的に肉体や物理現実を尊重しているところです(いわゆる「実存主義」)。

物語の始めで「存在は認識によって定義される」としておきながら、最終的に誰からも認識されなくなったlainがそれでも「私はここにいる」と言うのも、この作品が実存主義であることの表れだと思います。


オマケ話のひとつで、物理学の観点(電磁波)によるガイア理論も面白かったです。





ただこの作品は、観てる人が「集合的無意識」という考え方を知っていることを前提にしているような気がしました。


僕はこのアニメを観るまで「集合的無意識」という言葉すら知らず、観ながら「まあ多分こういう考え方なんだろうな~」くらいに思っていて、後から調べて「ああ、これのことか!」という感じでした。



あとこの作品の特徴であるホラー描写は、「ネットが自我を曖昧にしていく恐怖」の表現で合ってるんでしょうか?どちらにしろそこがちょっと伝わりにくいんじゃないかと思いました。







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