甜蜜蜜
先日、テレサ・テンの命日5月8日に合わせてBS-TBSで没後25周年の追悼番組が放映されていました。
以前、放映された生誕60周年の記念番組を新たに編集したもののようでしたが、
こちらは少女時代から香港のトップ歌手に君臨してたことを伝え、
両親が生まれ育った中国、自身が生まれた台湾というふたつの祖国に政治的に挟まれた重圧もきちんと伝えていました。
テレサ・テンの父親は国民党の軍人、中国共産党との内戦に敗れ外省人として台湾に移り、
当然戦中は日本軍と戦ったことが想像でき、父親はテレサの日本進出を猛反対しながらも、
押し切って日本での成功を夢にやってきたものの、
当の日本はそんなテレサのアイディンテティーなどまるで眼中にないというのは今見ると相当皮肉に映ったりしました。
番組は日本での楽しい思い出として出演した「8時だョ!全員集合」をあげて、
当時の貴重なコントも放映した他、もちろん大ヒットした「つぐない」「愛人」「時の流れに身をまかせ」「別れの予感」も紹介、
そして「何日君再来」「月亮代表我的心」と本国の代表曲、
「襟裳岬」「グッド・バイ・マイ・ラブ」「北国の春」と日本の曲のカバーも流し、
これでもたぶんテレサ・テンの仕事の一端に過ぎないかもしれず、
「つぐない」から3曲は当時は特別意識して聴いてませんでしたが、
改めて際立った美声に貴重な歌手だったと実感してました。
担当者がテレサ・テンが中華人にとって特別な存在だと気づかされたのが
「第3回長岡アジア映画祭」で上映したピーター・チャン監督『ラヴソング』(1996)という名作。
1986年に中国大陸から夢を追うため香港にやってきた若い男女の10年に及ぶラブストーリー。
偶然、香港で出会った二人はくっついたり、離れたりを繰り返し舞台はニューヨークへと。
ラストシーンはテレサ・テンの死を伝える街頭テレビを見つめる二人が偶然というより運命の再会。
それまで互いに苦労を積んだだけに、再会した二人の笑顔、
演じるはレオン・ライとマギー・チャン、
10年の互いの思いを再確認したこれ以上ないほどまさに映画史に残る笑顔ではないかと思ったりします。
越境していく二人に重ねていくことで、中華人にとって大きな拠り所テレサ・テンを感じさせてくれました。
先の追悼番組のクライマックスは1989年の北京の民主化要求デモ支持の香港コンサートへの出演とともに、
民主化かなわず起きた天安門事件の衝撃と挫折、これ以降、表舞台から去って行ったように思ったりします。
ラストは今回のために追加したであろうテレサが活動の拠点として愛した香港で昨年起きた民主化デモを伝え、
テレサの夢未だ叶わず、という苦い後味を残しただけに余計にあの美声が響いたりしました。
そうか、あのテレサの歌う「甜蜜蜜」を原題にした『ラヴソング』のラストシーンは1995年の5月8日だったのかと。
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