ホーム > 情報セキュリティ > 【パスワードの定期変更1】〜まずは結論から

【パスワードの定期変更1】〜まずは結論から

 ここ2年ほど続けてきたパスワードの定期的な変更をめぐる日本での一連の議論について論点も出尽くしたように思われますので、これまでの議論の経過についてまとめておきたいと思います。まず最初に本エントリーにて私の認識を結論として記述しておきます。内容は当初より変わるものではありませんが誤解のないように自身のスタンスを明確にしておきたいと思います。

【結論】
 パスワードを定期的に変更することによるセキュリティ上の効果に関する評価はケースバイケースであり、システムの用途や個々の利用者の利用形態によって意味がある場合もあればない場合もある。そのために一律に意味があるとも無意味であるとも言うことはできないと考えています。
 
 また、私は「パスワードの定期変更は無意味」と言う表現を客観的事実についての表現として使用すべきではないと考えています。その理由は、こういった表現によって多くの事実誤認が生じていると感じているからです。(個人の考えとして「パスワードの定期変更は無意味《だと思う》」といった表現については他人がとやかくいうことではないと思います。)

 ここで言う事実誤認とは「パスワードの定期変更にセキュリティ上のリスク低減効果がないことが科学的に認められている」という誤った認識がされることです。この事実誤認はさらに「パスワードの定期変更は無意味」という発言を行う原因ともなっており、さらに事実誤認が広がるという悪循環に陥っていると考えられます。

【サービス提供者としての考え方】 
 サービス提供側がパスワードを定期的に変更することを強制したり過剰にうながしたりすることは、多くの利用者にとって負担となり不評となることが多いので施策の採用についてはパスワード以外の認証方法の利用を含め慎重な検討が必要です。私自身は一般的に全ての利用者に対して一律にパスワードの定期変更を強制または推奨すべきと判断されるケースはそれほど多くないと考えています。認証方式の設定については単純に認証の仕組みだけでなく、初期設定や連続した認証失敗への対応、アカウント停止後の回復方法など総合的に検討する必要があります。例えば一定期間パスワードの変更がない場合にログインを停止したとしてもアカウントの復活方法が簡単なのであれば一定期間パスワード変更のないアカウントをロックし、必要に応じてパスワードを利用したログインを復活させるという方法での運用も考えられます。(電子メール送信によるパスワードリセットは認証方式として安全ではありませんが実態として現在多くのサービスで利用されています。)同時にパスワードを定期的に変更することによってパスワードを忘れる可能性が増えたり変更を繰り返すことで弱いパスワードを設定するようになるなどのセキュリティ上のデメリットがあることもありますのでこれらへの対応も合わせて検討する必要があります。

【利用者としての考え方】 
 個々の利用者としてはサービスや扱う情報の性質、利用形態、二段階(要素)認証など他のの認証方式利用の是非などを踏まえパスワードの定期的な変更を行うことによるメリットとデメリットなどを合わせてパスワードの定期変更を行うべきかを考える必要があります。利用する全てのサービスやアカウントについて一律にパスワードの定期変更が必要かどうかを考えるのではなく、それぞれ個々のサービスの自分の利用形態などに合わせて要否を考えるべきでしょう。利用者にとってパスワードを定期的に変更を行うべきか否かの判断には、アカウントが不正利用された場合に自身また他者に対してどの程度のマイナスの影響が及ぶのか、また定期変更を行うにあたり自身がどの程度負担を感じるのか、他のサービスと同じパスワードを設定しない、推測されやすいパスワードを設定しないなど他のセキュリティ要素を損なうことなく実現できるか、またパスワードを忘れずに管理できるかなどの要素も考慮する必要があります。
   
【「パスワードの定期変更は無意味」という表現について】 
 「パスワードの定期変更は無意味」と言う表現を使用すべきではないということについて「誰も本当に無意味だとは言っていない」「全く意味がないと言っているわけではない」、「コストに見合うだけのメリットがないという意味で言っている」などと言った主張をされる方がいますが私が問題視しているのは「パスワードの定期変更は無意味」という言葉そのものであり解釈の内容を問うものではありません。むしろそのように解釈にブレが生じる表現が用いられていることが事実誤認を生む原因となっていると言えるでしょう。
 
【「定期的」という表現について】
 一連の記述について経緯上「定期的」という表現を用いていますが、一般にパスワード変更の文脈において「定期的」とは「一定の期間を超えないうちに」という意味で使われる表現と認識しており、必ず一定の期間毎に変更するという意味を意図するものではありません。これは一定期間を最長とする不定期な変更を含むものと認識しています。

(続編)
【パスワードの定期変更2】〜なぜ「パスワードの定期変更は無意味」と言ってしまうのか
【パスワードの定期変更3】〜漏洩リスク対策としてのパスワード定期変更

(今後の執筆予定)

【パスワードの定期変更4】〜パスワード定期変更のコストとメリットの評価について
【パスワードの定期変更5】〜まとめ

  1. コメントはまだありません。
  1. トラックバックはまだありません。

CAPTCHA