16 May 2010
同人誌即売会とPOPについての私見
コミティア感想: なぜあなたの本は手にとってもらえないのか?
遅ればせながら拡大コミティアの感想など。といっても一言です。
「とにかく、本が手に取れない」
この理由っていろいろなんですが、どっちにしても・どっちにとってもあまり良いことではないです。でもって、やっぱり「売れなかった」ことを気に病む人は結構多いようで。つーわけで、昔は即売会でバリバリ売ってた老害が、「ここが問題なんじゃよ」というのを簡単に指摘してみたいかと。
・「売れる」と「手にとってもらえる」の違い
商売するなら、買ってもらわないことには話しになりません。でも同人誌即売会であれば、何はともあれ手にとってもらえたら、一定の勝利は収めていると思います。
ティアの場合は見本誌コーナーがあるので、ブースで直に手にとってもらえる可能性は下がってしまうのですが、全員が全員見本誌コーナーに行くわけでもなく、またたとえ見本誌コーナーに行った人でも本好きが本を買う前に、その本をとりあえず手にとってパラパラ見るという過程をスルーするとかいうことは考えられません。
あとですね。ティアで思ったのは、特に同人ゲームだと「無料体験版」とかが大量に出てるんですが、それを「手にとってもらえる」可能性は実はそんなに高くないんじゃないですか? という疑問。私が見てる範囲で言えば、綺麗にスルーされている例が多すぎる気がしました。
ということで、まずは「売る」のではなく「手にとってもらう」ほうに注目したいかと。
・なぜ手にとってもらえないのだろう?
理由はすごく簡単で、売り物が多すぎるからです。
で、手にとったからには、買うまでの距離がぐっと近づく(買い手の心理的に)ので、「手にとる」という段階で、一定の「買う覚悟」が固まっているということです。
そして、買う覚悟を固めるには、その本が買うに値するかどうか分からないので、手に取れません。いくら「お手に取ってご覧になっていってください」を連呼し、「見本誌」が出ていても、それだけではまったく無意味です。
・どうしたら手にとってもらえるのだろう?
その本が何の本なのか、ぱっと見て理解できれば、手に取られる確率は大幅に向上します。
この点、5月のティアで上手いなと思ったのは「ダーツ部漫画」のPOPを出していたサークルさんです。漫画で、ダーツで、部活動。たった6文字で、それがどんな本か、ほとんど理解できます。
・つまりPOPの問題ですか?
ずばり、その通りです。そしてほとんどのPOPは、いわば形式主義・前例主義なPOPばかりです。
コミケでは売れるのに、ティアでは売れない。その理由の多くは、買い手にとっての「フック」が見えないからです。2次創作であれば、POPがなくてもエリアに行っただけで「フック」が見えます。でも1次創作である以上、そこに並んでいる本が何の本なのかが明示されなければ、それは「無数に存在する紙の束」でしかありません。「ワンピース」はフックであり得ても、「女性向け創作」はフックには成り得ないのです。
・うちもちゃんとPOP出してますけど?
ならば、そのPOPに問題があると思った方がいいでしょう。
POPとは、釣り針です。大きすぎる釣り針を飲み込むのは何でも飲み込む大魚だけですし、小さすぎる釣り針は魚を選びすぎます。
漠然と記憶に残っている範囲で具体的に例を出していきますと
「学園青春小説」
釣り針が大きすぎます。学園+青春は、何一つ伝えません。そも学園ってのは青春時代とほぼイコールの意味を持ってます。「学園小説」と言われても、あまりに幅が広すぎて、困惑するばかりです。
「18禁百合漫画」
釣り針が大きすぎます。もちろん18禁の表示はきちんとすべきですが、このPOPは事実上それ以外を伝えません。
「少年少女の成長と葛藤を描く学園小説」
少年少女は成長しますし、葛藤(conflict)のない小説なんてゴミです。そして学園には先生か、少年少女しかいません。長いわりに、「少年少女が主人公」以外、何一つ言っていません。
・じゃあどんなPOPがいいんですか?
先に挙げた「ダーツ部漫画」が上手いのは、
「ダーツ」という比較的ニッチな話題の提示→釣り針の十分な小ささ
「部活漫画」というジャンルの明確な提示→釣り針の適度な大きさ
この双方を、短く押さえきっているところです(実際には学園名が入るなど、もっと長いコピーでしたが)。
同様に、例えば「イスタンブール旅行記」や「旧東欧の鉄道」といったタイトル/POPも、それに関心のある人にとって強烈な誘引作用があります――が、もしこれが「イスタンブール」「旅行記」「旧東欧」「鉄道」のどれか1つだけしか書かれていなかったら、手にとる難易度は急上昇します。「そんなアホなPOP作る奴いねーよ」といわれそうですが、大半のPOPはそうなってます。
考えるべき点は、以下の通りです。
(1)自分の本のウリ/ユニークな点が明白に出ている
他の本ではなく、この本を手にとる理由は何かがはっきりしている。部活漫画なんて何万冊とあり、葛藤を描いた小説なんて何百万冊もあります。にも関わらず、その本を手にとるべき理由はなんでしょうか?
(2)ここはお祭り
同人誌即売会というのは、基本的にお祭りです。本人が楽しもうという意気の見えないブース・POPは、それだけでドローバックです。正確/必要な情報は当然ですが、洒落っ気のあるPOPになっているでしょうか?
(3)卑下しない
「つまらない本ですが」的なPOPは単純に有害です。
(4)見本誌+POPの威力
見本誌コーナーがあろうとも、全員がそこに行くわけではありません。また、ティアに行くような人は、基本的に本が好きです。だから、なるべく本を汚したくありません。
(5)統合的な情報を提示するPOPを
見本誌+POPで、POPを本に貼りつけてしまうと、誰かがそれを手にとったときに、他の人にとってその本は「存在しない」状態になります。いわゆる「おしながき」は、想像する以上の威力があります。本が3冊あれば、おしながきは作って損しません(おしながきに、簡単な本の紹介を含めるのも手です)。
(6)余力があるなら、ちょっとサービス
即売会では机の配置がわりとカオスで、1卓だけ違うジャンルのブースが他のジャンルの卓のなかに混じるといったことも、そう珍しくはありません。卓の座標とジャンル名を表示したプレートを用意しておくと良い目印になりますし、良い目印=目立つということです。過半数がこれやったら、目立たなくなりますが。
(7)埋もれそうだと思ったら角度を変えて
洒落っ気に通じるものですが、例えば合作・合本などで、いまひとつ作品としての個性を打ち上げにくい場合は、「1Pあたり○○円の破格のお値段」「1話○○円とお買い得」といった、角度を変えたフックもあり得ます。
以上、「そんなの本の内容と全然関係ないじゃん!」的なことをまとめてみました。でも、もし「俺の本の内容には絶対の自信がある! 読んでもらえば良さが分かってもらえる!」と思うのであれば、それを伝えるPOPを作ってみてください。もしそのPOPが「愛と感動の学園小説」にしかならないなら、その本の内容は、そういうことです。
逆に、本当はいい本だろうに、手に取れない本というのも、非常にたくさんあるなあというのが拡大ティアでの素直な感触でした。是非、上手なPOPを作って、釣ってやってください。どうかお願いします。