05 2011

ブライアン・リー・オマリー/スコット・ピルグリム

1巻スコピル_convert_20110903075520 2巻スコピル_convert_20110903075529 3巻スコピル_convert_20110903075538
「わたしとつきあいたいんなら…7人の邪悪な元カレと戦って」

◆新感覚青春ラブコメバトルコミック
『Oni press』という出版社で2004年から2010年まで6年かけて全6巻まで刊行されたコミックです。
この翻訳版は1冊に2巻分収録しておりとても分厚い本となっています。
ちなみに本作はカナダのコミックなのですが、出版社は『Oni press』というアメリカの会社なので…やっぱカナダコミックでいいのかな?

『スコット・ピルグリム VS ザ・ワールド』
『スコット・ピルグリム&インフィニット・サッドネス』
『スコット・ピルグリムVSジ・ユニバース』の3冊に纏めて発行されました。

本作品、ジャンルとしては『バトル漫画要素のあるラブコメ』…といえば良いんでしょうが、実際に読んでみるとその内容はとてもカオス。

スコット・ピルグリム。23歳。トロント在住。
アマチュアバンド“セックス・ボブ=ォム”のベーシスト。
無職。

そんなニートなスコットにもカノジョができた。
相手は17歳の高校生、ナイブス・チャウ。

しかし…

夢の中であった美女が現実に存在することを知ってしまったその日から、
スコットの日常はあらぬ方向へと転がりはじめる。
彼女とつきあうためには、
7人の邪悪な元カレを倒さねばならないのだ!


あらすじが途中から微妙におかしな事になっていますね。
バトル展開では悪魔を使役する元カレと戦ったり、ビーガンであることで超能力を得ている元カレと戦ったり、元カレを撃破すると相手は消滅してコインになったり時にはアイテムが現れたりと、とにかく世界観がTVゲームチック。
しかも登場人物は誰一人その事に対してろくに突っ込みません。
現代社会とTVゲームのような世界観が同居している不思議な作風となっており、それが本作品の魅力となっているのです。

アイテム入手_convert_20110904063302
すぐに入手しないと消滅しちゃう

また、作品内に登場するネタもTVゲームや漫画のネタが非常に豊富。

ZERO2_convert_20110904070230.jpg
最終巻の表紙が『ストリートファイターZERO2』のイメージイラストだったり

ゲームネタでは『ファイナルファンタジー』、『くにおくん』、『ストリートファイター』、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』、『ヒットラーの復活』などなど…。
漫画では『すごいよ!マサルさん』、『エヴァンゲリオン』、『少女革命ウテナ』、『X-MEN』などと、正直キリがありません。

作者のブライアン・リー・オマリーは、上に上げたような日本の漫画とゲームに強い刺激を受けて、作品のインスピレーションを生んでいるのだとか。
それもあってなのか翻訳版の本書は3冊全てに、日本の読者に向けた前書きをわざわざ書かれています。
『らんま1/2』を読んだとか、『AKIRA』『古屋兎丸作品』『サルでもかけるまんが教室』など多くの作品を愛読してきたという、かなりの日本漫画愛を語ってくれています。
正直「『サルまん』まで読んでいる」という事実よりも、「サルまんまで翻訳されている」という事実に驚いてしまいました。

【参考リンク 「また一歩野望に近づいた!」『サルでも描けるまんが教室』海外のレビュー】
(『海外の反応とか』様)

◆魅力的なキャラクターたち
ラモーナ_convert_20110904061321

スコットが夢の中で出会った美女、『ラモーナ・フラワーズ』
サブスペース・ハイウェイを使用した際にたまたまスコットの頭の中を通過してしまったため一目惚れされる。
(作中に出る『サブスペース・ハイウェイ』とはマリオで言う土管みたいなそうで無いような通路のこと。出口が距離の離れた場所に繋がっているためラモーナはよく利用している)

そして彼女がAmazonで配達の仕事をしていると知るやいなや、すでにナイブスという彼女が居るのにもかかわらずアプローチをかけるスコット。

ダメ人間的な主人公ではありますが、どちらかといえば女の子に対して積極的に行動し、さらにいざ喧嘩となれば自慢の腕っ節で勝利を掴むという、日本の漫画のラブコメ作品ではあまり見ないタイプのキャラクターではあります。
彼女をやたらとっかえひっかえする所とかチャライバンドマンそのものだし。

ナイブス・チャウ_convert_20110904070449

他の登場キャラクターも個性的。
スコットに振られたにもかかわらず、あきらめきれずに彼を追いかけ続ける『ナイブス・チャウ』
スコットのルームメイトで、ゲイである『ウォレス・ウェルズ』
“セックス・ボブ=ォム”のギターで、バンドの事になると心配性になる『スティーブン・スティルズ』
ビッチなメガネっ娘、『ジュリー・パワーズ』
スコットの大学時代の元カノで元オタクの『エンヴィ・アダムス』
…登場人物がとにかく多いんでホントにほんの一部のキャラですけど、とにかく彼ら、彼女らの軽妙な掛け合いを見るのが楽しいです。
ややクセのあるキャラ設定が付いてたり、後になって明かされたりするのが見所。

◆アートスタイル
カートゥーン調の可愛い絵柄ではありますが、女性キャラはやや肉感的に描かれたりと少しエロスを感じる絵になっています。

恍惚_convert_20110904072135
エンヴィの弱点はヒザのウラ!

こんなにシンプルな絵柄なのになんていうか、登場する女性キャラに結構萌えます。

また、作者は2巻の後半(原書では4巻)から、手塚治虫先生の作品に強い刺激を受けたということで、アートスタイルが変化します。

線や形がよりシンプルになったというのもありますが、個人的には手塚マンガのような演出重視のコマ割りが増えたようにも感じました。
初期の頃とは違い、カートゥーン調と日本風の絵柄が混じりだした独特なアートに変化していきます。

6年分の作者自身の進化も楽しむことが出来るこの『スコット・ピルグリム』
日本の漫画やゲームの影響を受けつつも、読んでみるとしっかり作者のオリジナリティを感じる事が出来るこの作品、おススメです。

◆映画『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』感想
1UPだ_convert_20110903125042
【公式サイト】

熱心な日本のスコピルファンが署名活動を行って日本公開にこぎつけたという
すごい経緯を辿っている映画版。
【映画「スコット・ピルグリム」劇場公開を求める会】

そんなスコピル映画版は、コミックでの演出をそのまま実写化するという、あまり他の映画では見られない映像が楽しめる感じになっていました。
実写でTVゲーム風の演出が入るため非常にシュール。
コメディ演出も結構良い感じに映りました。

ストーリーは序盤のうちは原作コミックに忠実に展開し、後半からはオリジナルストーリーに(ただしオリジナル展開の中にも原作コミックのネタが挿入されたりはする)
前半の原作再現度の高さはホント必見です。
その分後半のオリジナル展開でちょっとダレてくるんですけどね…
しかし原作も定期的にローテンションになったりするので、原作よりはテンションが持続したままストーリーが進んでいってる印象。
原作既読者には絶対におススメ。そうでない人の場合はこのカオスすぎる世界観が合えば充分に楽しめる作品に仕上がっていると思います。
原作未見の人には唐突過ぎる展開が続いているようにしか映らない可能性もあるんですけど。
実際レビューサイトを見ていると賛否両論なようで。

比較画像_convert_20110904112648
キャスティングも個人的には良いと思っています。
ただ、主人公のスコットだけは…主役を演じたマイケル・セラはスコット役としてはミスキャストに感じました。
チャラい系のキャラのスコットを、
『童貞ウォーズ』に出てた人が演じるのは無理があるだろ!
と。
アクションシーンはかなり格好良かったのでそこは好印象だったんですけどね。

あと、ヒロイン役のラモーナを演じたメアリー・エリザベス・ウィンステッドは美人な女優さんなんですが、奇抜な色をした髪型のせいなのかコミックの設定のように『美人』にはあまり見えなかった…
これは一体何が作用していたんでしょうか。

他のキャストはホントにコミックから抜け出してきたかのような人選でした。
左の比較画像にはありませんが、邪悪な元カレ軍団の再現度も素晴らしい。
素晴らしすぎて吹きます。

【予告編】

◆SCOTT PILGRIM VS. THE WORLD: THE GAME
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力が…_convert_20110904170954
力が…勝手に…ぅわあああ!!

game3_convert_20110904170946.jpg

PS3、Xbox360でダウンロードゲームとして配信されているアクションゲームです。
こちらも他作品のゲームのパロディが豊富。
原作に無いパロディまで盛り込んでたりします(上記の画像のようなAKIRAネタとか)
ゲーム内容的には『くにおくん』『ファイナルファイト』を足して2で割ったような感じ。
また、とにかくドット絵とチップチューンサウンドが高水準。
ベルトスクロールアクション好きには堪らないゲームとなっています。

ゲームの難易度もそこまで高くないので遊びやすい方かな?
とにかく爽快感のあるアクションゲームだと感じました。

レベルアップでアクション増加、ショップで買い物してパワーアップを行うという要素もやり込みがいあり。
とにかくSTR(攻撃力)を上げればさくさく進めやすくなります。

また、『敵の攻撃に合わせてカウンターする技(タイミングよく○ボタンを押す)』が使えるようになっているならば、ガード時は○ボタンを連打していると簡単にカウンター攻撃が取れます。

ポーズメニュー等のキーレスポンスが若干悪いのだけが不満。


【参考リンク】(攻略サイト。内容はXbox360版ですがPS3でも大丈夫)

【SCOTT PILGRIM vs.THE WORLD: THE GAME お店の一覧表】



あと、なーんかドット絵が見たことのある画風だなぁと思って調べてみたら、
下記の映像作品を発表したPaul Robertson(リンク先エログロ注意)が本作を担当してたんですね。
道理で原作には無いグロデザインが多いと思った。

↓昔GIGAZINEで取り上げられて話題になった作品です。




この作品ほどではないですが、本ゲームもそれなりにグロい表現があったりします。

裏技

※コマンドはPS3基準です

※全てタイトル画面で入力。

ゾンビサバイバルモード(EX GAME MODEに出現):下、上、右、下、上、右、下、上、右、右、右

ボスラッシュモード(EX GAME MODEに出現):右、右、 ○、R1、右、右、 ○、R1

ブラッドモード(ダメージエフェクトが血っぽくなる):×、○、×、□、×、○、○

最強武器(「Power of Love」)所持モード:□、□、□、×、○、△、△

同キャラ使用可能モード:下、R1、上、L1、△、○

コインを動物に変更:上、上、下、下、上、上、上、上


サウンドチェック:L1、L1、L1、R1、R1、R1、L1、R1
※サウンドチェックはマップ画面で入力。

コインを撒き散らして自殺:R2とL2を押しながら上、上、下、下、左、右、左、右、○、×
※自殺コマンドはゲーム中に入力。


追加DLC

海外では2013年3月12日「新たなDLC」が追加されました。
内容は…
○新トロフィー
○追加キャラ『ウォレス』
○オンラインプレイ対応


しかし日本での配信は未定!
一応トロフィーだけは更新されているのですが、肝心のDLCが来ていないので獲得は不可能という状況。

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早く日本でも配信してください!オナシャス!

◆感想
ラモーナ_convert_20110904074100
メディア展開も何気に豊富なこの作品。
少しでも興味を持ったのなら色々な媒体でのスコピルにも触れてみると良いと思います。

ぶっちゃけるとストーリー展開が少し荒く感じる事もあったのですが、元々メタネタ、パロネタ豊富な作品なため、ある程度はギャグっぽさや勢いで乗り切る内容と分かればあまり気にするほどでもないかと。

ちょっとドロドロした恋愛模様とバトル漫画的な要素が混じっている、王道から外れた少年漫画って感じの作品。

◆小ネタ:邦訳版のセリフに修正が?※情報提供:ガイトウ@yuki_yuki7777様

◆Amazonリンク
【Amazon.co.jp: スコット・ピルグリム VS ザ・ワールド : ブライアン・リー・オマリー, 石川裕人, 御代しおり: 本】
【Amazon.co.jp: スコット・ピルグリム&インフィニット・サッドネス : ブライアン・リー・オマリー, 石川裕人, 御代しおり: 本】
【Amazon.co.jp: スコット・ピルグリムVSジ・ユニバース : ブライアン・リー・オマリー, 石川裕人, 御代しおり: 本】
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4 Comments

六実  

>「サルまんまで翻訳されている」という事実に驚いてしまいました
これ爆笑でした!
まったく同感です(笑)

>スコピル
私も最近ゲーム版を遊んでみましたが、面白かったです!
ポーズメニューの鈍さは確かに気になりましたねw
大した処理じゃないと思うんですが…謎です(^ω^;)

オマージュされているという「くにおくん」シリーズの方も
今度3DSで新作が発売されるみたいですね。
個人的にはそちらも期待しております!

2011/09/08 (Thu) 17:37 | EDIT | REPLY |   

michael  

>>六実さん
日本漫画が向こうで流行っているからこその「サルまん」チョイスなのかもしれませんね~。
あれだけ漫画を語っている作品ですから!

スコピルゲームは大好物のゲームジャンル、ベルトスクロールアクションという事で遊び倒してますw
ポーズメニューの鈍さとスキップできないデモシーンはアップデートで何とかしてくれないかなーと…さすがにもうアップデートはやらないかな?

てかくにおくん、3DSで新作出るんですね!今知りました。
しかも初代アーケード版リメイク…気になる。

2011/09/08 (Thu) 20:04 | EDIT | REPLY |   

ゲドー  

いつも楽しく読ませて頂いております。

こちらのサイト様での記事を読む事でアメコミに対する興味が高まり、まだまだにわかですがすっかりアメコミ沼に嵌ってしまいました!

所で数年前の記事へのコメントで恐縮ですが、こちらの記事に対する質問をさせて頂きます。

こちらの記事を読み、スコット・ピルグリムシリーズを知り、映画を観てコミック一巻を購入したのですが、こちらの記事の画像と自分が購入した本だとセリフが微妙に違うんですよね...

具体的に言うと、スコットがミスリルスケートボードを手に入れようとするも戸惑う時のセリフがこの記事では
「こ・・・こんなスゲエの使えねえよ!」
ですが、自分が所持するコミックでは
「こ・・・こんなの使えねえよ!くっそー、5年ン時に練習しときゃ・・・」
になっているんですよね

これは版の違いで訳も違ってくるということでしょうか?ちなみに自分の本は初版でした。

アメコミで翻訳者が変わることでセリフが変わるのは別記事で読く書かれていると思いますが、他のコミックでも同じ本の版の違い等々でセリフが変わることもあるのでしょうか?

これからもアメコミ、映画、ゲーム等の記事、楽しみにしています!

2016/10/26 (Wed) 20:33 | EDIT | REPLY |   

michael  

>>ゲドーさん
ゲドーさん初めまして!ウチの記事がきっかけでアメコミにハマったとは嬉しいお言葉!ありがとうございます。

>こちらの記事の画像と自分が購入した本だとセリフが微妙に違うんですよね...
えー!?すごく気になる情報!すぐさま確認したいんですが実は今邦訳スコピル全巻が手元になくて確かめられないんですよね……発売して結構時間が経過してから購入したので初版本ではなかったかもとは思うんですが。

>他のコミックでも同じ本の版の違い等々でセリフが変わることもあるのでしょうか?
うーんあまり聞いた事はないかも……最近だとセリフではないですがマーベルヒーローの『punisher』の日本語表記がヴィレッジブックスの邦訳では「パニシャー」とされていたのですが、ドラマを期に『パニッシャー』表記に統一され、過去に刊行された邦訳も新しい版から修正されたという出来事はあったんですけどね。

2016/10/29 (Sat) 19:40 | EDIT | REPLY |   

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