キンモクセイの二度咲き
キンモクセイの二度咲きについて2006年10月10日の記事に書きましたが、気になって仕方がなくなったので、その後も観察を続けています。こういうのは高校の生物部あたりで何年がかりかで調べてみたら楽しそうですね。気温や日照の記録と花芽の変化を照らし合わせてみたら、手軽なフェノロジー(生物季節学)調査として良い材料になるのではないでしょうか? キンモクセイはソメイヨシノ同様、栄養繁殖による単一クローン植物とされているので、地方間の比較にも適した材料でしょう。もう誰かやってるかな??
我が家は千葉県のディズニーランドからさほど遠く無いところにあり(住所は書けないのでご容赦)、近所の公園に植栽されているキンモクセイの同じ木を毎年観察しています。一昨年からの開花日は・・
2006年 9/23, 10/9 (2回の開花ピーク)
2007年 10/10 (1回だけ)
2008年 10/4 (1回目開花前期?)
これは、yahooのブログ検索で「キンモクセイ」をキーワードにした時に表示される「注目度推移グラフ」です。日本全国で書かれているブログが対象ですから、あまり当てにならないだろうという前提で見てみても、見事に当地の開花日と一致しています。関東地方のブロガーが多いのか、キンモクセイは全国的に同じ頃に咲くのか?? たしかキンモクセイと同時期に咲くヒガンバナ(これも単一クローン植物)では、ソメイヨシノのように開花前線がゆっくりと列島を移動するという現象は見られないで、あっという間に全国的に咲くと聞いた覚えがあります。
過去の開花日について記録がないかとネットを検索してみると、京都大学の吉川、浜田による「キンモクセイの開花に及ぼす温度と日長の影響(I)」という短報がヒットしました。論文の最後に「キンモクセイの開花に及ぼす要因は複雑なもののようである。」と結んでいるように、温度と日長の影響は明確にならなかったのですが、兵庫県における1973年の開花記録が出ています(次表)。
この年は2度の開花ピークがあったようで、1回目満開は9月26日、2回目満開は10月6~7日となっています。さらに10月17日にも若干の開花ピークがあったようです。関東と関西では開花日にどれくらいの違いがあるのか判りませんし、データも少ないので非常に大雑把な言い方になりますが、二度咲く年は9月下旬と10月初旬に開花ピークが来て、一度だけ開花の年は10月初旬だけになるように見えます。また、花芽分化は8月上旬だそうで、花芽分化から僅か50日余りで開花するとのこと。樹木の花としては異例の速さだと思います。この花芽分化から開花までの日数の短さは、環境の影響を受けやすい原因にもなりそうで、ちょっとした高温や低温、日照時間の変動によって花芽の生長が大きく影響されているのかも知れません。その結果が一度咲き、二度咲きとして現れるのかも・・・。
そんなことで、検索をしていると次のような記事が見つかりました。
「枝の途中から出る不定芽」というのが何を指しているのかが全く不明で、少なくとも私が観察した範囲ではキンモクセイの枝には不定芽は見られませんでした。学術用語使いがいい加減なのかも知れません。また大学での研究としてやるなら、せめて上記の浜田先生の論文を読んで、それ以上のことをやってもらわねば困るように思います。あるいは取材者の能力の問題で、ちゃんと理解出来ていないのかも知れません。また、「愛好家の間云々」というのも無責任な話で、自分たちがたまたま最近気がついただけの現象を流行の温暖化問題に直結させてしまっているだけ。過去のことを調べたわけでも因果関係を考えての話では無いでしょう。何でもかんでも神様の祟りと考えていた時代の人々を笑うなど出来ないと思います。そもそも「愛好家」って誰??
Kyoto Shimbun 2008年9月19日(金)
キンモクセイは2度咲く
府立大卒業生ら研究
10月初旬に小さなオレンジ色の花を無数に咲かせて独特の香りを漂わせるキンモクセイに2度の開花ピークがあることが、京都府立大の卒業生、下村孝教授らの研究で確認された。花芽の場所による開花の傾向の違いなどが影響しているという。学会学術誌「日本緑化工学会誌」で18日までに発表した。
キンモクセイの「2度咲き」は、以前から研究者の間で知られていた。愛好家の中でも「地球温暖化の影響では」などと話題になっていたが、詳細は分かっていなかった。山本さんたちは昨年10月、京都市左京区と北区の住宅街でキンモクセイ26株を選び、開花状況を調べた。ほとんどの木で12日間開けて2度の開花ピークがあった。2度目の花(小花)の数は7分の1程度に少なくなり、香りも弱かった。花の数を調べると、2度目のピークでは、枝の途中から出る「不定芽」から咲いた花が多かった。不定芽は未発達の花が多く、遅れて開花する傾向があるのではないかという。
不定芽は前年成長した枝に多く花が目立たないため、2度咲きに気付きにくかったのではという。下村教授は「同じモクセイ科のヒイラギも2度咲きしているのではないか」と話している。
この話は新聞好みらしく、あちらこちらに出て来ます。
朝日新聞では温暖化の話は無くて、具体的な開花日が記載されています。満開日は10月11日と23日の2回で、2回目の花数は1回目の1/7だったとのことで、2回目の開花数が随分少ないことがわかります。私の2006年10月10日の記事での二度咲きでは、むしろ2回目の開花数の方が多かったので、同じ二度咲きとは言っても、いろいろなパターンがありそうです。我が家の近所では昨年は1回しか咲かなかったと書きましたが、開花のピークが過ぎてもチラホラ咲いているのは見かけました。しかし何日がピークとは言えないほどの数でした。上記、吉川らの論文にある、10/17の3回目のピークに相当するものと思われます。つまり、キンモクセイの開花ピークは波のように3回あって、それぞれの波の高さ(=開花数)は、その年の天候(=気温、日照etc)や微気象(=植えてある場所の違い)によって左右される・・・と言えそうです。何故開花のピークが複数あるのかと言えば、葉腋に生長段階の異なる3~4個の花芽があるのが原因でしょう。そして、人々は、最も開花数の大きいピークによって、例年より早く開花していると思ったり、遅いと感じたりするのでしょう。
キンモクセイ2度咲く
2008年09月22日
府立大教授ら発表
キンモクセイ、実は2度咲きしています――。府立大大学院生命環境科学研究科の下村孝教授(都市緑化)と、当時学部生の○○さんが昨秋、京都市内のキンモクセイを共同調査し、こんな結果をまとめた。1度目より2度目の方が咲く小花の数が極端に少なく、全体の香りが弱いため2度咲きが見つかりにくいという。日本緑化工学会誌でこのほど発表した。
下村教授によると、調査は昨年10月、大学周辺の左京区と北区の個人住宅などに生えるキンモクセイ26株を対象に実施。開花状況を平均化したところ、キンモクセイは10月11日に最初の開花ピークを迎え、一度散った後の同23日に2度目のピークが訪れた。下村教授は「ほとんどのキンモクセイが2度咲きした」と解説した。
同じ時期に公園などの別の3株のキンモクセイの枝、計9本に印を付け、開花した小花数も記録して分析した。その結果、最初のピーク時には全体の70%以上の小花が咲いていたが、2度目のピーク時の開花数は平均すると、1度目の約7分の1にとどまった。株全体の香りも弱くなったという。
下村教授は「2度咲きする要因はわからないが、1度目のピーク時には未熟だった花芽や、花芽から出てくる10ほどの小花の一部が、その後2週間ほどで成熟して開花したと考えられる」という。
ところが、同じ朝日新聞の「天声人語」は訳の判らない妄想が爆裂して全体として朝日らしいバランスを保っているようです。まずは記事を・・
天声人語 2007年10月16日「キンモクセイの遅咲き」
兵庫県の但馬地方で農業を営む○○さん(72)から、今年はキンモクセイの花が遅かったと便りをもらった。電話で聞くと、身近な自然を観察しながら、長く日記をつけてきた方だという。
いつもなら9月19日ごろから甘い香りが漂うのに、今年は気配がなかった。あきらめかけた10月3日にやっと匂(にお)ってきた。ここ35年で、これほど遅いのは初めてという。「酷暑の影響でしょうか。自然の歯車がおかしい」と案じておられた。
9月の残暑も記録的だった。暑さだけではない。雨無しの日が長く続き、降れば滝のように叩(たた)きつける。そんな、「渇水か豪雨か」の二極化も著しい。自然の歯車の、もろもろの変調の背後に、地球温暖化の不気味な進行が見え隠れしている。
その温暖化が、米国の前副大統領アル・ゴア氏へのノーベル平和賞で、くっきり輪郭を現してきた。もうだれも目を背けられないという焼き印が押された。氏は「伝道師」を自任して啓発を続けている。今回の受賞は、その評価を超えて、世界に「今すぐの行動」を求めた鐘の音でもあろう。
「上農(じょうのう)は草を見ずして草を取る」という言い習わしがある。良い農夫は雑草が芽を出す気配を知って摘み取る、の意味だ。「中農は草を見て草を取り、下農は草を見て草を取らず」と続く。
温暖化に対し、私たちに「上農」の聡明(そうめい)さはなかったようだ。せめては「中農」の愚直さで向き合わないと、地球は危うい。下農にはなるな――キンモクセイの遅咲きは、自然の鳴らす、ひそやかな鐘とも聞こえる。
農家の爺さんを「上農」に見立てて、いい加減な記録を地球温暖化と結びつけ、我々に対する警鐘であると、明後日の方向に思い切りジャンプしています。1973年(ちょうど35年前)の京都では10月6日に2回目の満開になってますが・・・。
だいたい、「上農は草を見ずして草を取る」なんて、本気でそう思っているのでしょうか?芽を出す気配を知ることなど、誰だって出来やしないでしょう。そんな出来もしない精神論に「聡明さ」を求めるから、少数の、信ずるに足らないような記録(データ)からオカシな結論を導き出して世の中に警鐘は発したつもりでいい気になってしまうのでしょう。要するにデータとは関係なく言いたい結論が先ずあって、それをサポートしてくれるデータを恣意的に選んでいるだけなのです。そのような単なる個人的な思い込みを「自然からの警鐘」という形に言い変えて、真実性を与えたつもりになっているのでしょう。「自然」を持ち出されると論拠が薄弱でも納得してしまうという日本人の弱点を突いているのです。そもそも、気温変動の詳細な記録など既にあるのであって、何も今さらキンモクセイを持ち出す必要など無いのです。そういえば、水の結晶(つまり氷)に言葉の良し悪しを決めてもらおうという噴飯ものの笑い話がありましたっけ。何故ものごとの判断を他の生命現象や物理現象に委ねてしまうのでしょう。不思議な話です。
もちろん、様々な自然現象の中から、その原因を追及したりメカニズムを解明することは大切なことで、実際に自然科学はそのように発展して来た訳です。たとえばキンモクセイについても、「開花期が遅くなっている」という観察結果があったとして、その原因を探る上で、「気温の上昇と関係があるだろう」という仮説を立てること自体は間違った話ではありません。この仮説が正しいことを証明するためには、まず観察結果が事実かどうかを多くのデータから確認し、もし事実であれば、さらに気温と開花時期の因果関係を実験によって検証していくのです。もし、事実が確認されなかった、あるいは、気温と開花時期の因果関係が見いだせなかったとなれば、そこでその仮説は否定される、要するに勘違いや思い込みということになります。このような、ある意味「愚直」な作業を繰り返して得た知見こそ、我々が信ずるべきものであって、本当の「聡明さ」とはこのような事を言うのではないでしょうか? 少なくとも、勘違いや早とちりで警句を発する者を聡明とは言わないでしょう。
「天声人語」のおかげですっかり脱線してしまいましたが、今期のキンモクセイの観察はもう少し続けて見ようと思います。
我が家は千葉県のディズニーランドからさほど遠く無いところにあり(住所は書けないのでご容赦)、近所の公園に植栽されているキンモクセイの同じ木を毎年観察しています。一昨年からの開花日は・・
2006年 9/23, 10/9 (2回の開花ピーク)
2007年 10/10 (1回だけ)
2008年 10/4 (1回目開花前期?)
これは、yahooのブログ検索で「キンモクセイ」をキーワードにした時に表示される「注目度推移グラフ」です。日本全国で書かれているブログが対象ですから、あまり当てにならないだろうという前提で見てみても、見事に当地の開花日と一致しています。関東地方のブロガーが多いのか、キンモクセイは全国的に同じ頃に咲くのか?? たしかキンモクセイと同時期に咲くヒガンバナ(これも単一クローン植物)では、ソメイヨシノのように開花前線がゆっくりと列島を移動するという現象は見られないで、あっという間に全国的に咲くと聞いた覚えがあります。
過去の開花日について記録がないかとネットを検索してみると、京都大学の吉川、浜田による「キンモクセイの開花に及ぼす温度と日長の影響(I)」という短報がヒットしました。論文の最後に「キンモクセイの開花に及ぼす要因は複雑なもののようである。」と結んでいるように、温度と日長の影響は明確にならなかったのですが、兵庫県における1973年の開花記録が出ています(次表)。
この年は2度の開花ピークがあったようで、1回目満開は9月26日、2回目満開は10月6~7日となっています。さらに10月17日にも若干の開花ピークがあったようです。関東と関西では開花日にどれくらいの違いがあるのか判りませんし、データも少ないので非常に大雑把な言い方になりますが、二度咲く年は9月下旬と10月初旬に開花ピークが来て、一度だけ開花の年は10月初旬だけになるように見えます。また、花芽分化は8月上旬だそうで、花芽分化から僅か50日余りで開花するとのこと。樹木の花としては異例の速さだと思います。この花芽分化から開花までの日数の短さは、環境の影響を受けやすい原因にもなりそうで、ちょっとした高温や低温、日照時間の変動によって花芽の生長が大きく影響されているのかも知れません。その結果が一度咲き、二度咲きとして現れるのかも・・・。
そんなことで、検索をしていると次のような記事が見つかりました。
「枝の途中から出る不定芽」というのが何を指しているのかが全く不明で、少なくとも私が観察した範囲ではキンモクセイの枝には不定芽は見られませんでした。学術用語使いがいい加減なのかも知れません。また大学での研究としてやるなら、せめて上記の浜田先生の論文を読んで、それ以上のことをやってもらわねば困るように思います。あるいは取材者の能力の問題で、ちゃんと理解出来ていないのかも知れません。また、「愛好家の間云々」というのも無責任な話で、自分たちがたまたま最近気がついただけの現象を流行の温暖化問題に直結させてしまっているだけ。過去のことを調べたわけでも因果関係を考えての話では無いでしょう。何でもかんでも神様の祟りと考えていた時代の人々を笑うなど出来ないと思います。そもそも「愛好家」って誰??
Kyoto Shimbun 2008年9月19日(金)
キンモクセイは2度咲く
府立大卒業生ら研究
10月初旬に小さなオレンジ色の花を無数に咲かせて独特の香りを漂わせるキンモクセイに2度の開花ピークがあることが、京都府立大の卒業生、下村孝教授らの研究で確認された。花芽の場所による開花の傾向の違いなどが影響しているという。学会学術誌「日本緑化工学会誌」で18日までに発表した。
キンモクセイの「2度咲き」は、以前から研究者の間で知られていた。愛好家の中でも「地球温暖化の影響では」などと話題になっていたが、詳細は分かっていなかった。山本さんたちは昨年10月、京都市左京区と北区の住宅街でキンモクセイ26株を選び、開花状況を調べた。ほとんどの木で12日間開けて2度の開花ピークがあった。2度目の花(小花)の数は7分の1程度に少なくなり、香りも弱かった。花の数を調べると、2度目のピークでは、枝の途中から出る「不定芽」から咲いた花が多かった。不定芽は未発達の花が多く、遅れて開花する傾向があるのではないかという。
不定芽は前年成長した枝に多く花が目立たないため、2度咲きに気付きにくかったのではという。下村教授は「同じモクセイ科のヒイラギも2度咲きしているのではないか」と話している。
この話は新聞好みらしく、あちらこちらに出て来ます。
朝日新聞では温暖化の話は無くて、具体的な開花日が記載されています。満開日は10月11日と23日の2回で、2回目の花数は1回目の1/7だったとのことで、2回目の開花数が随分少ないことがわかります。私の2006年10月10日の記事での二度咲きでは、むしろ2回目の開花数の方が多かったので、同じ二度咲きとは言っても、いろいろなパターンがありそうです。我が家の近所では昨年は1回しか咲かなかったと書きましたが、開花のピークが過ぎてもチラホラ咲いているのは見かけました。しかし何日がピークとは言えないほどの数でした。上記、吉川らの論文にある、10/17の3回目のピークに相当するものと思われます。つまり、キンモクセイの開花ピークは波のように3回あって、それぞれの波の高さ(=開花数)は、その年の天候(=気温、日照etc)や微気象(=植えてある場所の違い)によって左右される・・・と言えそうです。何故開花のピークが複数あるのかと言えば、葉腋に生長段階の異なる3~4個の花芽があるのが原因でしょう。そして、人々は、最も開花数の大きいピークによって、例年より早く開花していると思ったり、遅いと感じたりするのでしょう。
キンモクセイ2度咲く
2008年09月22日
府立大教授ら発表
キンモクセイ、実は2度咲きしています――。府立大大学院生命環境科学研究科の下村孝教授(都市緑化)と、当時学部生の○○さんが昨秋、京都市内のキンモクセイを共同調査し、こんな結果をまとめた。1度目より2度目の方が咲く小花の数が極端に少なく、全体の香りが弱いため2度咲きが見つかりにくいという。日本緑化工学会誌でこのほど発表した。
下村教授によると、調査は昨年10月、大学周辺の左京区と北区の個人住宅などに生えるキンモクセイ26株を対象に実施。開花状況を平均化したところ、キンモクセイは10月11日に最初の開花ピークを迎え、一度散った後の同23日に2度目のピークが訪れた。下村教授は「ほとんどのキンモクセイが2度咲きした」と解説した。
同じ時期に公園などの別の3株のキンモクセイの枝、計9本に印を付け、開花した小花数も記録して分析した。その結果、最初のピーク時には全体の70%以上の小花が咲いていたが、2度目のピーク時の開花数は平均すると、1度目の約7分の1にとどまった。株全体の香りも弱くなったという。
下村教授は「2度咲きする要因はわからないが、1度目のピーク時には未熟だった花芽や、花芽から出てくる10ほどの小花の一部が、その後2週間ほどで成熟して開花したと考えられる」という。
ところが、同じ朝日新聞の「天声人語」は訳の判らない妄想が爆裂して全体として朝日らしいバランスを保っているようです。まずは記事を・・
天声人語 2007年10月16日「キンモクセイの遅咲き」
兵庫県の但馬地方で農業を営む○○さん(72)から、今年はキンモクセイの花が遅かったと便りをもらった。電話で聞くと、身近な自然を観察しながら、長く日記をつけてきた方だという。
いつもなら9月19日ごろから甘い香りが漂うのに、今年は気配がなかった。あきらめかけた10月3日にやっと匂(にお)ってきた。ここ35年で、これほど遅いのは初めてという。「酷暑の影響でしょうか。自然の歯車がおかしい」と案じておられた。
9月の残暑も記録的だった。暑さだけではない。雨無しの日が長く続き、降れば滝のように叩(たた)きつける。そんな、「渇水か豪雨か」の二極化も著しい。自然の歯車の、もろもろの変調の背後に、地球温暖化の不気味な進行が見え隠れしている。
その温暖化が、米国の前副大統領アル・ゴア氏へのノーベル平和賞で、くっきり輪郭を現してきた。もうだれも目を背けられないという焼き印が押された。氏は「伝道師」を自任して啓発を続けている。今回の受賞は、その評価を超えて、世界に「今すぐの行動」を求めた鐘の音でもあろう。
「上農(じょうのう)は草を見ずして草を取る」という言い習わしがある。良い農夫は雑草が芽を出す気配を知って摘み取る、の意味だ。「中農は草を見て草を取り、下農は草を見て草を取らず」と続く。
温暖化に対し、私たちに「上農」の聡明(そうめい)さはなかったようだ。せめては「中農」の愚直さで向き合わないと、地球は危うい。下農にはなるな――キンモクセイの遅咲きは、自然の鳴らす、ひそやかな鐘とも聞こえる。
農家の爺さんを「上農」に見立てて、いい加減な記録を地球温暖化と結びつけ、我々に対する警鐘であると、明後日の方向に思い切りジャンプしています。1973年(ちょうど35年前)の京都では10月6日に2回目の満開になってますが・・・。
だいたい、「上農は草を見ずして草を取る」なんて、本気でそう思っているのでしょうか?芽を出す気配を知ることなど、誰だって出来やしないでしょう。そんな出来もしない精神論に「聡明さ」を求めるから、少数の、信ずるに足らないような記録(データ)からオカシな結論を導き出して世の中に警鐘は発したつもりでいい気になってしまうのでしょう。要するにデータとは関係なく言いたい結論が先ずあって、それをサポートしてくれるデータを恣意的に選んでいるだけなのです。そのような単なる個人的な思い込みを「自然からの警鐘」という形に言い変えて、真実性を与えたつもりになっているのでしょう。「自然」を持ち出されると論拠が薄弱でも納得してしまうという日本人の弱点を突いているのです。そもそも、気温変動の詳細な記録など既にあるのであって、何も今さらキンモクセイを持ち出す必要など無いのです。そういえば、水の結晶(つまり氷)に言葉の良し悪しを決めてもらおうという噴飯ものの笑い話がありましたっけ。何故ものごとの判断を他の生命現象や物理現象に委ねてしまうのでしょう。不思議な話です。
もちろん、様々な自然現象の中から、その原因を追及したりメカニズムを解明することは大切なことで、実際に自然科学はそのように発展して来た訳です。たとえばキンモクセイについても、「開花期が遅くなっている」という観察結果があったとして、その原因を探る上で、「気温の上昇と関係があるだろう」という仮説を立てること自体は間違った話ではありません。この仮説が正しいことを証明するためには、まず観察結果が事実かどうかを多くのデータから確認し、もし事実であれば、さらに気温と開花時期の因果関係を実験によって検証していくのです。もし、事実が確認されなかった、あるいは、気温と開花時期の因果関係が見いだせなかったとなれば、そこでその仮説は否定される、要するに勘違いや思い込みということになります。このような、ある意味「愚直」な作業を繰り返して得た知見こそ、我々が信ずるべきものであって、本当の「聡明さ」とはこのような事を言うのではないでしょうか? 少なくとも、勘違いや早とちりで警句を発する者を聡明とは言わないでしょう。
「天声人語」のおかげですっかり脱線してしまいましたが、今期のキンモクセイの観察はもう少し続けて見ようと思います。