沙東すず

以前はメレ山メレ子という名前で「メレンゲが腐るほど恋したい」というブログを書いていました

いなか、の、じけん(ヤマイモ不審死編)

asahi.com:クマ仕留め穴へ…体抜けず 零下10度、愛犬抱き一昼夜
岐阜県高山で、穴熊猟(アナグマを狩るのではなく冬篭り中の熊を仕留めるらしい)に行った男性が熊穴から体を抜けなくなり救助されたというニュースです。犬で暖をとって凍死を逃れたということで本当によかったですね!
 図解がかわいい。
このニュースを見てわたしが思い出したのは、この記事へのはてなブックマークでも書きましたが「ヤマイモ死」です。ヤマイモ死とはなにか。わたしもたいがい田舎の出身ですが、その昔お付き合いしていた人はもっと田舎の出身でした。短い交際期間の中で彼が教えてくれた話です。
一口にヤマイモといっても何種類かあって、山に自生している自然薯(じねんじょ)は中でも貴重で粘り気が最高らしいです。地中をうねりながら何年もかけて成長したジネンジョを掘るには、根を傷つけないように注意深く周りを掘っていかなければならない。傷がつくといたみやすくなってしまうので値もつかないのです。穴に体を突っこんで「これは1メートル以上ある大物!」夢中になって掘っていると、足のほうの土が崩れて完全に逆さまになってしまう。あがいても体勢を立て直すことができない、穴の中でわめいてももとより山の中でまわりには誰もいない、そのうち血が頭に下がって苦しくなってきて…
怖すぎる!わたしはこの話をきいたあと生き埋めにされる夢で何度かうなされました。ヤマイモを掘るときには細長い縦穴ではなく、面倒でも広く土を崩していかなければならないですね。ヤマイモ死にはヤマイモを掘ったあとの穴に他の人が落ちて死ぬケースもあるので、掘ったあとは必ず埋め戻すのもルールだそうです。
大分にはさらに似た話で吉作落としという民話もあります。こちらはイワタケ採りに精を出しすぎた男が見る地獄の話です。欲張りすぎるなという戒めであることを差し引いても、主人公の心理描写が執拗すぎるのがポイント。
ヤマイモ死を教えてくれた人とは数年後にまた顔をあわせる機会があり、わたしは彼に心をこめて「前に教えてくれたヤマイモ死の話、今でもわたしのすべらない話フォルダの白眉だよ…」と言いました。そうすると彼もまた
「俺も前にメレ子が教えてくれた『キリンは気が向いたらハトも食べる』っていう話、ウケたいときによく使ってるよ…」
そんな話してるなんてどれだけ話題につまってたんだって感じですね。