民主主義支える宗教の弱体化　ハンガリーやポーランドの反リベラリズムは何をもたらすか

2024/12/28

　2024年は民主主義を信奉する陣営にとっては嫌なことが多く起きた年だった。ウクライナ紛争の長期化、中東の不安定化に加え、英国に生まれた労働党政権は経済政策で公約を覆し、国民の理解が得られなければ国が不安定化する可能性がある。フランスは過半数をとる政党もなく、バルニエ政権は2カ月半で倒れ、バイル新政権も先が見えない状態だ。

　ヨーロッパの優等生だったドイツもショルツ政権の連立の崩壊、不信任案が可決され、過去にない不安定な政治状況に陥った。経済も緩慢な衰退が止まらず、甘い対中政策で中国の経済的脅威でダメージを受けている。今年は6月の欧州議会選挙で右派ポピュリズム陣営が確実に勢力を伸ばし、EU加盟各国でもポピュリズムが台頭した。

　特に彼らは反移民で現政府を厳しく批判することで、票を伸ばし、一般市民の生活苦に寄り添うことで人気を集めている、歴史の長い極右・仏国民連合は政権政党をめざし、洗練された戦略に切り替えることで支持を拡大し続けている。中道右派も中道左派も防戦に回っている状態だ。

　さらに西側の民主主義選挙にはロシアや中国がネット上から介入し、自国に都合のいい政治家を選ぶよう影響を与え、確実に成果を出している。米大統領選も例外ではなく、対中政策に厳しいバイデン民主党政権の継続を望まない中国共産党は、何でもディールのトランプ氏を支持したともいわれている。

　つまり、世界に影響を与える各地の国政選挙は、SNSなどで国外からも影響が与えられ、民主主義に不可欠な公正さを著しく損なう選挙となっている。SNSは組織や団体より個人の意見が尊重される状況を生み出しており、メディアへの信用度も落ちる一方だ。

　戦争に必要な迅速な意思決定でも、ロシアや中国より決定プロセスが煩雑で、その遅れが民主主義の弱点として露呈したとし、強権を発する政府を好む空気も漂っている。国のトップにさらなる権限を集中させる動きもある。

　しかし、民主主義の正当性は何より横暴で人道から大きく外れた独裁者を生まないためだった。最近、政権が崩壊したシリアのアサド政権の拷問や暴力は大きく人道を逸脱したものだった。今も北朝鮮を始め強権政治を続ける国は少なくなく、

これで民主主義が崩壊すれば、正しい人選もできない権威主義国家が増える可能性もある。

　しかし、私は民主主義を支える市民の良心を信じたい。確かに宗教が弱体化するにつれ、世俗化が進んだ民主主義世界で宗教以外に人の良心を保つ力は簡単には見つからない。日本では世俗化自体が理解されていない。西洋における世俗カとはキリスト教的家族規範を軽視し、LGBTQを礼賛することを意味する。日本でいえばお笑い芸人がメディアで幅を利かせることを意味する。

　寛容さと赦しを説くキリスト教は、SNSに影響を与えておらず、憎悪と暴力的言葉が蔓延っている。しかし、キリスト教的規範を維持しようという国もある。それが批判されることの多いポーランドやハンガリーだ。ポーランドは政権が交代したことで、EUのリベラリズムに多少方向転換したが、まだまだキリスト教的規範は健在だ。

　ハンガリーは家族の価値観を重視する政策をとっており、オルバン首相は、かつては民主化の闘士だった。興味深いのは旧ソ連の圧政と戦った旧中・東欧諸国は、ソ連時代にキリスト教信仰を捨てないことで筆舌に尽くしがたい苦労を味わったことだ。ポーランド出身のローマ教皇パウロ2世は反共の闘志だった。

　つまり、旧中・東欧の方が世俗化が進んでおらず、ポーランドなどに日系企業が多いのも、価値観が過度に自由追及に振れていないからだ。そんなポーランドやハンガリーが国家として存在しているのは大きい。すでに世俗化してしまったフランス、ドイツ、英国、オランダ、北欧をハンガリーやポーランドは警戒している。

関連記事

大衆文化全開のトランプ政権2.0　最も米国らしさが現れることの世界への影響は？ 2025/01/18
トランプ米政権2.0は熾烈なリベラルとの闘い　リベラルの正体を理解することが先を読む鍵 2025/01/03
民主主義支える宗教の弱体化　ハンガリーやポーランドの反リベラリズムは何をもたらすか 2024/12/28
バラマキから自由主義経済再び　トランプ氏が評価するアルゼンチンのミレイ大統領の考え 2024/12/11
民主主義も権威主義も脆弱さ露呈　SNSが世界を破壊する中で求められるヴィジョンと赦し 2024/12/10
米依存脱却に直面するＥＵ　2期目のフォンデアライエン新体制は安全保障重視の臨戦態勢　 2024/12/02
戦争への備え始めた北欧　米NATO撤退リスク、平和ボケのドイツは目覚めるのか　 2024/11/29

プロフィール

artworks21

Author:artworks21
安部雅延（あべ　まさのぶ）
フリーの国際ジャーナリストで、フランスのビジネススクールで長年教鞭を取り、日産自動車始め多数の大手企業でグローバル人材育成を担当した安部雅延が、国際情勢やグローバルビジネスの最前線を紹介し、豊富な経験を踏まえた独自の視点で世界を読み解くグローバルトーク。