
法を超越する者はいない。地位や家庭、その背景に関わらず、法を犯した者は裁かれる。そんな当たり前の原則が米国で揺らいでいる。原因は、トランプ次期大統領ではない。退任間際のバイデン大統領だ。
バイデン氏は2024年12月1日、銃を購入した際に薬物依存を申告しなかった罪や脱税罪などに問われた次男ハンター氏に恩赦を与えた。司法手続きを尊重して恩赦や減刑はしないと繰り返してきたにもかかわらず、だ。その変節ぶり、親族への露骨な特権の行使にあっけにとられた。
日曜日の夜に発表された声明の最後には、「父親であり大統領である私がなぜこの判断に至ったのかを理解してもらいたい」とあった。父としての判断を前面に出して感情に訴えようとしたのだろう。だが、それは無理筋だろう。AP通信などが直後に実施した世論調査で、恩赦を認めると答えた人はわずか22%だ。
息子に刑罰一切受けさせず
恩赦(clemency)には、刑罰を免除し、公民権など全ての市民的自由を回復する「恩赦(pardon)」や、裁判所が下した刑を軽くする「減刑(commutation)」などがある。通常は、ある犯罪の責任を認めて更生した人に対して大統領が与える「寛大な措置」だ。だが、この権限を政治的あるいは私的に行使したと批判される例もあった。
大統領の恩赦に詳しいミズーリ大法科大学院のフランク・ボーマン名誉教授に話を聞いた。親族への恩赦としては、クリントン元大統領が違法薬物に絡む罪で有罪となった異父弟のロジャー氏に恩赦を与えた例がある。トランプ氏も1期目、脱税などの罪で有罪となったチャールズ・クシュナー氏に恩赦を与えた。長女イバンカ氏の義理の父だ。
だが、大きな違いがあるという。…
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連載:風考記
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