彼女たちの沈黙に支えられてこの国はある。そのなかに私がいる――。
9月、大阪市天王寺区にある多目的劇場「一心寺シアター倶楽(くら)」。薄闇に沈む約150席の空間に「私」の声が響く。その手に一冊の本が握られている。『マリヤの賛歌』。戦時中に「慰安婦」として働いた経験を持つ城田すず子さん(仮名)の自伝だ。
舞台の上で本を読み、その半生をたどる「私」を演じているのは、俳優の金子順子さん(73)。同書を原案とする一人芝居「マリヤの賛歌―石の叫び」の上演を、2022年から各地で続けている。
客席の背後の社会に向かって「私」は叫ぶ。
「女を二つにわけるな」と。
「慰安婦」は「簡単に書けない」
城田さんは東京の下町に生まれ、10代で芸者屋に奉公に出た。戦中は台湾や南洋諸島の「慰安所」で働き、戦後は米兵相手に体を売った。後半生を婦人保護施設「かにた婦人の村」(千葉県館山市)で過ごし、自らの体験を語り始めた。
一人芝居は、城田さんと「私」の言葉を行き来しながら紡がれる。城田さんの生涯をたどる中で「私」は、社会と自らの内にある偏見に向き合う。その自問が、女性を「純真な女」と「汚れた売春婦」に二分し、被害者の声を抑圧する構造を浮かび上がらせる。
作劇を手掛けたのは、劇作家のくるみざわしんさん(59)。「日本人の慰安婦は戦後、ほとんど声を上げられなかった」。そう前置きした上で、「その口を封じてきたのは誰か。今この問題を扱うなら、そこまで問わないと意味がないと思った」と話す。
社会問題を扱う作品を多く発表してきたくるみざわさんだが、「慰安婦」問題については「簡単に書けるものではない」と距離を取ってきたという。
転機は、…
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