腰に巻くことを前提に開発された世界初の自転車用ロック、という触れ込みで発売されたのが Hiplok(ヒップロック) だ。ロンドンでもチェーン錠やワイヤー錠を腰に巻いたり、肩に掛けたりして使っていた人は見かけたが、Hiplok は最初からベルトのように腰に巻くために作られている。「世界初」を謳っているが、むしろ「なんで今までなかったんだろう?」と思ってしまう製品なのだ。そしてこれ、イギリス出身のインダストリアル・デザイナーが開発したモノでもある。
Hiplok の生みの親は、John Abrahams(ジョン・アブラハムス)氏とBen Smith(ベン・スミス)氏という工業デザイナーで、二人はコベントリー大学の大学院生時代に出会った。John はロンドン在住で世界的ブランドの商品開発に携わり、Ben は米国カリフォルニアの Troy Lee Designs 社に勤務し自転車用品の商品開発をしていたが、その間もずっと定期的に連絡を取り合っていたらしい。そんな二人がいかにして Hiplok を開発したのか、インタビュー記事があったのでまとめてみた。完訳ではなく適当に端折ってあるのでご了承を。
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John は、ある日友人宅へ自転車で行ったが、自転車錠を持ってくるのを忘れてしまったことがあった。友人宅には五分しかいなかったが、その間に自転車を盗まれてしまったのだった。しかもこれで三度目の盗難! John は元々、通勤向けの手軽なロックを作るという構想を温めていたが、この出来事をきっかけに「自転車ロックを創ろう!」と決心。そこで Ben に「体に着用する自転車用ロック」のアイディアを話してみたところ、Ben もこれはイケる!と直感的に思ったらしい。
John と Ben は工業デザイナーとしては全く逆のタイプらしく、John はシンプルで使いやすさを重視するタイプで、Ben はユニークで複雑なアプローチを取るタイプ。本人達曰く「異なるアプローチを取る二人だからこそバランスが取れて物事が上手く行くんだ」とのこと。
この新しいプロダクトの開発において、John は当初、編んだワイヤでロックを作ろうと思っていたが、Ben は安全性を考えるとチェーンが良いだろうと考えていた。そこで二人で実際にプロトタイプをいくつも作って試してみたところ、驚いたことに付け心地が悪そうなチェーンが実は腰回りにフィットし、一番巻き心地が良いことが分かったのだった。
二人は試作品を数多く作る中で、これが素晴らしい製品になると感じてはいたものの、起業資金や販売、マーケティング、それから商標登録や特許申請等、やらなければならないことが山積している状態だった。途中、生産や品質管理で行き詰まったことも何度かあったが、それを乗り越えることで結果的にはより質の高い商品開発に結びついたし、新製品開発に困難は付きものであることは分かっていた。Hiplok は自分達が欲しい物を追求して作ったものだったし「何としても発売する」という強い決意をもって取り組み続け、2009年に電話でアイディアを話した日から Plus 8 Industires 社を創業して Hiplok の販売に漕ぎ着るまで、二年の歳月を要した。
Ben は尊敬するデザイナーとしてアップル社の Jonathan Ive 氏と Troy Lee Designs 社の Troy Lee 氏を挙げ、John は Loaded Boards 社のスケートボードと Lego 社の製品を優れたデザインとして挙げている。
将来的にはより頑丈なバージョンとより軽量なバージョン、それから色違いやアーティストとのコラボレーション製品、カスタマイズ等も検討していきたいとのこと。
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ふーん・・・、なるほど。
Hiplok が発売されたのは今年春のことで、店頭で見かけて次にロックを買うならこれがいいかなぁと何となく思っていた。今年の8月ロード自転車を購入した際にそこそこ頑丈なのがもう一つ必要ということで購入し、これまで三ヶ月程使ってきたのでレビューを書いてみようと思う。
まず驚いたのが、Hiplok を手にした時の重さだ。1.8kg なので初めて手にした時にはずっしりと感じた。それまで使っていた Kryptonite の D-Lock と比べるととても重く、こんなもん腰に巻いて自転車に乗ったら重くて仕方がないんじゃないか!?と最初は思った。それに値段も定価で約70ポンドと安くはなく、この値段ならもっと頑丈なロックだって買うことができる。
しかしながら、この重さも巻いてすぐの段階では腰周りに違和感があるが、自転車に乗って数分もすれば重さに慣れてしまい全く気にならなくなる。これには良い意味で驚かされた。勤務先から自宅に戻ってきた時に、腰に Hiplok を巻いているのを忘れてそのまま寝室まで行ってしまったことも一度ではない(苦笑)。
それから、Hiplok とリュックサックと併用するなら注意すべきことがある。Hiplok の説明書では南京錠の部分がヘソの下に来るように着用していて、最初は自分もその通り使ってみた。しかし、Hiplok を巻き付けるために使われているマジックテープのフック部がリュックの背中と接触する部分に使われているメッシュに干渉してしまい、メッシュが起毛加工したように荒れてきてしまったのだ。
解決策として、写真にあるように南京錠を体の横に持ってきて、マジックテープが腹部、「Hiplok」とロゴが入っている部分が背中に来るようにしてみた。こうすることでマジックテープがメッシュに接触して、起毛加工されてしまうことはなくなった。それに Hiplok のロゴは反射加工がしてあるため、ロゴが真後ろにあることで車からの視認性も向上するだろう。ただし、印刷が弱いのか三ヶ月で既にロゴがひび割れていたり一部が欠けてしまっているので、何年かしたらロゴがほとんど剥がれ落ちてしまっているかもしれない。
安全性に関しては、Sold Secure のシルバー認証。なので、そこそこ頑丈という感じだろうか。ゴールドのロックは強固だが重いものばかりだし、そもそも窃盗犯が本気でやればゴールドだろうが何だろうが関係なくやられてしまう。それを考えるとシルバーぐらいが堅牢さと使い勝手のバランスが取れているように思う。加入している自転車保険ではシルバー以上のロックを使用することが条件になっているので、それを満たしていればOKでしょう。
イギリス発の Hiplok、ひょっとしたらドイツの ABUS、アメリカの Kryptonite、オーストラリアの Knog の自転車用ロックような定番商品となるかも。