家族がいる起業家の働き方
僕は23歳で結婚して27歳で最初の子供が生まれた。グッドパッチを起業したのが28歳。つまり起業した時には妻と小さな娘という家族がいた。その結果どうなったかと言うと起業という人生で最もハードに働かなければいけない時期に僕の働く時間は制限された。もちろん、起業家の中には家族がいても成功のためにやむなく家族を犠牲にして夜遅くまで働き土日も仕事をする起業家もいるが、僕はそれができなかった。
妻は決して理解がないワケではない、むしろ27歳の時に会社を辞めてサンフランシスコに行くと言った時に8カ月の娘を連れてサンフランシスコに一緒に行き、言葉も通じない見知らぬ土地で子育てをして、その後のグッドパッチの起業も普通に受け入れ応援してくれてるのでよっぽど理解はある。だけど、娘も幼いし夜遅くまで働き土日も犠牲というのは流石に難しかった。だから、僕の起業してからの働き方は基本夜も20時以降は会社に残らず、土日に仕事を入れる事もほとんどなく、飲み会もほとんど行かないので平日は家に帰り、家族と夕飯を食べ、子供をお風呂に入れ、寝かしつけ、家族が寝静まって夜中1時くらいから残った仕事をするという生活を起業以来ずっと続けている。グッドパッチの社員もおそらく僕が夜遅くまで会社に残っている姿はほとんど見た事がないと思う。
僕が働きたくないかと言うと全くそんな事はない。むしろ、もっと会社に居たいし全ての時間を今の仕事に注ぎ込みたい。家族がいなかったら当然そうしてると思う。だけど、現実問題それはできない。なので、若くて家族を持っていない起業家を羨ましく思ってしまう事はある。起きてる時間を全て事業に注ぎ込む事ができるから。
でも、僕は家族がいる事を言い訳にはしたくなかったので、意地でもこのスタイルで成功してやろうと思い、ここまでやって来た。幸い、グッドパッチはここまで順調かどうかは何とも言えないが何とか企業としてある程度の規模まで成長できた。実際、社長が会社に遅くまで残ろうが残らまいが事業の成否には関係ないのだ。
グッドパッチの家族優先文化
僕がこういう考えなので、グッドパッチのカルチャーも当然家族優先のカルチャーだ。全ての優先順位の1番上は家族であるという考え方。グッドパッチはスタートアップでありながらスタッフが夜遅くまで残る事はあまりない。グッドパッチには朝礼と終礼をやる文化があるのだが、終礼を始めたのは夜ダラダラ残らないためだ。フレックス制も一切導入せずに10時に全員で集まって朝礼をして、19時に終礼をする、必ず一緒に働く時間を共有すると言うのを大事にしている。仮にフレックスをやると帰る時間がバラバラになり、他のスタッフにつられて無駄にダラダラ残るスタッフが出てくる。終礼をやるのはそこで一旦帰って良いという会社側の合図なのだ。もちろん、案件の納期などで遅くなる事はあるのだが恒常的に遅くなる事はなくなる。家族がいるスタッフは早く帰って家族との時間を共有して欲しいというのが僕の考え方。
※先日、20時以降まで会社に残ったらオフィスはこの状態
この前調べてびっくりしたのだが、グッドパッチは今60人を越えるスタッフがいるが家族持ちのスタッフが18人もいた。平均年齢28歳のスタートアップとしてはスタッフのうち3分の1近くも結婚して家族がいるというのはあまりないのではないだろうか。20代中盤で結婚するスタッフも結構いる。グッドパッチに入社してから結婚するスタッフもいるので、結婚しても大丈夫とメンバーが思えるような会社になったというのは経営者としても嬉しい事である。(2年前までは婚約者が反対して採用できなかった人材もいた。)子どもがいるメンバーも8人ほどいて、子どもがいる大変さは僕も2人いるから分かっているので、会社としてサポートできる事はないかと思い昨年から子ども手当の支給を始めた。子ども1人当たり月2万円を支給している。メンバーの家族が安心して、グッドパッチで働く事をサポートできる会社にしたいと思っている。
家族がいるからこそ闘える
起業する時に家族がいる状態でスタートする起業家の中にはそれをハンデと思ってしまう人もいると思う。事業を成功させるためには家族を犠牲にしてでも働かなければ勝てないと盲目的に思い込んで夜も遅く土日も働いてしまう起業家もいるかもしれない。僕はその働き方を否定したい訳ではない。確かにビジネスをやる上でそれぐらいやらないといけないポイントはあると思うし、その時に家族に頭を下げてでも理解をしてもらう必要がある時もある。ただ、家族を犠牲にしてまで成し遂げたい事とは何だろうか?それを成し遂げた時に家族が笑っていなかったら自分はどう思うのだろうか。そこまでして事業をやる意味はあったのだろうか。よく考えて欲しい。
僕は起業以来、家族の時間をなるべく優先し、事業に掛けれる時間も限られた中でやって来たが、グッドパッチはちゃんと成長して、日本のUIデザイン会社の中では圧倒的な実績とブランドを築くことができている。家族を持つ中でスタートアップする起業家は僕みたいな働き方もあると言う選択肢を知ってもらいたい。制限された時間の中で最大のパフォーマンスとクリエイティビティを発揮する方法を考える事だ。そうすれば自分自身が磨かれる。無限に時間があると思うと意外と人はパフォーマンスを出せないものだ。時間は制限されてるくらいがちょうど良い。
起業する時は家族がいる事をハンデだと思った瞬間もあったが、今になると家族がいる事が自分の強みだと思える様になった。守るべき存在がいる事で、大抵の困難では屁とも思わないし、辛い時も子どもの笑顔を見たら一発で辛さなど吹き飛ぶし、経営者は基本孤独なもので家族だけが圧倒的な唯一無二の味方なのだ。
今の僕、そしてグッドパッチがあるのは間違いなく家族のおかげである。家族がいなかったら、今の様な結果は出ていなかったと思う。仮にもし僕に妻と子どもがいなかったら、寝食を忘れて仕事に没頭しぶっ倒れていたかもしれない。家族がいることで嫌でも仕事から離れなければいけない時間ができる。僕にとって家族は自分を潰さないためのブレーキになってくれた。先日結婚して丸8年の結婚記念日を迎えたが、1番苦労をかけているのはもちろん妻で20代で職も4回変わり、子どもが小さいのにサンフランシスコに行って起業してと1年半以上まともな収入がなかったが見放さずに付いて来てくれた。子どもみたいなところもあるが本当に可愛い妻である。感謝してもし切れない。
父の日にこんなモノをもらったので、リフレッシュした時間を使ってこんなブログを書いてみた。家族のいる中でスタートアップする若い起業家たちへ何か参考になれば幸いである。
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いや、こんなん参考にならないか。もっと実用的な「家で仕事をしても嫁に文句を言われないための10の言い訳」とかを次は書こう。
Happy Father’s Day!