リアルタイム文書コラボレーションの限界を越える Quip の可能性
Google Docs であれ、Evernoteのノート共有機能であれ、最近の文書系サービスなら「同じ文書をコラボレーションで書く」という機能はたいてい備わっています。
でも正直なところ、みなさんこの機能、使っているでしょうか? リアルタイムに共有できるといっても一長一短があって、なかなか現実の仕事では利用しづらい面があるのではないでしょうか。
たとえば私は論文を Google Docs で執筆することがありますが、デスクトップでのリアルタイム共有や共同執筆者のコメント機能は完璧でも、なかなか iPhone / iPad から編集できないので困ります。
Evernoteは共有はできますが、ユーザー間の意思の疎通は別の場所でやらなくてはいけません。Dropbox や他のツールを使うのでも同じです。「文章」と「文章についての会話」は Skype やチャットワークなどを使って別の場所で行う必要が生じます。
これが案外面倒で、「いま一章に手を入れています」「え、どこにファイルあるの?」という具合の会話になって、必ずしも効率がよいとはいえません。つまり文書コラボレーションの要諦はエディタとしての機能よりも、意思疎通のスピードにあるのです。
それをよく理解しているツールが、Quip です。先に記事を書いておられたいしたにさんにフォルダを共有していただいて使いやすさに驚いたので、それを補完する形で記事にしたいと思います。### これまで見落とされていたメッセージ機能
Quip はブラウザ上と、現時点ではiOSアプリ上からアクセスすることができる簡易エディタです。利用するには Google アカウントを利用します。
インターフェースは iOS / iCloud に非常に似ており、「フォルダ」と「ドキュメント」のみが存在しています。
ここだけをみていると、Byword などのツールとあまりかわりがありません。しかしフォルダ単位で文章を他の人と共有すると、違いは明確になります。
こちらがその編集画面です。h1 / h2 といった最低限の文書構造や、画像・表・箇条書きなどの基本的な編集が可能なエディタが右側に、そして文書に対して行われたすべての変更と、チャットが左側に流れます。
このチャット欄には、文書の diff (変更履歴)、相手がどこまで読んだか、相手がQuipにきた最終時間などが表示されますので編集している文書の周囲に会話をスピーディーに展開することができます。
「文書の周囲に」というところがポイントで、文書を書き換えたら別のツールで「書き換えましたよ」「え? どこの話?」と意思疎通のための手間がのかかる会話を必要としません。
必要があればチャットのなかであれ、文書のなかであれ、相手を「@」つきの会話で呼び出せます。この呼び出し候補欄でも「最終アクセスがいつで、どこだったか」が可視化されています。
必要があるなら、タスクを共有するための文書を作成し、チェックリストを作って、そこに必要に応じて担当者のリンクを配置したり、文書へのリンクを配置することができます。
つまり文書コラボレーションで一番必要でありながら、エディタ機能の影でこれまで無視されてきた「あのひとをちょっと呼びたい」「この文章のここだと指し示したい」という機能が直感的に実現しているのです。
そしてこれが速い!速い! Skype でチャットするのと同じ感覚で、文書のそばで会話ができます。
オフライン対応、スマホ対応
ここまでなら Google Docs でもだいたい同じ事ができますが、Quip のもうひとつの利点は iOS アプリでブラウザ上と同様の編集と会話がリアルタイムに可能なだけでなく、オフライン編集も可能な点です。
最近は論文だって電車のなかで一行、一段落と、時間を盗むように書いていますので、この iOS 対応は非常に重要です。
またこれらの機能をつかえば文書編集だけでなく、Quip だけで自分や他人との共有を最初から備えているToDoリストなども作れるわけです。
全員が編集できる連絡板? 常に自分でかきかえる住所録? イベントの立ち上げから開催時、終了後までリアルタイムに変化する情報集約ページ? 発想次第でなんでもつくれそうです。
ただ、現時点で Quip の最大の問題点は「ファイルのエクスポートが PDF でしかできない」という点です。ただし、テキストだけなら他のツールからの、そして他のツールへのコピーアンドペーストは可能になっています。
ということで、Quipは、Evernoteに取って代わるものではなくて、Quipで作ったドキュメントをEvernoteに保存するというお互いに補完するツールになりそうです。
みなさんも、だれかと文書をオンラインでいっしょに作るタイミングがいつかあるかもしれないでしょうから、そんなときに、この「Quip」を思い出してみるといいのではないかと思います。
なるほど、この高機能なメッセージとあわせて考えると、現時点では特に電子書籍の文章を一気に作ってしまう場合や、メールを共同執筆する際などに力を発揮しそうです。あの、「共同執筆しているはずなのに、結局は書いているのは一人だけ」という傾向を軽減できるかもしれません。
Quip は5人までのユーザーの使用は無料ですが、さらに多くのメンバーや機能を利用する場合には月額 12 ドルのビジネスプランがあります。
まだまだ足りない部分が目立つ Quip ですが、開発に携わっているのが Google Maps API や FriendFeed で知られ、去年 Facebook CTO を退任した Bret Taylor、そして Google Suggest を作った Kevin Gibbs と、リアルタイムなコラボレーションのシステムを作る経験ならだれにも負けない二人です。
今後の展開が楽しみなサービスの誕生です。