経済系のための数学
本書は、経済学を学ぶ際に必要な数学を初学者にもわかりやすく解説した教科書である。著者は中学校・高等学校から大学までの幅広い指導経験をもつとともに、経済学部の博士課程に在籍していた経験があり、数理学の博士号を取得している。これにより、経済学の視点と数学の専門性を融合させ、高等学校の学習内容から大学レベルの経済学の数学へとスムーズに移行できるよう工夫して執筆されている。全14章からなる本書は、各章の内容が2~3回の講義で扱える手ごろな分量にまとめられており、要点が簡潔に整理されているため、学習効率が高い。また、各章末には演習問題を収録し、その詳しい解答と解説は著者のウェブサイトで公開されている。これにより、講義での理解度の確認や自学自習用テキストとしても活用しやすい。
本書は入門書に分類されるが、高等学校までに学ぶ内容に加え、やや高度なテーマも扱っている。とくに、本書は高等学校の内容と経済学の数学的側面を相互補完的に位置づけることを目指しており、従来の類書があまり考慮していない前提知識や背景を丁寧に説明している。また、数学的に曖昧な記述を排し、正確かつ明確な表現を心がけている。これには、著者が長年の指導経験を通じて蓄積した実践的な知見が反映されている。さらに、豊富な図版を取り入れることで、数学的な概念を直感的に理解できる工夫も施されている。
具体例として、線形計画法、72の法則、商品価格の時間的変化、コブ・ダグラス型生産関数、資本と労働の限界生産力、単利法と複利法といった、経済学における数学の活用事例を多数取り上げている。これにより、経済学を学ぶ学生が数学的基礎をしっかりと固め、経済学の学習で遭遇する数学的概念を理解するための土台を築くことができる。
1.1 需要曲線と供給曲線(連立方程式の活用)
1.2 線形計画法(連立不等式の活用)
1.2.1 利益最大化問題
1.2.2 費用最小化問題
第2章 指数関数
2.1 指数成長
2.1.1 離散的な指数成長
2.1.2 連続的な指数成長
2.1.3 指数的な減衰
2.1.4 指数関数のグラフ
2.2 コブ・ダグラス型生産関数と1次同次
2.2.1 コブ・ダグラス型生産関数
2.2.2 規模に対する収穫一定
第3章 対数関数
3.1 対数と対数関数
3.1.1 対数の定義
3.1.2 対数の性質
3.1.3 底の変換公式
3.1.4 常用対数と自然対数
3.1.5 対数関数のグラフ
3.2 72の法則
3.2.1 ネイピア数とその応用
3.2.2 元金が2倍になるまでの期間
3.2.3 72の法則の適用例
第4章 微分法の考え方
4.1 微分法の基礎
4.1.1 関数の極限
4.1.2 微分の定義
4.1.3 指数・対数関数の微分
4.1.4 微分法の基本公式
4.2 微分法の応用
4.2.1 接線と1次近似
4.2.2 関数の増減と極値
4.2.3 高階導関数
4.2.4 曲線の凹凸
第5章 合成関数の微分法
5.1 合成関数の微分法
5.1.1 写像と関数
5.1.2 合成写像
5.1.3 合成関数の微分法
5.2 商品価格の時間的変化
第6章 積分法の考え方
6.1 不定積分
6.1.1 不定積分について
6.1.2 置換積分法
6.1.3 部分積分法
6.2 定積分
6.2.1 定積分について
6.2.2 上端が変数の定積分
6.2.3 定積分と面積
6.2.4 置換積分法と部分積分法
第7章 2変数関数の微分法
7.1 偏微分
7.1.1 偏微分の定義
7.1.2 合成関数の偏微分法
7.2 経済学における偏微分
7.2.1 コブ・ダグラス型生産関数
7.2.2 資本と労働の限界生産力
7.2.3 連鎖律の応用
第8章 数列
8.1 等差数列とその和
8.1.1 数列
8.1.2 等差数列
8.1.3 等差数列の和の公式
8.2 等比数列とその和
8.2.1 等比数列
8.2.2 等比数列の和の公式
8.3 Σ記号と使い方
8.3.1 Σ記号の意味
8.3.2 和の公式
第9章 経済学と数列
9.1 単利法と複利法
9.1.1 利子と利子率
9.1.2 単利法の元利合計
9.1.3 複利法の元利合計
9.1.4 単利法と複利法の元利合計の差
9.2 経済活動と乗数効果
9.2.1 乗数効果
9.2.2 乗数効果の具体例
9.3 割引現在価値とコンソル債
9.3.1 割引現在価値
9.3.2 コンソル債の割引現在価値
第10章 ベクトルとポートフォリオ理論の基礎
10.1 ベクトル
10.1.1 ベクトルの概念
10.1.2 n次元ベクトル
10.1.3 ベクトルの演算
10.1.4 ベクトルの図示
10.1.5 ベクトルの大きさ
10.1.6 ベクトルの内積
10.2 ポートフォリオ理論の基礎
10.2.1 ポートフォリオと重みベクトル
10.2.2 ポートフォリオの期待収益率
第11章 行列と連立方程式
11.1 行列
11.1.1 行列の定義
11.1.2 正方行列
11.1.3 転置行列と対称行列
11.1.4 行列のスカラー倍,和と差
11.1.5 行列の積
11.1.6 逆行列
11.2 行列と連立方程式
第12章 統計学の基本的な概念と確率
12.1 統計学の用語
12.1.1 母集団と標本
12.1.2 母平均と母分散
12.1.3 標本平均と不偏分散
12.1.4 標準偏差
12.2 確率に基づく統計的概念
12.2.1 確率に基づく定義の必要性
12.2.2 確率
12.2.3 期待値
12.2.4 分散
第13章 回帰分析
13.1 回帰分析の概要
13.2 単回帰分析
13.2.1 単回帰分析の具体例
13.2.2 一般化された単回帰分析
13.3 公式を用いた分析
第14章 ゲーム理論
14.1 2人ゲーム
14.1.1 ゲーム理論とは
14.1.2 利得行列
14.1.3 利得関数
14.2 支配戦略とナッシュ均衡・パレート最適
14.2.1 支配戦略
14.2.2 ナッシュ均衡とパレート最適
14.2.3 支配戦略とナッシュ均衡・パレート最適の具体例
14.2.4 囚人のジレンマ
補講A ラグランジュの未定乗数法
A.1 2変数関数の極値問題
補講B グラフ理論の基礎
B.1 グラフの定義
B.2 握手補題
補講C ハノイの塔とプログラミング
C.1 ハノイの塔
C.1.1 ハノイの塔のルール
C.1.2 5枚までの移動例
C.1.3 最小の移動回数
C.2 Python での実装
本書で紹介した経済学者の生きた時代と業績
参考文献
索引
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