終戦直後、あたりいちめん焼け野原のなかで再会する2人の男の友情を描き、『このマンガがすごい!2015』オトコ編第5位にランクインした『あれよ星屑』。
荒廃した街、戦争により傷ついた2人の男というヘヴィな題材を、柔らかな描線、軽快なテンポで描くのは、長年、ゲイ雑誌などで活躍され、本作が初一般青年誌、初長編となる山田参助先生。
山田先生が『あれよ星屑』にこめた想いとは!?
目指すところは、男同士の濃密な友情を描く「バディもの」
――『あれよ星屑』は太平洋戦争の最中から終戦直後を題材にしていて、「P屋(慰安所)」なんかも作中に出てきますよね。いきなりこんなことをお聞きするのはぶしつけとは思いますが、読者から“面倒なこと”を言われる可能性は危惧しませんでしたか?
山田 それはないです。慰安所とかは、ちょっと昔の映画を観ると普通に出てくる描写ですから、特に突飛なことをやっているわけではないのですよ。マンガでも水木しげる[注1]さんや石坂啓[注2]さんが描いていらっしゃいますし。
――編集部としては?
担当 可能性としてはあるかもしれないけど、そこは山田さんとしっかり話し合いながら進めていけば大丈夫だと思っていました。それよりは、より「語る必要性のあること」を重視しました。
――山田先生が描きたかったものとは?
山田 テーマ主義ではないので「これじゃ!」とは正面切って言えないんですが、今回は「男の友情もの」かなぁ、と。
――男の友情。
山田 いわゆる「バディもの」[注3]というやつでしょうか。
――最近だと「ブロマンス」[注4]なんて言い方もありますね。アメリカ映画では流行っているみたいですが。
山田 日本では流行ってないんですか? 男の友情もの。
担当 BLくらいじゃないでしょうか。
山田 男の友情が流行らないのは、80年代に恋愛ブームがあったからかもしれませんね。「男女がつがいになるのが最上である」という考え方が。映画の場合だと、女性客をメインターゲットにしたいという大人の事情もあるんでしょうけど、「やっぱり恋愛ものじゃないとダメなんじゃない?」といった遠慮みたいなものが、恋愛ブーム以降、ずっと世間にあるのじゃないでしょうか。
――たしかに邦画も邦楽もラブストーリーばかりですよね。
山田 じゃあ恋愛ブーム以前はどうだったのか。僕は古い日本映画が好きなんですが昔の映画を見ていますと、「モテないヤツは男の友情でも育んどけ」という考え方があるような気がするんです。
――高倉健の任侠映画[注5]も、そうかもしれないですね。
山田 異性のパートナーを持てない人間がコンプレックスを持たずに済む。娯楽を通してうまく言い訳できるようなシステムがあったわけですよ。
――娯楽を通して言い訳をする、っておもしろい言い方ですね。
山田 今はそれが萌えアニメになりかわって、「俺たちは女より男同士の友情が大事なんだ!」から「俺は脳内に嫁がいるからいいんだ!」という方向にシフトしたんじゃないかな。もちろん「脳内に嫁がいるから」っていう文化は、ありだと思いますが、「男の友情のほうが美しいんだ!」という文化を捨ててしまうのはもったいない。その考え方は、ひとりぼっちで年を取った男を助けるんじゃないか、と思うんですよ。
――少年マンガで育った世代なら、むしろ食いつきがよさそうな気がします。少年マンガは、女の子がほとんど出てきませんしね。
山田 そういえばそうですね。
- 注1 水木しげる ご存じ、妖怪マンガの第一人者。太平洋戦争ではニューギニア戦線・ラバウル方面に出征。従軍経験を『敗走記』『総員玉砕せよ!』『水木しげるのラバウル戦記』『姑娘(クーニャン)』『コミック昭和史』などの作品で記している。慰安婦なども多数登場する。
- 注2 石坂啓 漫画家。手塚プロダクションを経て漫画家に。「このマンガがすごい! 2012」オトコ編第1位になった『ブラック・ジャック創作秘話 〜手塚治虫の仕事場から〜』(原作:宮﨑克、漫画:吉本浩二)の第3巻にも登場。代表作は『キスより簡単』など。『アイ’ム ホーム』は平成3年に文化庁メディア芸術祭の大賞を受賞。2014年にNHKで、翌2015年にテレビ朝日でテレビドラマ化された。『突撃一番』という、慰安所を題材にした短編を描いている。
- 注3 バディもの 2人組が活躍するジャンル。それぞれタイプの異なる2人が、共通する目的のためにコンビを一時的に結成して、目標達成に向かうストーリー。映画では「バディ・ムービー」と呼ばれ、『ビバリーヒルズ・コップ』や『48時間』、『バッドボーイズ』、『ホットファズ』などが代表例とした挙げられる。最近の日本映画では『探偵はBARにいる』や『相棒』もこの類例。
- 注4 ブロマンス Bromance。「brother」と「romance」を合わせた造語。男性同士の関係性(友情など)を描くが、性的な結びつきはない作品。ホモセクシャルではなく、ホモソーシャルを描く。映画『スーパーバッド 童貞ウォーズ』や『宇宙人ポール』、『テッド』などがその代表作。近年は英・BBCのドラマ『SHERLOCK』のファン界隈で使われて広まった言葉。
- 注5 高倉健の任侠映画 60年代の『日本侠客伝』シリーズ、『網走番外地』シリーズ、『昭和残侠伝』シリーズなどが代表例。