YONEDA TADAO / High School Jazz Band Part Adviser
全国区の高校ジャズバンド部。
映画「SWING GIRLS」のモデルとなった学校として、全国でも有名な兵庫県立高砂高校ジャズバンド部。高校生とは思えないテクニックと高校生ならではの元気いっぱいの魅力的なパフォーマンスで、観る人の心を掴みます。今年秋までのイベント予定がすでにぎっしりと詰まったハードスケジュールを楽しそうに過ごしている彼女たち、その姿はまさに全国学生ジャズプレイヤーの憧れ。
今回はそんな高砂高校ジャズバンド部を、ときには一緒に楽しみ、ときには叱り、ときには影から支える顧問の米田忠雄先生にお話をうかがいました。
person
兵庫県立高砂高等学校 教諭 米田忠雄さん
神戸市出身。兵庫県高砂市にある兵庫県立高砂高等学校で教鞭をふるう。担当科目は英語。現在は教科担当とクラス担任、部活動顧問に追われる毎日。
EVENT SCHEDULE
第10回 JAZZ音響塾(ビックバンドでSR・録音セミナー)
2008年3月26日(水)10:30~16:00 明石市生涯学習センター9Fホール
ほかイベント多数出演。
interview
切っても切れない大事な思い出。ー最初に赴任した香住高校吹奏楽部。
もともとジャズは好きだったという米田先生。高校生時代はFMラジオに熱心に耳を傾け、CDが発売された大学時代にはCDを買い集め、自身もアルトサックスをプレイしていたほどの筋金入り。そんな若かりし米田青年が選んだ進路は高校の英語教師。最初に赴任した兵庫県立香住高校での劇的な体験が、高砂高校ジャズバンド部に大きな影響を与えているのだそうです。
「香住町(現:美方郡香美町、以下香住町)って、兵庫県の一番北の日本海に面したところなんですけど、神戸からするとやっぱりちょっとのどかな場所だなあと思ったのが最初の感想です(笑)。でも、その頃からジャズが好きでビッグバンドっていいなあと思ってたから、香住高校にも吹奏楽部があったので、『僕、顧問やります!』と立候補したんですよ。そうしたら、実はかなりの歴史あるクラブで、人数は少ないのに演奏会があると言ったらOBがものすごい数見に来るんですよ。OBで作った社会人バンドまであって、学校に泊り込んで合宿するような熱いクラブでした。
一度溶け込んでしまえば、香住の人たちはとても良くしてくれて。私も社会人バンドに入って、ライブハウスに通うようになりました。もうお店が変わってしまったのですが、『香住にこんなところが?』と思うぐらい、すごいライブハウスがあったんですよ。「モノラル」というライブハウスで村上ポンタさんや佐山雅弘さんなんかも来るような。結局、普通は3年で次の学校に移るのに、私は香住に8年もいました。それぐらい、本当に楽しい思い出ばかりです。
高砂高校に行くことになったのも香住にいたころがきっかけ。小曽根真さんとお話したときに「高砂に面白いジャズバンド部のある学校がある」と教えていただいたんです」
生徒の思いが今をつくる。ー「先輩から後輩へ」のルーツ。
高砂高校ジャズバンド部の歴史は実は30年以上。実は米田先生が着任される前のジャズバンド部は、校内ではあまり評判が良くなかったそうです。イベントに出ても、吹奏楽部ならきっちり並んで入ってくるのにジャズバンド部はバラバラに入場するし、他校が演奏してるときに手拍子したり。当時は部活動の廃止まで提案されていたそうです。
「青春チャリティコンサートという定期演奏会が毎年夏にあるんですが、当時、打ち上げでOBと生徒が集まって加古川の土手で一晩中花火大会をするって言うんですよ。『そんなことしたら、もう完全に部活動がなくなる!』と思って、慌てて私は『加古川の打ち上げはやめて、香住の花火大会で合宿しよう!』と提案しました。それでことなきを得たのですが、いざ合宿に行こうとしたら台風が来て行けなくなったんですよね。私は内心、加古川の花火を阻止できたうえに合宿にも行かなくて済んで良かった!って思ってたんですが、生徒たちが号泣し出したんですよ。見てたら可哀想になっちゃって、それで花火はないけど、合宿には行こうと。
慣れ親しんだ町ですから、地元の人たちがものすごく歓迎してくれて、ライブハウスで演奏会も開きました。その夜、私が昔話に花を咲かせてたら、当時の部長がチューハイを抱えて私のところに来たんです。『知らないおじさんがこっそり差し入れしてくれたんだけど、これがバレたら先生も大変だし、私たちはもう合宿に来れなくなる。こんなに楽しい合宿、後輩たちも連れて行ってあげたいから』と返しに来たんです。それには私も、その場にいた香住の人たちも感動しました。それ以来、合宿は11年毎年続いてます」
伝統を背負う重さと楽しさ。ー部活動を通して成長する生徒たち。
「もっとこの部活を続けたい。それにはまわりの人に認められなくては」と思った米田先生が考えたのは、部活動を全国区にすること。それが達成できたからこそ、今の高砂高校ジャズバンド部があります。
部活動はやっぱり部活動。目的は生徒が部活動をすることで成長していくということ。高砂高校の生徒たちを見ていると、それが体現されていることが実感できます。
「赴任してすぐに小曽根真さんに、報告を兼ねて連絡をしたら、小曽根さんが遊びに来てくれたんですよ。その後、小曽根さんを取材してた読売テレビさんが一緒に取材しに来てくださいました。小曽根さんがすごく生徒たちにやさしくしてくださって、そのときに『Love For Sale』の楽譜をくれたんです。富士通テン主催の「神戸ミュージックステーション」というイベントにも出させていただきました。あれは本当に感動的なイベントで、今でも伝説として語り継がれてますよ。それらをきっかけに生徒を2年間追っかけたドキュメンタリー番組が作られたんです。映画「SWING GIRLS」の話が来たのも、このドキュメンタリー番組がきっかけ。そんなふうに、ひとつの流れをつくると、新しい出会いが生まれるんですよね。それを大切にしていこうと思いました。
生徒たちはこの3年間で本当に成長していきます。私自身、人間性を否定してまで高い水準を守りたいとは思っていません。最低限の技術は教えても、それ以上の技術は教えず、自由にのびのびと演奏していって欲しい。学外のイベントも多いですが、彼女たちのためになってると思います。『他人に見られてる』ということを意識することで、自然と自分のことも他人のことも考えられるようになってくるんです。今の高砂高校ジャズバンド部があるのも、先輩たちがいたからこそ。いい加減なことをすれば、あっさりと崩れることを生徒たちも知ってます。だから、生徒たちは『上手くなりたい』『お客さんを楽しませたい』ということを第一に考えますが、私自身は生徒のことばかり考えてます。後ろからそっと支えたり、傾けてみたり(笑)。
同じ学校に長くいすぎたなという気もするので、そろそろバトンタッチして新しい高砂高校ジャズバンド部を見てみたい気もしますが、できる限り生徒たちと一緒に楽しんでいきたいと思ってます」
米田先生と2008年の高砂高校ジャズバンド部
「松田組」のリーダー松田愛さん。
特集「神戸ジャズ文化を彩る人々の魅力」 KOBE Jazz People