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2012.05.21

家入一真さんの例の件で願うことなど

 例の件。

 一言で言うと、就学希望児童に対する助成を、ネット業界の軽いノリで手がけるのはやめて欲しいのです。

 いままでは、家入さんの志は凄く良い、ただ表現が悪かっただけ、というニュアンスで、まあ燃えてしまったとしても「ええがな」と思う人も多数あったとは思うけれども、批判が殺到して、ひくにひけなくなって、というところもあるんでしょう。

 ただねえ、就学希望児童への資金助成等の事業というのは、デリケートなんですよ。私も、例年薄額ではありますが児童養護施設に寄付をしておりましたが、就学希望の学生の選別や、方針について、不公正とならぬよう、それでいて助成がきちんと実を結ぶよう、関係者一同かなり丁寧に議論を積み重ねて、就学希望者に資するような事業を行っていただいております。金を出す私たちが、もちろん一人ひとり面談をして助成するのが望ましいと思うんですけれども、学業を続けたいが事情によってお金が払えない、というのは人それぞれの人生に向き合うことになります。それが15年なのか、18年なのかの人生で起き得たことを、ひとつひとつ判断して「君にはこれだけ出す」あるいは「君には出せない」とする、この判断の重さというのは常に付きまといます。だからこそ、なるだけ公平に、かつその子が助成を受けて良かったと思えるような方法になるように、丁寧に事業に携わるべきであって、そういう重みを分かち合うためにもNPOや財団法人などきちんと意を受けて是非を判断してくれる事業者に寄付をして、社会貢献のための費用を助成するだけでなく「代行」してもらうわけです。

 翻って、今回のstudygiftについては、恐らく良かれと思って助成しようとしたのでありましょう。そこは曇りがない。素晴らしいことだと思います。ただねえ、サービスとしての着眼点はともかく、助成対象者は商品じゃないんですよ。もちろん、そういうつもりはないのでしょうが、例えばですよ、今回の件が炎上しなくて、次々と希望者が出てきたとして、その子たちは、綺麗にパッケージをされて、どういう助成を受けたくて、っていう言葉をネット上でプレゼンするわけでしょう。

 でも、その子たちが、顔を出して、実名も晒して、学校に行きたいけどいけないというプライバシーを晒すことが、どれだけの苦痛を将来において背負うことになるのか、知って欲しいと思うのです。将来、学童が卒業をして、児童養護施設なりそういう機関が子供を送り出した後で、フォローアップをしていくわけですが、やはり何らかしょって生きていくわけです。あるいは、津波で親を失った子供たちが、高校や大学の進学を諦めて働きに出るプロセスは、ウェブ上でカカクコムのごとく人たちの「好意の値付け」の対象となり、価格が明示され、達成されたかされないか、ということを突きつけられるというのは、まだ早いと思うのです。

 一番、就学の助成を必要としているのは14歳とかの子たちですよ。

 そういう子が、うっかり炎上したら本当に大変なことです。
 今回、幸いにして炎上をしたのはああいう女性であったから救われているものの。

 なので、家入さんにお願いしたいことは、個人の就学希望を助成するのではなく、就学希望の資金を提供しようとしているNPOや財団に対して、寄付行為を募る活動にして欲しいということです。それであれば、NPOも財団法人も社団法人も、ネットでお金を集められるのであれば頑張って実績や方針、実務上のこともプレゼンするでしょうし、その中で、もっともっと顔の見える慈善行為ができるようになると思います。

 ネットでバッシングされたからどう、という話ではなく、本来の意味で何のための助成なのか、誰のために寄付をするのか、そのプロセスにおいてどういう人たちが関係しており、どんなノウハウがあるのか、よく考えて欲しいのです。

 子供に対する育成も、児童養護施設のような機関も、すべてにおいて、ネット以前からのノウハウがあり、子供たちと向き合ってきた人たちがいるのです。そういう人たちに対して、敬意が払えるようなサービスを家入さんには設計して欲しいと願っていますし、家入さんはそれができる人だと私は思います。

 まあ、黙って金を出せ、とかそういう話ではありませんけれども。


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    やまもといちろう

    ブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。
    著書に「ネットビジネスの終わり (Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など多数。

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