â– 

光市母子殺害事件判決文【★最判平24・2・20:殺人,強姦致死,窃盗被告事件/平20(あ)1136】結果:棄却
中日新聞:光市母子殺害事件の最高裁判決要旨 :社会(CHUNICHI Web)

最高裁の認定した「事実」は一審・二審のものと同じだった。

本件は,犯行時18歳の少年であった被告人が,(1) 山口県光市内のアパートの一室において,当時23歳の主婦(以下「被害者」という。)を強姦しようと企て,同女の背後から抱き付くなどの暴行を加えたが,激しく抵抗されたため,同女を殺害した上で姦淫の目的を遂げようと決意し,その頸部を両手で強く絞め付けて,同女を窒息死させて殺害した上,強いて同女を姦淫した殺人,強姦致死,(2) 同所において,当時生後11か月の被害者の長女(以下「被害児」という。)が激しく泣き続けたため,(1)の犯行が発覚することを恐れ,同児の殺害を決意し,同児を床にたたき付けるなどした上,同児の首に所携のひもを巻いて絞め付け,同児を窒息死させて殺害した殺人,(3) さらに,同所において,現金等が在中する被害者の財布1個を窃取した窃盗からなる事案である。

一審判決のも再録

(犯行に至る経緯)
一
被告人は、昭和 年 月 日山口県光市で出生し、同市内の小学校を卒業後、平成 年四月同市内の中学校に入学した。同中学校を卒業後、平成 年四月同市内の私立高校に入学し、平成 年三月同高校を卒業し、同年四月一日  株式会社に入社した。
 また被告人の家庭では、平成 年 月実母が自宅横の車庫で自殺し、その後、被告人の実父は、平成 年 月、フィリピン国籍を有する女性と再婚し、平成 年 月から被告人等と右義母は同居を始め、平成 年 月 日ころに本件犯行当時の住居地である山口県光市  アパート(以下、Dアパートという。)十一棟に転居し、平成 年 月 日に実父と右義母との間に異母弟が出生した。
 なお被告人は、前記高校入学後、家出や不登校が見られ、平成 年 月には同級生方へ侵入しゲーム機等を盗んだとして右高校から自宅謹慎処分を受けた。また、被告人は、中学三年生のころからセックスに強く興味を持つようになり、ビデオや雑誌を見て自慰行為にふけったり、友人とセックスの話をしたり、右義母の下着を自室に隠し持つなどしていた。そして、前記会社に就職後も、ゲームがしたかったこと等から平成 年 月 日以降欠勤を繰り返すようになった。
二
 被告人は同月十四日午前七時ころ、前記会社の作業服上下の上にパーカーとジーパンとジャンパーを着て、作業服の胸ポケットにカッターナイフを差し、作業ズボンの右ポケットの中に剣道のこての紐を入れ、会社に出勤するかのように装い、自宅を自転車に乗って出発し、午前八時三0分ころ友人の家に遊びに行った。同人宅でテレビゲームなどをして遊んだ後、同人の家を出て、しばらく自転車に乗って時間をつぶした後、帰宅することとしDアパート三棟東側階段入口の軒下に自転車を駐輪し、右作業服上下の上に着ていたパーカー等を脱いで午後一時ころ帰宅して昼食をとった。
 その後、自宅を出て右自転車を駐輪していた場所に向かう途中、「美人な奥さんと無理矢理でもセックスをしたい。」「作業服を着ていれば排水等の工事に来たと思って怪しまれないだろう。」と思い、セックスがしたくてたまらなくなった。そして、自転車の前籠に布テープを置いていたことを思い出し「これを使って奥さんを縛れば、抵抗できないだろう。」、「作業服の胸ポケットに差してあったカッターナイフを奥さんに見せてやれば、怖がって抵抗しないだろう。」と考え、自転車の前籠に置いてあった布テープを取りに行き、Dアパートを十棟から七棟にかけて順番に排水検査を装って呼び鈴を押して回り物色を始めた。すると、誰にも怪しまれなかったことから、「本当に強姦できるかも知れない。」と思うようになった。
 被告人は、午後二時二十分頃、Dアパート七棟41号室のE方(以下、「被害者ら方」という。)の呼び鈴を鳴らし、応対に出たFに対し「Bの者です。排水の検査に来ました。」というと、同女は、「どうぞ」と言って、被告人を被害者ら方内に入れた。被告人は、首尾よく室内にはいることができたことなどから、同女を強姦することを決意した。
 被告人は、被害者ら方に入ってから、検査の振りをするためにトイレに入ると、、検査の振りをしているところを見つからないように内側から鍵を掛け、検査にみせかけるため同女から借りたペンチをその握りの部分で水洗トイレのバルブを何回か叩き、トイレに置いてあったスプレー式洗浄剤を便器内に吹きかけた後、蛇口をひねって水を流したりするなどして同女を強姦する機会をうかがった。そして、被告人は、意を決し、スプレー式洗浄剤と布テープを持ってトイレをでたが、ちょうど廊下をGがはいはいしていた。そこで、被告人は、同児を抱き上げ、六畳間近くの床の上におろした。すると、右Fは同児を抱き上げるために、前屈みになったので、被告人は、右Fの背後から抱きついた。
(罪となるべき事実)
被告人は少年であるが
第一 平成11年四月十四日午後二時三十分ころ、山口県光市E方において、同人の妻F(当時23歳)を強姦しようと企て、同所居間にいた同女の背後から抱きつき、同女を仰向けに引き倒して馬乗りになるなどの暴行を加えたが、同女が大声を出して激しく抵抗したため、同女を殺害した上で姦淫の目的を遂げようと決意し、仰向けに倒れている同女に馬乗りになった状態でその頚部を両手で強く締め付け、よって、そのころ同所において、同女を窒息死させて殺害した上、強いて同女を姦淫し、
第二 同日午後3時ころ、前記本村洋方において、前記EF夫妻の長女G(当時生後11ヶ月)が激しく泣き続けたため、これを聞きつけた付近住民が同所に駆けつけるなどして第一の犯行が発覚することを恐れるとともに、泣きやまない同児に激昂して、同時の殺害を決意し、同所居間において、同児を床に叩きつけるなどした上、同児の首に所携の紐を巻き、その両端を強く引っ張って締め付け、よって、そのころ同所において、同児を窒息死させて殺害し
第三 第二記載の日時場所において、前記F管理の現金約三○○円及び地域振興券約六枚(額面合計約六000円)等在中の財布一個(物品時価合計約一万七七00円相当)を窃取したものである  (略)

これは被告人の「自白調書」が元になっている。一審・二審では事実関係について弁護人は争っていない。差戻控訴審になって、あの弁護団ができて初めて事実解明に乗り出した。

弁護団は

この被告人の自白は,取調官による作為や強要に基づくものばかりであり,同時に少年特有の取調官への迎合といった顕著な事情が垣間見られるものであります。したがって,被告人の自白調書は,真実を語っておらず,信用性がありません。

として、法医鑑定や犯罪心理鑑定などを元に矛盾を指摘した。

強姦目的で被害者宅にあがりこんだ
→そんな計画性はなかったのではないか。部屋の形跡も通常の強姦が起きて抵抗があった状況とは異なる。
激しく抵抗されたため,同女を殺害した上で姦淫の目的を遂げようと決意した
→被告にネクロフィリアの傾向はなく通常考えられない。なぜこうなったかをトータルで考えた時、母体回帰ストーリーとなった。
その頸部を両手で強く絞め付けて,同女を窒息死させて殺害した
→痕跡は明らかに両手で首を絞めたものではなく、右手逆手で絞めたと考えられるものだった。殺意を持った場合、そんな絞め方をしないのではないか。
同児の殺害を決意し,同児を床にたたき付けるなどした上,同児の首に所携のひもを巻いて絞め付け,同児を窒息死させて殺害した
→叩きつけた痕跡も、首を絞めた痕跡も残っていない。

(細かい主張は以前書いた記事ã‚„Q&A、書籍を参考にしてください)

光市事件 弁護団は何を立証したのか

光市事件 弁護団は何を立証したのか

以上のような指摘は今回の上告審でも顧みられなかった。

しかし,新供述が基本的な部分において信用できないものであることは,原判決が詳細,適切に検討しているとおりであって,反対意見においても,被告人の弁解は不合理であり,「母胎回帰ストーリー」は採用できないとされている。また,C鑑定書も,犯行の動機,経緯について,被告人の新供述を前提として考察を加えている。したがって,母親の自殺,父親の暴力等が被告人の人格形成に大きな影響を与えたことは,被告人のために酌むべき事情であるが,上記鑑定書等によって直接これを犯行の動機等に結び付けることは,相当ではない。

法医鑑定は棚に挙げられず、少年鑑別所の鑑別結果や家裁調査官の調査報告書と合致した犯罪心理鑑定と精神鑑定に基づいた母体回帰ストーリーは厳しく判断された。

冤罪になった件を持ち出すのは筋違いかもしれないが、足利事件も一審・二審・上告審では事実関係は調査されなかった。捜査段階での自白は作られることがあり、その誤った事実を元に裁判が行われてしまうケースがあることを知っている人は多いと思う。

死刑という極刑を下す時に、間違った事実を前提に裁くことがあっては常識的に考えてまずい。事実の解明が大前提なのは自明だ。弁護団は「『真実』を明らかにし、被告人に真剣な謝罪をさせ、贖罪の道を歩ませたい。そのためには、何がどういう状況で起きたのか、きちんと事実を把握する必要がある。」とし、そして「DVにより健全な成長が妨げられた少年が、その未熟さゆえに予期せぬ事態に対応できず、結果的に重大な犯罪を犯してしまった。」と主張した。

光市母子殺害事件の弁護団に怒りのコメント殺到- livedoor ニュース

けれども、こうした意見はあまり伝わっていない。この責任の多くはBPOに苦言を呈されたメディアにあると僕は思っている。昨日少しテレビをつけたら未だにドラえもんという耳目を集める単語を使っていて「事実関係」に疑問が残されていること報じたところはほとんどなくてがっかりした。(新聞はあんま追ってないです…)

判決を下した最高裁判所第一小法廷では賛成3・反対1で珍しく割れていた。反対意見を述べた宮川光治裁判官が今月末に退官するらしく2chでは叩かれていたりした。ところで、一般教養を勉強した時に最高裁の小法廷は各5人で3つあると学んだ記憶があって、ググったところやっぱりそうで今件には横田尤孝裁判官の名前がない。こういった注目を集める裁判を4人で行ったのには何か事情があったのだろうか、と無駄に勘ぐってしまった。

・他参考
光市母子殺害事件元少年の死刑: 極東ブログ
【光市母子殺害 本村さん会見詳報(下)】この判決に勝者はいない。犯罪が起きた時点でみんな敗者だ+(1/3ページ) - MSN産経ニュース