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2011.04.23
●村上精華堂(江戸東京たてもの園)
米山勇先生のミュージアムトーク「村上精華堂 ―看板建築とオーダー」を聞いてきました。
この日は午前中すごい雨で行くかどうか迷ったのですが、午後になり小雨になったのでえいや!と出かけました。そしてやっぱり楽しい、いつもの米山先生のトーク。行って良かったです(^0^)
村上精華堂は柱がこれでもかっ!!というくらいくっついてる看板建築。いろいろ見慣れてきちゃってるので自分の中にはすんなり心に入ってきちゃいますが、改めてみると、かなりヘンな建物ですな・・・
以下、先生のお話をまとめたものです(ところどころ個人的にツッコミ入ってます)。
理解が足りなく間違っていたらすみません。
(オーダーとは何か?)
柱の事や柱の頭をオーダーと呼ぶ人が多いが、それは間違いとのこと。
正しいオーダーの概念とは。。。まずオーダーには形と並び方の種類が5つあります。
この種類のことをオーダーと呼ぶ。
柱・梁の形、寸法を基準にした構成原理、様式のことをオーダーと呼ぶ。
つまり柱そのものではなく柱の様式=オーダー、ということみたいです。
具体的にその5種類とは、ドリス式、トスカナ式(ドリス式の簡略版)、イオニア式(&イオニアモダン式)、コリント式、コンポジット式が挙げられます。
ギリシア・ローマ時代に生まれ、ヨーロッパでは19世紀、日本では20世紀までずっと力をもってきた様式です。建築にも流行り廃りがあるなかで2500年ほど生き続けたと考えるとなんだかすごいですね。
(イオニア式について)
渦巻き形の柱頭を持つオーダー。東京駅も2階の部分はイオニア式。層オーダーが得意なコンドルが造った岩崎邸にもあります。
ちなみに、層オーダーというのは、オーダーを上下に重ねることで、例えば1階の柱はトスカナ式、2階の柱はイオニア式、みたいな。層オーダーにも決まりがあって、重ねる順番があります。
3階:コリント式・コンポジット式
2階:イオニア式
1階:ドリス式、トスカナ式
・・・といった規則が。つまり、もし1階がイオニア式なら2階はコリント式・コンポジット式でないといけません。1階がコリント式なら2階をイオニア式やドリス式、トスカナ式にしちゃいけません。1階も2階もイオニア式いうのは間違いではないけれど、それほど良いやり方ではないみたいです。
(村上精華堂=イオニア式)
ファサードにイオニア式のオーダーを持って来た非常に珍しい看板建物です。そう言えば、看板建築ではオーダー自体あまり見ませんね。あって2本とかで。
上記で書いたようには同じものを使う層オーダーはあんまり良くないみたいなのに、全部イオニア式。
1~3階まで全身イオニア式。くどいくらいイオニア式。あ、この文章もくどいですか。
とにかく、オーダーを適当にやってます。いっぱいくっつけてありゃあいいか!みたいなノリです。
デザインはおそらく店主の村上さんだろうとのこと。ま、そんなところでしょうね、きちんとした建築家ならこんなのありえない。
オーダーの原理には形だけでなく寸法も含まれています。柱の太さに対して長さをどれくらいにするか、柱の間隔をどれくらいにするか、という体系が厳密にあるはずなのに、それを完全に無視した建物なんですね。例えば、真ん中の柱は太さに対して長すぎ。ジャイアントオーダーにするならもっと太くしないといけないのに。
小さい柱もな~んか適当。窓の大きさがまず先にあって、その間に柱を入れてみました感満載。
そして、このビックリな列柱で一番間違っているものは何か?
それは、建物のど真ん中に柱があることざます。普通、柱の数が奇数の建物はまずないのに平気で破ってます(法隆寺の中門が例外で柱が5本)。
でも、看板建築には様式が無いからまあ間違ってない。すべてがアリな世界です。
先生は結構おちゃめな方で、最後の方でこうおっしゃっていました。
「看板建築にはしがらみがないので、イオニア式の柱が真ん中に屹立するという、世界で初めて実現された例であるということで世界遺産並みに重要で貴重な建築であると言える・・・訳は無いです」
(柱頭がどのように作られたか)
これは木造建築で、もちろん柱も石造ではありません。擬石です。ではどうやって作るのか。
柱頭部分を柱とは別個に型枠でつくります。太巻きを作るときに使う巻き簾を太くしたようなもので、ぐるりと囲んだようなものですね。この型枠にモルタルを流し込み、おおよその柱頭の形を作作ります。渦巻きデザイン部分はさらに別個に粘土型でペロッと1枚薄いものを作って柱頭の表面の貼り付けます。村上精華堂を真下から見上げて柱頭の側面をよーく見ると貼り付けた跡があります(カメラのズームでないと分からないかも)。ちなみに、建物内の柱頭の模型は全部一体に作られているようになってますが、「間違ってますね~」とのこと。
全体としては、木型の上にラス(防水紙)、下塗り、のろ(セメントのみ)、モルタル(洗い出し)の順で塗り重ねたものとなっています。
(看板建築の特徴)
1.下から上まで看板のよう。建物の表面を下から上まで飾りたてる。
2.間口に対して高さがある。
3.軒の出がほとんどない。
木造は大正期あたりから本来3階建禁止でした(規制が外れたのは80年代。明治も規制されておらず)。
それが関東大震災のあと区画整理され、防火対策として延焼させないため道路を広げる必要があり、区画整理のせいで土地が狭くなってしまいました。個人の土地などただでさえ狭いのに、余計に狭くなってしまった訳です。で、狭くなった分、高さ高くして面積を稼ぎたい。しかし法律では禁止。
そこで妥協策が生まれていきます。土地を削った手前、見返りに規制緩和してあげようということになるのですが、さすがに堂々と3階建てはまずいので、2階の上に屋根裏を作ってもいいよーということに。それでマンサール屋根(腰折れの駒型屋根)にしたり、この建物みたいに3階部分をセットバック(建物の上階を下階よりも後退)させて、「いや~これは3階建てじゃないよ2階建てだよ」と言い逃れできるように造ってあります。
「下から上まで看板のよう」という定義からするとセットバックは看板建築としては邪道ですが。
(村上精華堂内部)
洋風なのは外観だけで中は和風、というのも看板建築の特色のひとつです。外観洋風なので窓は縦長というのは仕方ありません。
なお、村上精華堂は3階にも座敷があるし床柱もあります。狭いなりに空間の序列がきちんとあるようです。
(建築データ)
竣工 :1928年(昭和3年)
復元 :1999年(平成11年)
旧所在地:東京都台東区池之端二丁目
構造 :木造地上3階
(今日のおまけ)
見学した日は米山先生も関わった「けんちく体操」の出版日でした。これは何年か前に先生が考案したもの→こちら。
ラジオ体操みたいなものかと思いきや、建物を体で表すという、現代アートのような試みです。
ちょうど買ったばかりで持参している方がいらして先生も驚いていましたが、参加者のカメラの前で、本を片手にポーズ。頼んでないのに自らドヤ顔で決めてくれてみんな大受け! 相変わらずおちゃめな先生でした(笑)。
下記で体操の一部が見られます。アマゾンの「西洋の建築のベストセラー」でただいま2位になっている~!
けんちく体操 (エクスナレッジムック) (2011/04/23) 米山勇 高橋英久 田中元子 大西正紀 商品詳細を見る |
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