小泉政権期の正しい評価
インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「雇用は本当に改善しているのか」というタイトルで、全体で約35分のプレゼンテーションです。
・(前半)小泉政権期の正しい評価①
・(後半)小泉政権期の正しい評価②
(前半は無料の会員登録でご覧いただけます。後半は有料の会員登録が必要です。)
最近、財政健全化を目指して掲げられた、
「国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度までに黒字化する」
という政府目標の是非について、政府・与党でも様々な動きがあるようです。
(参考記事)【藤井聡】「経済財政」を巡る議論の現状をご報告します。(三橋貴明の「新」日本経済新聞、2015年1月13日)
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/13/fujii-126/
私自身は以前、
「増税し支出を切り詰める緊縮財政は、財政健全化とイコールではない。緊縮財政を行って名目経済成長を阻害すれば、プライマリーバランス赤字や財政収支(いずれも名目GDP比)は却って悪化(黒字縮小または赤字拡大)し、政府債務の対名目GDP比もまた拡大することが、実証的に確認できる。」
「財政支出を拡大する積極財政を行えば、緊縮財政と真逆のプロセスが働いて、財政健全化のための政府目標も達成に近づく。」
という議論を、本ブログ上でも二度にわたって展開しました。
(参考記事)
積極財政こそが財政健全化を実現する
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-69.html
積極財政が「国の借金問題」を解決する
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-73.html
その意味では、上記記事の趣旨に則って積極財政を行えば不況脱却と財政健全化が同時に実現し、全てが丸く収まるはずなのですが、プライマリーバランスの改善(黒字化もしくは赤字縮小)というと、どうしても緊縮財政と結びつけて議論されるようです。
今回は、
「そうした議論の混乱の背景には、緊縮財政を行いながらプライマリーバランスの改善が進んだ小泉政権期の経済政策に対する誤った評価が存在するのではないか?」
という観点から、小泉政権期の経済政策について論じてみよう、という内容です。
↓今回のプレゼンテーション資料です。
小泉政権期の正しい評価.pdf
以下はプレゼンテーションの概要です。

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戦後最長の景気拡大期とほぼ重なる小泉政権期
小泉純一郎氏が首相に在任していたのは2001年4月26日から2006年9月26日の間です。
小泉氏は「構造改革なくして景気回復なし」のスローガンを掲げ、改革のシンボルとして位置づけた郵政民営化や、金融再生プログラムのもとでの銀行の不良債権処理を進める一方で、国債の年間発行額を30兆円以下に抑制することを公約して公共事業を大幅削減するなど、緊縮財政を推進しました。
この間、金融再生プログラムを強力に推し進めた2003年頃までの株価大幅下落などがありながらも、日本経済は戦後最長の景気拡大期である「いざなみ景気」(内閣府の定義上は2002年2月から2008年2月)を迎えました。これによって経済成長率は回復傾向となり、それに伴ってプライマリーバランスも改善(図1)、政府債務の名目GDP比も一時的に縮小傾向(図2)になりました。
【図1:日本のプライマリーバランス(名目GDP比)と名目GDP成長率(前年度)の推移】
http://on.fb.me/1yMsKvU
【図2:政府純債務比率の推移(日本およびOECD加盟国平均)】
http://on.fb.me/1uwxhyc
そして、小泉政権期の主だった政策の実行を支えたのが、小泉内閣で経済財政政策担当大臣・金融担当大臣・郵政民営化担当大臣・総務大臣を歴任した竹中平蔵氏(慶応義塾大学教授)です。
竹中氏、あるいは当時その参謀的存在だった高橋洋一氏(嘉悦大学教授)などは、上記の事実に基づいて、自らの実績のアピールと共に、小泉政権期の政策パッケージこそが適切であるかのような言論を展開しています。竹中氏は現政権の下でも産業競争力会議のメンバーであり、新自由主義的な構造改革の旗振り役として、少なからぬ影響力を保持していると言われています。
また、基本的に景気拡大期だった小泉政権期は、日本銀行の量的緩和期(2001年3月~2006年3月)とほぼ重なっています。このことは、「長期デフレ不況は日銀の不十分な金融緩和が引き起こしたものであり、したがってデフレ脱却には財政出動ではなく金融緩和が重要である」とする、いわゆるリフレ派(高橋氏もその一人)の議論にも影響を与えています。
長期的な観点からは正当化できない小泉政権の経済政策
このように、小泉政権期の経済パフォーマンスがその前後よりも多くの点で勝っていたことは事実です。そう言われると、「量的金融緩和」「緊縮財政」「構造改革」がセットになった小泉政権の経済政策が評価されることに対して、何ら違和感を抱かないかもしれません。
しかしながら、小泉政権の経済政策を「成功」と見なすことは、
「橋本政権下で緊縮財政がスタートした1997年以降、実際には大幅な金融緩和が続けられてきたにもかかわらず、日本経済は全くと言ってよいほど成長していない」(図3)
「国際的に見ても、財政支出を拡大している国ほど長期的な経済成長を達成しており、緊縮財政で経済成長している国など存在しない」(図4)
という「長期的な事実」と矛盾しています。
(さらにいえば、「日本の政府純債務比率がOECD加盟国平均を上回り、加速度的に高くなったのは緊縮財政が始まって以降である」という図2で示した長期的な事実とも矛盾します)
【図3:日本の各種マクロ経済データの推移(1980~2013年)】
http://on.fb.me/1t1Nxqj
【図4:財政支出伸び率と経済成長率の国際比較(24カ国、1997~2013年の年平均)】
http://on.fb.me/1wUxylr
では、なぜこのように短期的事実と長期的事実が矛盾しているように見えるのでしょうか。
それを説明するのが、「内生的景気循環論」という理論的な枠組みです。
小泉政権期はたまたま景気上昇期と重なっていただけで、政策としては明らかな失敗
内生的景気循環論とは、「人間の経済活動そのものの中に、景気を上昇させたり下降させたりする不均衡メカニズムが内在している」という考え方で、主流派経済学とは一線を画すものです。
新古典派経済学をベースとする主流派経済学では、「経済活動を市場メカニズムに委ねるほど資源配分が最適化され、均衡状態に至る」というのが理論的な帰結です。したがって、景気変動の要因をあくまでも外的な要因に求めようとします(典型的なのが、リアル・ビジネス・サイクル理論と呼ばれるものです)。政府のマクロ経済政策も外的な要因の1つと位置づけられるため、「政府の役割を縮小した方が景気変動という不均衡もなくなり、経済が最適化する」という結論になり、新自由主義的な発想とも結びつきやすくなります。
これに対して内生的景気循環論では、市場メカニズムを徹底させても内在する不均衡メカニズムは消滅せず、むしろ場合によっては(いわば「経済人としての本性」がむき出しになり)不均衡の度合いが高まることもあり得ます。
では、実際の経済はどのように動いてきたでしょうか。
いわゆるグローバル化、特に国際資本移動の自由化が進められてきた結果、1970年代以降、巨大バブルとその崩壊を伴う大規模な経済危機が頻発するようになっているのが現実です(その最たるものがリーマン・ショックです)。
「自由化を進めるほど経済の不均衡が拡大する」という現実を前に、主流派経済学に対する信頼が失われているのは、世界的な潮流です。リーマン・ショック後、見直されるようになったジョン・メイナード・ケインズやハイマン・ミンスキーといった経済学者たちは、いずれも内生的景気循環論の世界観を共有していたことが、その著作から伺えます。
(参考文献)
ジョン・メイナード・ケインズ『雇用、利子、およびお金の一般理論』
http://amzn.to/1bSpeq8
ハイマン・ミンスキー『投資と金融』
http://amzn.to/1AHdpfq
こうした内生的景気循環論を前提とすれば、上述した短期的な事実と長期的な事実の表面的な矛盾も説明がつきます。
内生的景気循環論の下では、リーマン・ショックも、1990年代初頭の日本のバブル経済の崩壊も、「1970年代以降出現した、20年弱の周期的なグローバル不動産バブルの崩壊」の一環として理解できます。一部の非主流派経済学者は、こうした現象を「金融循環」と呼んでいます。
金融循環は、経済政策の短期的なパフォーマンスにも影響を与えます。日本の場合、不動産バブルが生じる局面では、財政支出に対するGDPの倍率(=名目GDP÷名目公的支出。以下「公的支出倍率」といいます)が上昇する傾向が見られます(図5)。すなわち、長期的には一致した動きを見せる財政支出とGDPの関係(図4)も、短期的には政策の有効性とは無関係に、景気循環の影響を受けて変動するのです。
【図5:日本の地価動向と公的支出倍率の推移(1946年~2013年)】
http://on.fb.me/1ABA4d2
図5でも明らかなように、小泉政権期は金融循環の上昇期(周期的に発生する不動産バブル期)にあたります。つまり、多少まずい政策を行っても経済成長できる環境にあったのが当時であり、そうした環境要因が、緊縮財政を行っていたにもかかわらず、戦後最長の景気拡大をもたらしたというわけです。
このように考えれば、短期的な事実と長期的な事実の表面的な矛盾も解消します。すなわち、小泉政権期の経済パフォーマンスがその前後と比べて良好だったのは、「政策が良かったから」ではなく、「たまたま良い時期にあたっていたから」に過ぎません。
仮に積極財政を行っていれば、もっと高い経済成長を達成し、財政バランスもより改善したと考えられます。現に、1人当たりGDPの国際順位で見れば(図6)、小泉政権期のパフォーマンスは過去最悪です(なお、この図に対しては、「円安によるものではないか」という指摘を受けることが時折あるのですが、2001年から2006年に至る5年間で、円の名目実効為替レートはわずか8.1%の円安、ドル円レートにいたっては4.3%の円高です。したがって、円安効果でこの大幅な順位低下を説明するのは相当な無理があります)。
【図6:日本の1人当たり名目GDPの国際順位(1980年~2013年)】
http://on.fb.me/1ui8vDo
前回も述べたように、理論的にはプライマリーバランスを改善することによって政府債務対GDP比も改善します。しかしながら、主流派経済学の想定と異なり現実の経済が内生的景気循環の影響を受ける以上、短期的なプライマリーバランスに拘泥することは、必ずしも良い結果をもたらしません。
特に、今は金融循環でいえば「景気の底」に近く、財政支出拡大が短期的なGDP増加に結びつきにくい局面です。したがって、短期的なプライマリーバランス(政府債務対GDP比も同様です)に拘泥すると緊縮財政に傾きやすくなり、より一層経済パフォーマンスが悪化します(前回消費税増税が行われた1997年もそうでした)。
政府の経済政策は、民間経済が引き起こす景気循環や、それを反映した財政収支の短期的な動向に惑わされるべきではありません。むしろ、民間経済に景気循環のような不均衡メカニズムが内在するからこそ、継続的に財政支出を拡大する積極財政を柱として経済を安定化させ、長期的な観点から日本経済を立て直していくことこそ、政府が果たすべき役割ではないでしょうか。
※日本経済再生のための財政支出拡大の必要性については、徐々に理解者・支持者が増えているとはいえ、まだまだ主要マスコミでのネガティブな報道等の影響力が強いのが現状です。1人でも多くの方にご理解いただくため、ツイッター、フェイスブック等での当記事の拡散や、ブログランキングボタンの応援クリックにご協力いただけると幸いです。
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「国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度までに黒字化する」
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私自身は以前、
「増税し支出を切り詰める緊縮財政は、財政健全化とイコールではない。緊縮財政を行って名目経済成長を阻害すれば、プライマリーバランス赤字や財政収支(いずれも名目GDP比)は却って悪化(黒字縮小または赤字拡大)し、政府債務の対名目GDP比もまた拡大することが、実証的に確認できる。」
「財政支出を拡大する積極財政を行えば、緊縮財政と真逆のプロセスが働いて、財政健全化のための政府目標も達成に近づく。」
という議論を、本ブログ上でも二度にわたって展開しました。
(参考記事)
積極財政こそが財政健全化を実現する
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-69.html
積極財政が「国の借金問題」を解決する
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-73.html
その意味では、上記記事の趣旨に則って積極財政を行えば不況脱却と財政健全化が同時に実現し、全てが丸く収まるはずなのですが、プライマリーバランスの改善(黒字化もしくは赤字縮小)というと、どうしても緊縮財政と結びつけて議論されるようです。
今回は、
「そうした議論の混乱の背景には、緊縮財政を行いながらプライマリーバランスの改善が進んだ小泉政権期の経済政策に対する誤った評価が存在するのではないか?」
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小泉純一郎氏が首相に在任していたのは2001年4月26日から2006年9月26日の間です。
小泉氏は「構造改革なくして景気回復なし」のスローガンを掲げ、改革のシンボルとして位置づけた郵政民営化や、金融再生プログラムのもとでの銀行の不良債権処理を進める一方で、国債の年間発行額を30兆円以下に抑制することを公約して公共事業を大幅削減するなど、緊縮財政を推進しました。
この間、金融再生プログラムを強力に推し進めた2003年頃までの株価大幅下落などがありながらも、日本経済は戦後最長の景気拡大期である「いざなみ景気」(内閣府の定義上は2002年2月から2008年2月)を迎えました。これによって経済成長率は回復傾向となり、それに伴ってプライマリーバランスも改善(図1)、政府債務の名目GDP比も一時的に縮小傾向(図2)になりました。
【図1:日本のプライマリーバランス(名目GDP比)と名目GDP成長率(前年度)の推移】
http://on.fb.me/1yMsKvU
【図2:政府純債務比率の推移(日本およびOECD加盟国平均)】
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そして、小泉政権期の主だった政策の実行を支えたのが、小泉内閣で経済財政政策担当大臣・金融担当大臣・郵政民営化担当大臣・総務大臣を歴任した竹中平蔵氏(慶応義塾大学教授)です。
竹中氏、あるいは当時その参謀的存在だった高橋洋一氏(嘉悦大学教授)などは、上記の事実に基づいて、自らの実績のアピールと共に、小泉政権期の政策パッケージこそが適切であるかのような言論を展開しています。竹中氏は現政権の下でも産業競争力会議のメンバーであり、新自由主義的な構造改革の旗振り役として、少なからぬ影響力を保持していると言われています。
また、基本的に景気拡大期だった小泉政権期は、日本銀行の量的緩和期(2001年3月~2006年3月)とほぼ重なっています。このことは、「長期デフレ不況は日銀の不十分な金融緩和が引き起こしたものであり、したがってデフレ脱却には財政出動ではなく金融緩和が重要である」とする、いわゆるリフレ派(高橋氏もその一人)の議論にも影響を与えています。
長期的な観点からは正当化できない小泉政権の経済政策
このように、小泉政権期の経済パフォーマンスがその前後よりも多くの点で勝っていたことは事実です。そう言われると、「量的金融緩和」「緊縮財政」「構造改革」がセットになった小泉政権の経済政策が評価されることに対して、何ら違和感を抱かないかもしれません。
しかしながら、小泉政権の経済政策を「成功」と見なすことは、
「橋本政権下で緊縮財政がスタートした1997年以降、実際には大幅な金融緩和が続けられてきたにもかかわらず、日本経済は全くと言ってよいほど成長していない」(図3)
「国際的に見ても、財政支出を拡大している国ほど長期的な経済成長を達成しており、緊縮財政で経済成長している国など存在しない」(図4)
という「長期的な事実」と矛盾しています。
(さらにいえば、「日本の政府純債務比率がOECD加盟国平均を上回り、加速度的に高くなったのは緊縮財政が始まって以降である」という図2で示した長期的な事実とも矛盾します)
【図3:日本の各種マクロ経済データの推移(1980~2013年)】
http://on.fb.me/1t1Nxqj
【図4:財政支出伸び率と経済成長率の国際比較(24カ国、1997~2013年の年平均)】
http://on.fb.me/1wUxylr
では、なぜこのように短期的事実と長期的事実が矛盾しているように見えるのでしょうか。
それを説明するのが、「内生的景気循環論」という理論的な枠組みです。
小泉政権期はたまたま景気上昇期と重なっていただけで、政策としては明らかな失敗
内生的景気循環論とは、「人間の経済活動そのものの中に、景気を上昇させたり下降させたりする不均衡メカニズムが内在している」という考え方で、主流派経済学とは一線を画すものです。
新古典派経済学をベースとする主流派経済学では、「経済活動を市場メカニズムに委ねるほど資源配分が最適化され、均衡状態に至る」というのが理論的な帰結です。したがって、景気変動の要因をあくまでも外的な要因に求めようとします(典型的なのが、リアル・ビジネス・サイクル理論と呼ばれるものです)。政府のマクロ経済政策も外的な要因の1つと位置づけられるため、「政府の役割を縮小した方が景気変動という不均衡もなくなり、経済が最適化する」という結論になり、新自由主義的な発想とも結びつきやすくなります。
これに対して内生的景気循環論では、市場メカニズムを徹底させても内在する不均衡メカニズムは消滅せず、むしろ場合によっては(いわば「経済人としての本性」がむき出しになり)不均衡の度合いが高まることもあり得ます。
では、実際の経済はどのように動いてきたでしょうか。
いわゆるグローバル化、特に国際資本移動の自由化が進められてきた結果、1970年代以降、巨大バブルとその崩壊を伴う大規模な経済危機が頻発するようになっているのが現実です(その最たるものがリーマン・ショックです)。
「自由化を進めるほど経済の不均衡が拡大する」という現実を前に、主流派経済学に対する信頼が失われているのは、世界的な潮流です。リーマン・ショック後、見直されるようになったジョン・メイナード・ケインズやハイマン・ミンスキーといった経済学者たちは、いずれも内生的景気循環論の世界観を共有していたことが、その著作から伺えます。
(参考文献)
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こうした内生的景気循環論を前提とすれば、上述した短期的な事実と長期的な事実の表面的な矛盾も説明がつきます。
内生的景気循環論の下では、リーマン・ショックも、1990年代初頭の日本のバブル経済の崩壊も、「1970年代以降出現した、20年弱の周期的なグローバル不動産バブルの崩壊」の一環として理解できます。一部の非主流派経済学者は、こうした現象を「金融循環」と呼んでいます。
金融循環は、経済政策の短期的なパフォーマンスにも影響を与えます。日本の場合、不動産バブルが生じる局面では、財政支出に対するGDPの倍率(=名目GDP÷名目公的支出。以下「公的支出倍率」といいます)が上昇する傾向が見られます(図5)。すなわち、長期的には一致した動きを見せる財政支出とGDPの関係(図4)も、短期的には政策の有効性とは無関係に、景気循環の影響を受けて変動するのです。
【図5:日本の地価動向と公的支出倍率の推移(1946年~2013年)】
http://on.fb.me/1ABA4d2
図5でも明らかなように、小泉政権期は金融循環の上昇期(周期的に発生する不動産バブル期)にあたります。つまり、多少まずい政策を行っても経済成長できる環境にあったのが当時であり、そうした環境要因が、緊縮財政を行っていたにもかかわらず、戦後最長の景気拡大をもたらしたというわけです。
このように考えれば、短期的な事実と長期的な事実の表面的な矛盾も解消します。すなわち、小泉政権期の経済パフォーマンスがその前後と比べて良好だったのは、「政策が良かったから」ではなく、「たまたま良い時期にあたっていたから」に過ぎません。
仮に積極財政を行っていれば、もっと高い経済成長を達成し、財政バランスもより改善したと考えられます。現に、1人当たりGDPの国際順位で見れば(図6)、小泉政権期のパフォーマンスは過去最悪です(なお、この図に対しては、「円安によるものではないか」という指摘を受けることが時折あるのですが、2001年から2006年に至る5年間で、円の名目実効為替レートはわずか8.1%の円安、ドル円レートにいたっては4.3%の円高です。したがって、円安効果でこの大幅な順位低下を説明するのは相当な無理があります)。
【図6:日本の1人当たり名目GDPの国際順位(1980年~2013年)】
http://on.fb.me/1ui8vDo
前回も述べたように、理論的にはプライマリーバランスを改善することによって政府債務対GDP比も改善します。しかしながら、主流派経済学の想定と異なり現実の経済が内生的景気循環の影響を受ける以上、短期的なプライマリーバランスに拘泥することは、必ずしも良い結果をもたらしません。
特に、今は金融循環でいえば「景気の底」に近く、財政支出拡大が短期的なGDP増加に結びつきにくい局面です。したがって、短期的なプライマリーバランス(政府債務対GDP比も同様です)に拘泥すると緊縮財政に傾きやすくなり、より一層経済パフォーマンスが悪化します(前回消費税増税が行われた1997年もそうでした)。
政府の経済政策は、民間経済が引き起こす景気循環や、それを反映した財政収支の短期的な動向に惑わされるべきではありません。むしろ、民間経済に景気循環のような不均衡メカニズムが内在するからこそ、継続的に財政支出を拡大する積極財政を柱として経済を安定化させ、長期的な観点から日本経済を立て直していくことこそ、政府が果たすべき役割ではないでしょうか。
※日本経済再生のための財政支出拡大の必要性については、徐々に理解者・支持者が増えているとはいえ、まだまだ主要マスコミでのネガティブな報道等の影響力が強いのが現状です。1人でも多くの方にご理解いただくため、ツイッター、フェイスブック等での当記事の拡散や、ブログランキングボタンの応援クリックにご協力いただけると幸いです。
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