業務知識とIT知識を分けて考える時代は終わったんじゃないか

昨日のエントリは思いがけずアクセスをいただきまして、はてブのホッテントリにものったようで、驚いております。ありがとうございます。ここのところお腹の中にぐるぐるしている思いを新年にかこつけて吐き出した記事で、切れない「なまくら刀」のような後味で申し訳なく思っております。

kawaguti.hateblo.jp


この記事の中で、業務知識という言葉の定義を曖昧なままに使ってしまって、ブクマコメントで「業務知識とはだな...」というご教示をいくつかいただきました。ご指摘ありがとうございます。

SIerで業務知識といえばお客さんの業務に関する知識

システムインテグレーター(SIer)方面の方は「(自分たちはIT知識を持っている前提で)、ユーザー企業の人が持っているべき知識のことを業務知識と呼ぶ」という認識なのだろうと認識します。そういえば、10年以上前になってしまいますが、業務知識はSIerに必要か?みたいなエントリが盛り上がってました。

d.hatena.ne.jp

業務知識は業務実現に必要な知識すべて ... だと思う

私はSIerにいたことがないので、そのあたりどうも疎いのですが、私としては「業務知識といえば、業務実現に必要な知識すべて」のことで、それは担当する業務によって変わってくる、ということではないかな、と思っております。そういう筋で前回のエントリを書きました。

もちろん、SIerの業務であるところの「ユーザー企業から発注をもらってシステム開発をする業務」においては、業務知識といえばお客様が実現したい業務に関する知識ということになろうかなと思います。ドメイン知識とも言ったりしますね。

で、そう考えると、マネジメント層にとっての業務知識は、部下や組織をマネジメントするために必要な知識、という感じではないかなと思います。前回のエントリで参照した米Microsoftの河野さんの話でも、マネージャーにとっての主たる業務はそこにあるようです。

logmi.jp

IT知識と業務知識って分けられなくなってきた

私の業務知識に関する認識は上記のようなものなのですが、その前提で、さらにIT知識というものをどう捉えるか、というところに前回エントリの主題がありました。伝わるように書けてなかったみたいですけれど(ごめんなさい)。

全ての業務にITが入り込んできているので、もはやITと業務を明確に分解することが難しく、業務知識の範疇にITの基本的な理解が入り込んできている、ということです。

マーク・アンドリーセンが書いたように「ソフトウェアが世界を飲み込む」の時代なので、あらゆる業務がITを一緒に考えないと回らないようになってきている、もしくは、ITをうまく使わないと競争に勝てない/儲からないというところに来ている、ということかなと考えております。(池田信夫 blog : ソフトウェアが世界を食う に一部日本語訳がありましたのでそちらもご参照ください。)

a16z.com

っていうことで、「業務知識の一部となったITがわからない経営層やマネジメント層のままで大丈夫か?」というのがエントリでの核となる問いでした。

経営陣がIT知識を持っていて瞬時に判断ができるグローバル企業との競争 

経営やマネジメントにIT知識が必須だなんて言っても、急に関係者のみなさんがITに詳しくなるわけでもないので非現実的と思うかもしれません。GAFAじゃないんだし。私もそう思ってました。Microsoftに遊びに行くまでは。

少なくとも米国で時価総額一位に返り咲いた米Micriosoftでは、エンジニアの上司はCEOまで遡ってもエンジニアないしエンジニアの言葉がさっと通じる人になったみたいです。現在のサティア・ナデラ氏がCEOになったのは2014年だそうです。30年企業ですので、それなりに分厚いマーケティング企業になっていたところを、グッと技術側に引き戻したのがここ数年の躍進につながっているのではないかとおもいます。

Hit Refresh(ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来

Hit Refresh(ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来

 

日本でも2013年に創業したメルカリや、AIで躍進するPreferred Networks(2014創業)などは、同じように経営陣までその言語で通じる人たち、な感じがします。もはや業務知識とIT知識を分けるというマインドはかけらも持ってないんじゃないかと思います。

ビジネスマンがプログラミングを学ぶ価値 

アジャイルジャパン2018で、ジャパンタクシーの川鍋社長が話していたことが印象に残っています。川鍋さんは正月休みを利用して、1週間詰め込み型のプログラミングスクールに行き、Railsを使ったプログラミングを学んだそうです。そこで発見したのは、「一文字間違えただけでも動かない。」「怖い。」ということだそうです。そのあとエンジニアに、そこで学んだようなプログラミングの延長で自社のアプリはうごいているのかを聞いたところ「そうだ」という答えが返ってきて、そのあと何もいえなくなったとのこと。

togetter.com
同じように、私にもビジネス系の若手にプログラミングを教える機会があったのですが、そこで最初に上がった声が「エラーヘル」でした。動かない。プログラミングをした人は誰でも知っていることですが、プログラムっていうのは正しく書こうとしても動かないわけです。これを肌身で理解しているかどうかは、「話が通じるかどうか」の大きなポイントかなと感じました。 

confengine.com

そんなような話をユアマイスターの高山さんにお話ししたような気がするのですが、そのあとブログにこんなことを書いてくれました。ビジネス側でキャリアを積んできた方からみても、腑に落ちる点があったようです。

takayamamusashi.hatenablog.com

結局、話が通じる組織が強そう

業務知識とIT知識の話から、長い話をしてきましたが、IT知識、開発、営業、文系、理系 ... クロスボーダーで理解し話し合わないと解けない問題が主戦場になってきた、というのが背景にあるかなと思います。ひとことで言えば、業務に関して話が通じる組織が強いということかなと。あれ、これは別に新しいことでもなさそうです。

自動車会社でいえば、現地現物や三現主義。クルマやユーザーの話が通じることを大事にしているわけです。米Microsoftであればソフトウェアやそれを開発する人々について、すぐ判断ができるくらいは知っていないと、マネジメントは開発者をサポートすることができません。簡単なことではないと思いますが、それを維持している企業が時価総額の上の方にいる感じがします。

業務知識とIT知識で分けて考えるのは、そんなに普遍的な話でもなさそうだし、あったとしてもそんな時代はとっくに終わっているのかもしれません。

金融機関とかはそうじゃない説

蛇足ではありますが、金融とかはそうじゃない...とおっしゃる方がいるかもしれませんが、AIでトレーダーが激減してみたり、当の金融機関の方はそんな悠長なことは考えてないと思います。
gigazine.net

えっと、業務知識ってなんの話でしたっけ。

SI業界が開発するシステムの目的は何か? それがつまり「業務知識」というやつで、金融や保険だったり、証券取引、財務会計、生産管理、物流・在庫管理、販売管理だったりするのだ。それぞれ必要とされる知識は非常に多い。普通の新入社員がOJTで身につけようと思ったら数年かかってもおかしくないだろう。

https://aike.hatenablog.com/entries/2008/06/15

ああそうでした。それは多いでしょうね。でも必要な知識だと思います。持たなくても食っていけるっていうのは、SIerの非常に限られた世界の常識に過ぎず、しかも、そもそもそれすら間違いなのではないかと思いました。

業務とITはもうとっくに切り離せないのだとすると、「こっから先は学ばなくてもよい」と言っていた領域がいろいろ言い訳できなくなってきてしまうなぁ、と言う感じがします。すくなくとも、相手と話せるくらいの理解がある方が、仕事が進めやすそうです。小学生向けにプログラミングを教える時代です。教材はたくさんあります。

 

ということで、またも答えはないわけですが、今後のヒントになれば幸いでございます。

 

(追記) さらに補足を書きました

kawaguti.hateblo.jp

 

Â